夕食作り
「ナタリー、ティア、手伝いに来たぞ。」
「わっ、ありがとうございます。」
「あ、ハル様、良い所に来てくれました。」
「ん? 何か問題でも有ったの?」
「いえ、実はお願いしたいことがあります。」
おっ? ティアがお願いとは珍しいな。もちろん可愛い奥さんの頼みだ。何でも聞いちゃうぜ!
「いいよ、どんなこと?」
「あ、あの、その、えっと……」
「うん? 何? 遠慮しないで言ってごらん?」
ティアさんが、モジモジしながら何かを言いにくそうにしている。
「あ…」
「あ?」
「油……揚げ……を、作って欲しい……です……」
なる程、自分も食べたいから恥ずかしがっていたのか。
顔を真っ赤にして頼むティアさん最高です!!
「はい! 喜んで!!」
もちろんOKだ! よ~し、パパ頑張っちゃうぞ~!!
と言うことで、今回は予備も含めて多めに作ることにしようと思う。取り出したのは豆腐が25丁だ。
1丁で4枚ほど作れるので、100枚作れる計算だ。
まずは水切りだな。
(中略)
「よし、完成だ!」
最期の1枚を揚げ終わったところで、次の作業に入ることにする。
「ふぅ~! ふぅ~! ふぅ~!」
「・・・・」
「ふぅ~! ふぅ~! ふぅ~!」
「……ティア?」
ビクッ!
「は、はい! 何でしょうか!」
「ちょ、ちょっと味見してみるか?」
「はい! 是非!!」
「お、おう。」
正直、耳元で興奮した息遣いを聞いていると、色々とヤバいことになりそうなので、とってもやりにくいのですが?
それにしてもキツネの獣人にとって、油揚げって猫にマタタビみたいな物なのだろうか? それとも麻薬だろうか? もしそうなら食べさせて大丈夫なのだろうか?
いや、別に原料のダイツも加工した豆腐も問題無いから大丈夫のハズなのだが、あの状態のティアさんを見ると正直自信が無い……
とりあえず1枚の油揚げを4等分して試食してみることにした。
「はい、ティアあ~ん。」
「あ~ん。」
パクリ…
「ん~~~!! 最高です!!」
案の定、ティアさんはテンションMAXに。
「あ~ん。」
ナタリーさんも口を開けて待っていた。あーうん。分かりました。
俺は、油揚げを食べさせてあげた。
「ん~、美味しいですけど、少し味気ないですね。」
「まー味付け無しだと、豆と油の味しかしないからな。」
俺も煮物やお味噌汁、炒め物等の料理に使うならまだしも、そのままだと微妙だと思う。
「さ、さて、シャルのためにどんな味付けにしようかな。」
横目で物欲しそうにしているティアさんを無視して作業に戻ることにした。
この前はきつねうどんだったから、今回は違う物にしようと思う。何が良いかな……
「ここはやっぱりキツネにあやかって、稲荷ずしを作ろう。」
そうと決まればアイテムボックスから必要な材料を取り出すことにした。
取り出したのは、酢、砂糖、塩、コンぷー、カッツオぶし、溜まり醤油、むりんだ。
「ナタリー、ご飯って有る?」
「いえ、今から炊く予定でした。」
「そっか、なら丁度良かった。
じゃあ、ナタリーはご飯を炊いてくれないか?」
「わかりました。」
「でだ、炊くときにこのコンぷーを入れて一緒に炊いてくれ。」
「あ、はい。」
「炊き上がったら教えてくれな。」
「はい。」
よし、これでご飯についてはナタリーさんに任せて問題ないな。
「よし作るか!」
「ハル様、お手伝いします。」
「おう。じゃあティアは……そうだな、油揚げの油抜きを頼む。」
「油抜き?」
「この前は省いちゃったけど、味を染み込ませるには油を抜いた方がよく味が染みるんだ。
やり方は、熱湯で5分ほど茹でるだけなんだけどね。」
「わかりました。」
ティアさんに50枚の油揚げを渡してお願いした。
じゃあ俺は、タレを作るとしますか。
魔力水1リットルに、コンぷー15cm、カッツオぶしを5掴み程を入れ、火にかける。
沸騰した所で火を止め、コンぷーとカッツオぶしを布で濾して取り出して、だし汁を鍋に戻す。
溜まり醤油を大さじ10、むりんを大さじ7、砂糖を大さじ12程入れて火にかける。
さて、ティアさんの方はどうなったかな?
ちらりとティアの方を見ると、油揚げをつまみ食いしようとした現場を発見してしまった。
「ティア?」
ビクッ!!
