見張り
パチパチ……
焚火を前に座っている。
「あ~あ、折角女の子と仲良くなれると思ってたのに残念っす!」
「さっきも言ったが、全員俺の妻なんだから、手を出したら許さないからな。」
「流石に人妻に手は出さないっす! だけどそれはそれ、これはこれっす!
少しでも見張りを楽しくしたいと思うのは仕方が無いと思うっすよ?」
まぁ、野郎と話すよりは可愛い女の子の方が楽しいからな。腹は立つが気持は分かるな。
「そう言えば、地下20階までってどのくらいかかるんですか?」
「地下20階っすか? そうっすね、今回はマップが有るのでだいたい6日くらいっすかね。」
「えっ、そんなに掛かるんですか?」
ここまで来るのに1日だから、掛かっても2,3日だと思ってたよ。
「まぁ、マップがそれほど正確じゃないってのも有るっすが、下に行くほど敵は強くなるし、広くて複雑になるっすからね。」
マップが無いと悲惨っすよ? ただ抜けるだけなのに1つの階に4~5日掛かることも有るっすからね。」
「なるほど。」
さすがに下の階層になると大変みたいだな。持ち運べる量も決まってるから食料問題とかも有るだろうし、ドロップアイテムを持って帰るのも大変そうだ。
だから運び屋以外も大量の荷物を持って居たんだな。そう考えると俺達ってホント恵まれているよな。
せめて出発するまでは色々と便宜を図ってあげるとしよう。
その後はスカウトとしてのダンジョンの有り方を色々と聞かせてもらうのだった。
・・・・
「そろそろ交代の時間っすね。」
「そうですね、お疲れ様です。」
「今回は5交代だから楽だったっす。」
「そうですね、エキストラさんと話してたのであっという間でした。」
「まぁ、お役に立てたのなら良かったっす。」
「はい、貴重なお話し為になりました。ありがとうございました。」
「じゃあ、オイラは寝るっす。また明日っす。」
「はい。おやすみなさい。」
お互い自分の野営のに戻ることにした。
さて、俺の次はティアさんだ。さっそく起こすことにする。
「ティア、見張りの時間だよ。」
俺は小声で囁きながらティアさんの体を揺すった。
「んん……」
ティアさんがパチリと目を覚まし、ニッコリと微笑んだ。
「ハル様♪」
ティアさんが両手を前に出している。えっと、手を引っ張って起こせば良いのかな?
俺がティアさんの手を掴むと、ティアさんは頬を膨らませた。どうやら違うらしい。
だが、このティアさんの怒った顔は新鮮で何か可愛いな。
「ハル様は意地悪です。」
どうやら俺はニヤニヤしながら見ていたみたいだ。
「ごめんごめん。」
「……嫌です。許しません。」
「えっ!!」
ヤバイ本気で怒らせた!?
「抱きしめて起こしてくれないと許しません。」
「えっと……はい。」
さっきの手はそう言う意味だったのか。反省である。
俺はティアさんの背中に手を回すと、ティアさんは俺の首に手を回してきたので、そのまま起こした。
「ありがとうございます。」
「こっちこそ気が付かなくてゴメンな。」
「いえ、単に私のワガママですから……申し訳有りませんでした。」
「いや、ティアのワガママは嬉しいから、これからも遠慮なく言ってくれて良いんだよ。」
「はい。」
とりあえずティアさんの機嫌も直ったみたいなので良かった。
「では、行ってきます。」
「よろしくね。」
「はい。」
元気よく返事したティアさんが、見張り用の焚火の方へと向かって行った。
そしてその時、向こうの見張りの男性が血涙を流しながら(という風に見えた)こちらを見ていたのだった。すまぬ……
「さてと、寝るとするか。」
俺は空きスペースにゴロンと横になり、明日のためにも眠るのだった。
おやすみなさい……ぐぅ……




