その夜
冒険者ギルドを後にした俺達は、宿屋へと帰ってきた。
「ふぅ、疲れた。」
「あ、ハル様お帰りなさい。」
「ケリー、ただいま。」
一瞬いつもの様にケリーの頭を撫でようとしたが、今はアイリさんから貰った髪留めを付けており、すっかりと女の子になっていたため、思わず伸びた手を引っ込めた。
「あっ……」
ケリーがその手を悲しそうな目で見ていた。何かすげー罪悪感ががが……
「ご、ごめん。俺、ケリーが女の子って知らなくてさ、今まで気軽に頭を触ってゴメンな。」
「い、いえ、別に嫌だった訳じゃ……」
「ハル君、女の子にその言葉は失礼じゃないかな? かな?」
アイリさんが怒っているが、アイリさんもケリーが女の子って気が付いてなかったんじゃ無かったっけ?
「あーうん。ホント重ね重ねごめん。」
「いえ、今までボサボサの髪型で、こんな格好していたし、僕って言ってるから仕方ないです。」
それでも勘違いしていたとは言え、間違っていたことに対しては俺が全面的に悪いからな。
「だけど、今はすっかりと女の子だ。可愛いぞ。」
「はい! ありがとうございます。」
……おっと、シャルの機嫌が悪くなりそうなので程々で終わらせておこう。
「じゃあ、俺達は部屋に戻るな。また後で。」
「はい、それでは!」
俺はひとまず逃げることにした。
ドサッ!
「ふぅ~、疲れた。」
部屋に戻ってきた俺は、ベットに腰掛けて一息入れる。
「シャル、ちょっとおいで。」
俺がシャルを呼んで、膝の上に座らせた。
「ハル様?」
「いや、ちょっと疲れたんで、シャルに癒して貰おうかな~と思ってさ、ダメか?」
「うん!」
シャルが嬉しそうにしたので、頭を撫でてあげた。もちろんお耳も触らせて貰う。
シッポは……他の人の目も有るし、遠慮しておこう。残念である。
「あはははっ、ハル君お疲れ~」
「まぁ、そのなんじゃ……大変じゃの。」
「お疲れ様です。」
シャルは何のことか分からずポカーンとしており、ティアさんはそれを温かい目で見ていた。
「お腹が空いたのじゃ。」
「ご飯!」
「お腹べこべこ~」
「あ、じゃあ、すぐに夕食を作りに……」
「お手伝いします。」
「2日かけてダンジョン行って疲れてるだろうし、今日は食堂で注文しないか?」
「そうですか? 残念です……」
「はい。わかりました。」
ナタリーさんも疲れているだろうに、そう言ってくれたのは有難いが、今日は楽をさせて貰おう。
だから、そんな悲しそうな顔をしないで欲しい。
「じゃあ行こうか。」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
俺達は食堂に向かい、適当に空いているテーブルに着いた。
「ケリー、夕食を人数分頼めるかな。」
「あとエールじゃ!」
「あ、私も~」
「私もお願いします。シャルティアさんもですよね?」
「はい。お願いします。」
「ジュース。」
「じゃあ、エールが5杯と、ジュースを1杯頼む。」
「はい、分かりました。少々お待ちください。」
ケリーがそう言ってキッチンへ向かって行った。
「後はスカートさえ履けばバッチリだな。」
去っていくケリーの後ろ姿を見て、思わず考えたことが口に出てしまった。
えっと、シャルさん? そんなに睨まないで頂けないでしょうか?
俺は誤魔化す様にシャルの頭をグチャグチャにするのだった。ついでにお耳もムニムニだ(笑)
シャルは複雑そうな顔をしていたが、怒っては無いみたいだ。
「エールとジュースををお持ちしました。」
「待ってたのじゃ!」
飲み物を受け取り皆に配る。
「では、後ほどお食事も持ってきます。」
そう言ってケリーは再び離れて行った。
「さて、折角のエールが来たんだし、先に乾杯しちゃおうか。」
俺がそう言うと、皆さんニコニコしながらジョッキを俺の方に差し出してきた。
はいはい。フリージングっと。
「じゃあ、無事ダンジョンから帰宅できたと言うことで乾杯~!」
「「「「「乾杯~(なのじゃ)!」」」」」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ……ぷはぁ~!!
