交渉
ちょっとしたトラブルは有ったが、その後は気を付けながら戦闘を行った御蔭もあり、特に大きな問題も無く攻略をすることが出来た。
一番左下と思われる部屋の下の扉を開けると、そこは小部屋となっており、その向こうにもう一つの扉が見えた。
「恐らくこの先に通路が有りそうだな。」
とりあえず扉の向こうには反応が無いため、トラップも見当たらないことから、俺はそのまま扉を開けることにした。
案の定、扉の向こうには左右に伸びる通路が有った。
「右に進むと行き止まりだが、一度確認のために行ってみよう。」
1ブロック分だけなので、すぐに壁へと突き当たった。
「何も無いね~」
「行き止りじゃな。」
「残念。」
「まーそう言うなって、後は一度左に曲がるけれど、この通路の先を行くと階段が有るはずなんだ。
そこまで行ったら、今日は帰ろうと思う。」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
通路を進むと、特に何事も無く階段を見つけることが出来た。
「ハル君、下は~」
「行かないぞ?」
「え~!!」
「また今度な。」
「残念~」
何となくだが、地下10階はターニングポイントっぽい感じがするので、探索のついでと言うよりは、この階目的で攻略した方が良いような気がしたからだ。
「よし、帰るぞ!」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
地下9階のマップが完成した俺達は、ダンジョンを後にするのだった。
・・・・
「やっと出られた~!!」
「眩しいのじゃ。」
「お外。」
「お疲れ様でした。」
「無事に帰って来れて良かったです。」
「みんな、お疲れ。とりあえず俺は冒険者ギルド行って来るけど、みんなは疲れてるだろうし、先に帰ってても良いよ。」
「何を言っとる、あたいも行くのじゃ。」
「私も行くよ~」
「行く。」
「もちろん私も行きますよ。」
「ハル様だけに行かせるわけには行きません。」
「そ、そう? じゃあ、皆で行こうか。」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
何だかんだ言って、結局全員で行くことになったのだった。
・・・・
お昼を少し過ぎた時間だったため、冒険者ギルドの中はガラガラだった。
さっそくトルネラさんの所に向かうことにする。
「トルネラさん、こんにちは。」
「おう、こんな時間に珍しーじゃねーか、どうしたんだ?」
「昨日はダンジョン内でお試しの野営をしたので、今が丁度帰りだったんですよ。」
「なるほどな。と言うことは、奥の部屋使うのか?」
「お願いします。」
「分かった。なら先に行って準備でもしていてくれ。
俺は、ちょっとばかり仕事を片付けたら向かうから。」
「わかりました。」
俺達は奥の部屋へ向かい、テーブルの上にドロップアイテムを置いて準備をする。
「分かっていたことですが、凄い量ですよね。受付嬢じゃなくて良かったです。」
ナタリーさんがぽつりと本音を漏らしていた。うん、気持ちは良く分る。
だって今回の成果は、ホーンラビットの肉が88個、グラスウルフの肉が45個、グラスウルフの牙が45個、オーク肉が32個、棍棒(大)が100本、短槍が1本、ブロードソードが106本、グレードソードが16本、ラージシールドが106個、ロッドが2本だ。
とりあえず肉は生ものだからトルネラさんが来てから出すとして、武器・防具だけなのにも関わらずテーブルには山になっているのはちょっと凄い光景だ。
ガチャ。
「おう、待たせ……って、なんじゃこりゃ~!!」
トルネラさんが部屋に入ってきた早々、テーブルの上の武器を見て驚いていた。
「すいません。あと肉が有るのですが……」
「お、おう。」
トルネラさんが大汗を流している。冷や汗だろうか?
「すまんが肉は武器を運んでから出して貰って良いか?」
「はい。」
俺が返事をすると、トルネラさんがギルド職員を呼んで武器を運ばせていた。
もちろん入ってきた職員が武器の数に驚いていたが、仕方がないと思う。
綺麗になったテーブルに肉を出して、再びギルド職員さんに頑張って貰ったのだった。すまぬ……
「……えっと、全部で白金貨28枚、金貨5枚、銀貨6枚、銅貨3枚だな。
すまんが聖金貨は無くてな、白金貨で出させて貰った。内訳は要るか?」
「いえ、トルネラさんのことは信用してますんで大丈夫です。」
「ありがとよ、それにしてもお前らは普通の冒険者の稼ぎじゃないぞ?
下層を攻略している上級冒険者ならいざ知らず、お前らが攻略しているのって地下9階だろ? 在り得ねーぞ?」
「まぁ、すべてのドロップ品を拾ってますからね。すべて運べるんだったらこの位にはなるでしょ?」
「まーな。ただこの量を運ぶとなったら、運び屋だけで50人ほど必要になりそうだ。
そんな大人数じゃダンジョンなんて攻略は無理だろうしな。」
確かに運び屋には、ロン君みたいな戦闘が出来ない人も多いだろうし、50人も守り切れる自信は無い。
それに下手に手取りの1割を請求されたら大赤字だ。
だから下の階で高額ドロップを持ち帰れるPTじゃないとここまで稼げないってことなんだな。
「納得しました。」
「おう。」
下の階で思い出した。
「そうだ、トルネラさん。」
「何だ。」
「今、ケイさんのPTがダンジョン攻略している話は知っていますか?」
「ああ、知ってるぞ。」
なら話は早い。
「もし、ゴブリンキングの魔石が手に入ったら、譲っていただくことは出来ますか?」
「魔石か……」
トルネラさんが腕を組んで考え込んでいる。
「……600。」
「えっ?」
「おそらくケイ達はオークションでは無く、冒険者ギルドでの買取にするだろう。
冒険者ギルドでの買取は金貨400枚だ。手数料うんぬんの費用を含めて1.5倍の金貨600枚なら売ってやろう。
ただし、向こうがオークションにするって場合は、自分でオークションに参加して頑張るんだな。」
「それで構いません! お願いします!!」
「まぁ、とは言え、無事に取って来て冒険者ギルドに売ったらの話だからな?」
「はい。」
やった! これで魔石が手に入る可能性が出てきた!!
今の所持金が、先ほどのお金を足すことで約金貨380枚になる。後2~3回ほどダンジョンに行けば金貨600枚は達成できそうだ。
ケイさん達が帰ってくるのは約10日後だ。十分間に合いそうだ。これは頑張るしか無いな!!
「良かったのじゃ。」
「ハル君、頑張ろ~ね♪」
「頑張る。」
「ハルさん、さすがです。」
「・・・・」
「あれ? ティアどうした?」
ティアさんが俯いていたので聞いてみる。
「あの……ハル様。その魔石って奴隷解放に使われるのでしょうか?」
「そうだよ。」
「でしたら! シャルを! シャルをお願いしても良いですか?
奴隷の立場の私が言うことでは有りませんが……」
自分より子供の幸せを願うって、流石は母親だな。
「お母さん! シャルはずっとハル様と一緒だから、奴隷でも問題無い。だからお母さんが使う。」
「あら? 私こそハル様の妻ですから、ずっと一緒ですから問題ありませんよ?
シャルは同じくらいの男の子の所にお嫁に行くかもしれませんから、ねぇ?」
ティアさんが俺にもたれ掛かってきた。
「違うもん! シャルは、ハル様のお嫁さんだもん!!」
今度はシャルが俺の腕を引っ張る。
「あ~何だ、スマンが痴話げんかは家でやってくれねーかな。」
トルネラさんが呆れた顔で言ってきた。
「「「ごめんなさい!!」」」
俺達は頭を下げるのだった。




