ヨンマ
ダンジョンへ向かう最中、見知った顔を見かけた。
「あれは……ロン君か?」
ロン君はニコニコ顔で優しそうな大人の女性と一緒に歩いていた。もしかしてあの女性がロン君の母親だろうか?
見た感じ、少し体の線が細い感じだが元気そうなので、きっと病気が治ったんだと思う。
「じゃあ、お母さん。僕こっちだから。」
「ええ、気を付けて行って来るんだよ。」
「うん! お母さんもね!!」
ロン君が元気よく返事をすると、手をブンブンと振りながら走って行った。
「さてと、私も頑張らなくっちゃね。」
ロン君の母親がそう言うと、反対方向へと歩いて行った。
俺はそんな光景を何と無しに眺めていた。
「良かったですね。」
「ん? あ、あぁ、そうだな。」
ナタリーさんが声を掛けてきたので返事をしておいた。どうやらロン君を見ていたのがバレていたみたいだ。
いや、ナタリーさんだけで無く、みんな温かい目でこっちを見ていた。止めて! そんな目で俺を見ないでくれ~!!
「ほ、ほら行くぞ!」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
何となく居たたまれない気持ちになったので、誤魔化す様にその場を離れるのだった。
・・・・
ダンジョンの入り口に到着した。
「じゃあ、油断無く行くぞ~!」
「任せるのじゃ。」
「頑張る。」
「任せて~」
「頑張ります。」
「はい。」
俺達はダンジョンへと入り、サクサクと攻略していく。
地下7階まで到着し、釣り人を横目に歩いていると、ある釣り人が丁度ヨンマを釣り上げたのを見かけた。
「ヨンマが食べたい……(ぼそっ)」
塩焼きにして、大根すりと一緒にホカホカご飯と一緒に食べたら最高だろうな。さらにビールが有ったら文句なしだ。
……ゴクリ。
駄目だ。もう俺のお腹がヨンマを欲している。都合が良いことに、アイテムボックスには、この前釣ったヨンマが入ってる。
お昼にはまだ少し早いが、休憩がてら早めのお昼を食べても良いかもしれない。
「な、なぁ。ちょっと早いけどお昼にしないか?」
「ご飯!」
「えぇ~? まだお腹空いてないよ~?」
「あたいもそれほどじゃ……」
「ハルさん、簡単なので良いなら作りましょうか?」
「私も手伝います。」
シャルは喜んでいるが、女性陣が今一つの反応だな。どうすっかな。
だが、俺は自分の道を行くことにした。
「お昼を食べるのは食べたい人だけにして、休憩にしようか。」
「まぁ、ハルがそう言うなら、あたいは構わんが。」
「私も良いよ~」
「ん、わかった。」
「わかりました。それでは何を作りましょうか?」
「頑張ります。」
よし! 全員の了解を得られたことだし、そうと決まれば準備をせねば。
「じゃあ、ティアはご飯を頼む。ナタリーはDAICONをおろしてくれ。」
「はい。」
「わかりました。」
俺はヨンマの準備だ。前回は簡単に処理して焼いてしまったが、今回はしっかりと下ごしらえをして焼くつもりだ。
しかも今回は棍棒の焚火では無く、炭火で焼くことにする。
まずはヨンマの下処理からだ。
生活魔法の水で軽く洗って、ぬめりを取った後、包丁の背を使って残っている鱗を削り落とす。
鱗を落としたら、包丁で×に切れ目を入れておく。これをすると火が通りやすくなるからだ。
軽く水気をふき取り、塩を満遍なく振りかけてから20分ほど放置する。
待っている間に炭火の準備をしておこう。
20分経ったので、次の作業に進むことにする。
塩による浸透圧で出てきた水分をふき取り、今度はパラパラとあら塩をまぶす。これで準備完了だ。
早速焼くことにしよう。中火程度の火力で焼くのがコツである。
ジュ~~~~~~~~!!
このヨンマを焼いている瞬間ってたまらないよね。油が落ちてチュンチュン言ってるのがまた何とも……
この感覚と言うか気持ちは、何と言うか上手く説明が出来ない。まずはやってみろとしか言えない。きっと納得してくれると思う。
ジュ~~~~~~~~!!
そろそろ良い感じに焼き目も入って来た。……ここだ!!
俺の中でもベスト3に入るくらいの焼き具合だ。これは食べるのが楽しみである。
「出来たぞ。」
「お魚!」
「えっと、ハルよ。あたいも食べて良いかの?」
「ハル君、私も食べて良い? 見てたらお腹減って来ちゃった~♪」
そうだろそうだろ~
ヨンマの塩焼きは抗うことが出来ない魅力があるからな。
「相変わらずハル様は凄いですね。」
「シャルティアさん。一緒に頑張りましょう。」
「はい。」
単なる塩焼きだよ? そんな大したことはして無いじゃん。大げさだなぁ~
何はともあれ、出来立てのヨンマの塩焼きを頂くことにしよう。
パクリ……うはっ! ホロホロと崩れる身と絶妙の塩加減がまたたまらん!!
やっぱりビール……じゃなかったエールが欲しいが、今はダンジョン攻略中だ我慢しよう。
代わりにご飯を一緒にかき込む。最高~!!
今度はDAICONに溜まり醤油をちょっと掛けて、ヨンマと一緒に頂く。
くううううぅぅぅ~~~!! たまんね~!!
あーさらに贅沢を言うなら、カボスが欲しい……
もぐもぐむしゃむしゃ……ごっくん。
「ごっそーさん。」
ふぅ~満足満足。やっぱりヨンマは偉大であった。