くううぅぅぅ~~久々のエールが胃に染みるぜ!!
その後ケリーが夕食を持って来た所で、少し雑談をすることにした。
「ケイさん達、無事に帰って来てくれると良いんだけどな。」
「大丈夫じゃない? 結構強そうだったし~」
「そうじゃな、あたいも同意見じゃな。」
「何と言っても、アーサーさんと、モブさんのお兄さん達ですもの、きっと大丈夫ですよ。」
「アーサーさん? 誰だっけ?」
「ハルさん覚えて無いんですか? アルデの街で何度かお話ししているのを見かけてますよ?」
「えっ? アーサーさんって、あのアーサーさん? 37番の。」
「はい、そのアーサーさんです。…が、37番って何ですか?」
「い、いや、何でも無い。大した理由じゃ無いから気にしないで?」
「は、はぁ。」
アイリさんがこっちを見てニヤニヤしていた。くそっ、知ってて反応を楽しんでいるな。
「そ、そ、そんなことより、アーサーさんにお兄さんが居たんだね。」
「はい。ケイさんがそうみたいです。」
「へぇ~、あまり似て無かったから気が付かなかったよ。」
「確か義理の兄弟と言ってましたので、恐らく私とアイリみたいな感じなのでは無いでしょうか?」
「なるほどね。」
「お待たせしました。」
そこにケリーが夕食を持ってやってきた。
「ごゆっくりどうぞ。」
さて、今日の夕食はっと、お好み焼きっぽい何かとシチュー、後は串焼きとサラダだ。
まずは目を引くお好み焼きから行ってみよう。
パクリ……ほぉ! サクサクとした食感にシャキシャキ野菜のアクセントが甘辛いタレと合わさって旨いな。やるな!
ただ、お好み焼きと言うよりは、かき揚げの方が近いかもしれない。
「美味しい~♪」
「悪く無いのじゃ。」
「モグモグ…」
「あ、これ…」
「これってこの間ナタリーさんが教えたレシピのですよね?」
「はい。でも、随分とアレンジされているみたいで、このタレとか美味しいですよね。」
「へぇ~、これってナタリーが教えたんだ。だからこんなにも美味しいんだな。」
「ハルさん、それは作ってくれた人に失礼ですよ。これは作った人が頑張ったからこその味ですよ。」
「ごめん。そうだよね。」
「はい。」
俺は作ってくれた人に感謝をして、残りの夕食を頂くことにした。……他の料理は何時もと同じだったのは言うまでも無かった……
「ごっそーさん。」
さて、夕食も終わり、明日の予定を決めることにした。
「明日はどうする?」
「10階層を目指してみた~い!」
「シャルも!」
「そうじゃの、今のあたい達なら行けそうじゃの。」
「頑張ります。」
相変わらずティアさんは俺の意見に従う感じで、ニコニコ顔だ。
まぁ、10階に行く程度なら、ギリギリ日帰り出来るか。
「そうだな、一度どんな感じか行ってみようか。」
「「やった~!!」」
「腕が鳴るのじゃ。」
「頑張ります。」
こうして明日は地下10階を目指すことに決定した。
そして、今日の部屋割りを決めたのだが、ビアンカさん、ナタリーさん、ティアさんとの4人部屋に決定したみたいだ。
「えぇ~! 負けたぁ~!!」
「残念。」
「アイリもシャルもそう言うなって、また明日な。おやすみ。」
「お休みなのじゃ。」
「おやすみ。」
「「「おやすみなさい。」」」
部屋に戻り、各々湯あみを済ませた後は、ベットに入り寝ることにした。
「やったのじゃ!」
「やりました!」
「負けてしまいました……」
どうやら今日はビアンカさんが左、ティアさんが右側を勝ち取ったみたいだ。ナタリーさん南無……
ビアンカさんとティアさんに挟まれ、大小の何かに包まれ、俺は眠るのだった。
おやすみなさい……ぐぅ……




