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再会

 大型魔物の騒ぎが終わって数日後、身体をたっぷり休めた俺たちは最前線の街に進もうとしていた。


「オフェリア、本当に良いのか?」

「大丈夫よ。お父様からも許可は貰ったし」


 あの娘バカの領主があっさりオフェリアの旅立ちを許すなんて、ちょっと信じられない。


「反対されなかったのか? 数回しか会ったこと無いのに親バカって分かる人だぞ?」

「もちろん、反対されたわ」

「また部屋からこっそり抜け出したとか、魔法で脅したのか?」

「……シグルド様の中の私はどんなけお転婆なのよ?」


 いや、両方とも自分がやったことだろう。


「旅先では同じ宿に泊まるって言ったら、行ってこいって言ってくれたわ」

「へ? たったそれだけ? リンネ、どういう意味か分かるか?」


 どうしてそれで説得が出来るのか分からなくて、リンネに話題を振ってみる。

 するとリンネは顔を赤くしてピクッと震えた。


「大丈夫です! シグルドさんは私が守ります!」

「え?」

「これからはトイレもお風呂もベッドの中も一緒に入ってシグルドさんを守りますから!」

「どうしてそうなった!?」


 今までよりストーカーがエスカレートしているぞ。

 というか、結局なんでオフェリアは旅立ちを許されたんだ?

 何故かオフェリアはくすくす笑っているし、悪戯でも成功させたみたいな笑いようだ。


「ようするに適当に嘘ついて旅の許可を貰ったってことよ。それに、私がいる方が助かるでしょ?」

「……まぁ、その通りなんだけどな」


 オフェリアの魔法の才能はずば抜けて高い。

 経験さえ積めば間違い無くオリハルコン級の魔法使いになれる。

 そんな才女が一緒に戦ってくれるならとても心強いのは確かだ。


「でも、何でオフェリアは俺たちに付いてきたいんだ? 最前線って魔王もいるところだぞ?」

「ヴァルグの街の目の前に魔王がいたらいつまで経っても要塞都市のままでしょ? 私はね。昔のヴァルグの姿を取り戻したいのよ」

「昔のヴァルグ?」

「えぇ、ここは元々もっとのんびりしていた街だったの。牛と羊がたくさんいて、みんなのんびりしているような感じね。今の熱気は昔から住んでいる人たちにはちょっと熱すぎるから」


 戦士の熱気に溢れる街の様子から牧歌的な街が全く想像もつかないな。

 でも、ずっとここで育ってきたオフェリアが言うのならそうなのだろう。


「ん? 今更な話しだけど、そんなに魔王と戦いたければ勇者たちについていけば良かったんじゃないか?」

「あぁ、あの人たちはこの街について、装備を調えたらすぐ最前線に行っちゃったから、追いかけようも無かったわね。結果的にシグルド様に会えたから良かったけどね」


 そう言われると少し照れる。

 まぁ、ただ、オフェリアにも目的がちゃんとあったことが分かった。

 猪突猛進で人騒がせな子だけど、そこまでする理由はちゃんとあったらしい。


「そういうことなら頼りにさせてもらうよ」

「えぇ、私の力が必要なら何でも言ってくれて構わないわ」


 とまぁ、こういう訳でオフェリアが正式に仲間になった。

 こうして、俺たちは魔王と勇者のいる最前線のフロイトに向かうのであった。



 ヴァルグから先へ進むと、常に空が曇り始めた。

 雨は降らないけど、どんよりと厚く黒い不気味な雲だ。

 草木は精気を失い、野生の動物は見当たらない。

 かわりにスケルトンの魔物が悠々と闊歩している。

 そんな荒野の入り口に建てられた城塞が人類の最前線基地フロイトはあった。


「ギリギリって感じだな」


 俺の第一印象に二人が小さく頷く。

 高く積まれた石の城壁は所々崩壊していて、作業員が必死に修復をしている。

 兵士たちも疲労が溜まっているようで、立っているだけでも辛そうな顔色をしていた。


「街に入る許可を貰えるか?」

「ん……、あぁ、冒険者か。通って良し」

「あんた大丈夫か?」

「大丈夫だ。ただここ最近魔王軍の襲撃が多かったが、勇者様の意識が戻ったからな」


 そういえば意識不明の重体になっていたとか言っていたっけ。

 目を覚ましたのならちょうど良かった。


「そうか。それじゃあ、早速ギルドで到着の登録をしたいんだが」

「冒険者の区画はあっちだ。ギルドの出張所で空き部屋を用意してもらってくれ」


 門番の案内に従って要塞内を進むと冒険者の集まる部屋が現れた。

 クエストボードに受け付けもいて、小さいながらもギルドの体裁を保っている。

 そして、そこには昔ともにパーティを組んだ金髪の青年と、黒髪の魔法使い、茶髪の僧侶がいた。


「勇者アーク、魔法使いククル、僧侶シンシア……」


 忘れもしない。俺を捨てた奴らの名前。


「……シグルド?」

「あぁ、久しぶりだなアーク」

「何で君がこんなところにいるんだ!?」


 アークが亡霊でも見かけたかのように驚いている。

 いや、アークだけじゃないククルもシンシアも何で俺がここにいるかさっぱり分からず驚いているらしい。


「そりゃ冒険者だからな」

「そうじゃない! 君ではここの戦いについていけない! 何せ君は普通だ!」

「あぁ、そういえばそんな理由でパーティを追放されたっけ」

「そうだ。それなのにどうしてこんなところに? まさか、あのギフトには何か隠された効果があったとかか?」


 おっと、なかなか勘が鋭いじゃないか。

 いや、それとも、俺がいたらどうなっていたか? ということを考えたことがあったのか?

 例えば、リンネの言っていた通り、俺のギフトの効果から外れた時から、アークたちは苦戦をしていたのかもしれない。

 そして、何となく俺がいないことで苦戦することが増えたかも知れない。それぐらいは考えがよぎったのかもしれないな。


「いいや? 普通は普通さ。普通に使えるギフトだったってくらいだ」

「だったら、今すぐ帰った方が良い。君の仲間も――いや、君の仲間はすごく優秀そうだ。かなり高レベルな魔法使いと僧侶なんじゃないか? ククルとシンシアに負けないくらいだ」


 アークの提案に俺は噴き出しそうになった。

 また俺から奪う気でいるのか。笑いそうになったけど必死に我慢だ。


「アーク、悪いがこの二人はお前には預けられない」

「何故だ? 僕達の方が君よりも強いんだぞ?」

「何言ってるんだよ? お前たちなんかに二人を預ける訳ないだろう? 俺がいなければ普通に魔物に殺されそうになるくせに」

「なっ!? シグルド、君にだけは言われたく無い!」


 アークが声を荒げた。どうやら虎の尾を踏んでしまったらしい。

 でも、こっちはとうの昔に踏まれているんだ。

 だから、どうしたと言ってやる。


「だったら、そうだな。要塞の外の魔物をどっちが倒すかで勝負だ」

「分かった。ただし、条件がある。魔物を探す時は一緒に行動すること。ここの魔物は本当に強い。そちらの二人が殺されないように守らないと危ないからな」

「それで良いよ。確かにそっちの三人は俺が側にいないと殺されかねないからな」


 さりげなく俺の数をカウントから減らしてイラッと来たので、こっちも精一杯挑発してやった。

 お前達が弱いとバカにした俺の力を存分に見せて、見返してやるんだ。


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