ティアさんのシッポが膨らんで毛が逆立った。
「は、ハル様? いえ、こ、これは……そ、そう! キチンと出来たか確認しようと……」
つまみ食いがバレて、思いっきり焦りながら言い訳してきた。
何この生き物。物凄く可愛いんですけど? お持ち帰りしても良いでしょうか?
あっ、俺の嫁でした。サーセン。
「ほら、あ~ん。」
俺は、先ほど4等分に切ったあまりをティアにあげることにした。
「あ~ん♪
ん~~~!! 最高です~~~!!!」
喜んでもらえて何よりです。
「で、そっちの状況はどうだ?」
「あ、えっと、で、出来ました。」
うん。知ってた(笑)
何はともあれ丁度良いタイミングでティアが油抜きが終わったみたいだ。
「よし! じゃあこれを半分に切って、こうして袋状にしてくれ。半分は俺が作るから、残り半分はティアに任せた!」
俺はお手本に1つ作って見せたあげた。
「はい。頑張ります。」
俺達はせっせと油揚げの袋を作って行く。今度は大丈夫だよな?
・・・・
「出来ました。」
大した手間じゃないのですぐ終わった。今度はつまみ食いは無かったみたいだ。
「次はどうするんですか?」
「次は……うん、良い感じに沸騰してきたな。
鍋に全部入れてくれ。」
「わかりました。」
ティアが鍋に準備した油揚げを投入する。
「後は10分ほど煮詰めればひとまず完成だ。」
「じゃあ私が鍋を見てます。」
「そう? じゃあ頼むよ。俺はナタリーの方を手伝ってくるから。」
「わかりました。」
俺はナタリーさんの方へ移動……しようとして、振り返って声を掛けた。
「食べないでね?」
俺がそう言うと、ティアさんが飛び上がる勢いでビクッっとした。
「た、た、た、た、食べません……よ?」
「あはははっ、じゃあ行って来るな。」
「もう、ハル様もイジワルです。」
ティアさんを十分にからかって満足したので、俺は今度こそナタリーさんの所に向かうのだった。
「ナタリーどうだ?」
「えっと、あとちょっとです。」
今は蒸らしている状態みたいだ。なら今の内に合わせ酢を作ってしまおう。
「本当だったら米酢が欲しかったんだが、この世界ではコメは雑草だからなぁ……まあ良いか。」
無い物は仕方がない、欲しいなら自分で作るしかない。作り方なんか知らないけどな。
多分酢の作り方さえ分かれば行けそうな気はする。後で機会があったら挑戦してみても良いかもしれない。
とりあえず酢をカップ1、砂糖大さじ15、塩大さじ3を器に入れてかき混ぜる。
「ハルさん、出来ました。」
蒸らし終わったのか、ナタリーさんがご飯を持って来てくれた。
俺はそれを受け取り、蓋を開けてみる。昆布とご飯の混ざった良い匂いがふわっと広がった。
「旨そう……」
「良い匂いですね。」
「だな。でも今は我慢してくれ。
俺が合わせ酢を入れながら混ぜるので、ナタリーはそこの板で扇いでくれ。」
「わかりました。」
俺は合わせ酢を加えながらしゃもじで混ぜて行く。この時斜めに入れるのがコツだ。
味見をしながら味を調えて行く。
「こんなもんだな。」
満足な出来具合だ。これならば美味しいいなりずしが出来そうだ。
「ハル様、こんな感じで宜しいでしょうか?」
ティアが声を掛けてきたので確認してみると、十分に味が染み込んでいて旨そうだ。
「いいんじゃないかな? 流石はティアだ。」
「あ、は、はい。」
「? まあいいか。じゃあ最後の仕上げをするぞ。ナタリーとティアも手伝ってくれ。」
「「は~い。」」
「この油揚げにこうしてご飯を詰めたら完成だ。」
サンプルとして1個作ってみた。
「「わかりました。」」
3人でせっせといなりずしを作って行くのだった。
・・・・
「終わった~!」
なんとか作り終わり、大皿に並べていく。
並べ終わったところでふと気が付いた。
確か50枚の油揚げだったよな? 半分に切ったから100個のいなりずしが出来るハズだが、98個しか無かった。
「ティア、何か知らないか?」
「は、ハル様。な、何のことでしょうか? 何も知りませんよ?」
流石に口笛は吹いてはいなかったが、ティアさんが大汗をかいて向こうを向いていた。煮込み具合が完璧だったし、多分食ったんだろうな。
別につまみ食いしたからと言って怒るつもりも無かったのだが……
まぁ、こういった貴重なティアさんが見れただけでも儲けものだったかもしれない。
「知らないなら大丈夫だ。シャルが待ってるし、夕食にするぞ。」
「「は~い。」」
完成した料理を持って俺達は食堂へ向かうことにした。




