ケリー
宿屋に戻ってきた。中に入ると、たまたま居合わせていたケリーが出迎えてくれた。
「あっ、ハル様お帰りなさい。」
「ただいま。相変わらず家の手伝い頑張ってるみたいだな。偉いぞ!」
俺はケリーの頭をわしゃわしゃと撫でてあげた。
「うわっ、うわっ、や、止めて下さい~」
「わはははははっ。」
ドカッ!
「痛たっ! シャル!?」
どうやら俺はシャルに蹴られたらしい。
「知らない!!」
シャルはそう言って不貞腐れてしまった。
う~ん、相変わらず俺がケリーに絡むとシャルは機嫌が悪くなる時が有るんだが、歳が近いから嫉妬するんだろうか?
でも、俺的には弟……いや、精神年齢的には息子か? に対して構っているって感じなんだが、駄目なんだろうか?
「ケリー、ゴメンな。また後でな。」
「は、はい。それではまた。」
そう言ってケリーは仕事に戻って行った。
何となくだが、この件はハッキリさせておいた方が良い気がしたので、シャルと話をしてみることにした。
「なぁ、シャルはケリーが嫌いなのか?」
「・・・・」
「俺的に一生懸命頑張っているケリーが気に入ってるから構ってしまっているだけなんだが、駄目なのか?」
「うぅ~」
シャルは何かを言いたそうだが、言えないジレンマで、地団駄を踏んでいる。
う~ん、これは結構根が深いのかもしれないな。
「あの、ハル様。シャルは同じくらいの年齢の女の子が、ハル様に近づくのが嫌みたいなんですよ。嫉妬しちゃって可愛いですよね。」
「なるほど、やっぱり嫉妬なん……ん? 女の子?」
「はい。そうですけれど、気が付いてなかったのですか?」
「マジっすか?」
ケリーって女の子だったの? 今までずっと男の子だと思ってたよ……なるほど、だからシャルの機嫌が悪くなっていた訳か。
「嘘~! ケリー君って女の子だったんだ~」
「全く気が付かなかったのじゃ。」
「私も気が付きませんでした。」
アイリさんも、ビアンカさんも、ナタリーさんも気が付いてなかったってことは、俺だけじゃ無かったことに安心した。
でも、シャルとティアさんは気が付いていたってことは、獣人族には何か気が付く何かが有ったんだろうか。
とりあえずシャルには謝っておくことにした。
「シャル、知らなかったとは言えゴメンな。」
「うぅ…ハル様、ごめんなさい。」
「いや、シャルの気持ちを考えたら俺が悪い。俺も、もしシャルが他の男性と仲良くしていたら、その男性に嫉妬してぶん殴ってしまうかもしれない。」
「ハル様…」
「な、同じだろ?」
「うん!」
何とか機嫌が直ってくれたみたいだ。それにしてもケリーが女の子だったとはな…色々と気を付けないとな。
「それにしても、シャルとティアは、よくケリーが女の子って気が付いたよね。」
「それは匂いですね。」
「匂い?」
「はい。」
おそらくキツネの獣人は嗅覚が優れているのだろう。
確かにシャルを含めて、全員甘い匂いと言うか良い匂いがするし、自分は…ダンジョン帰りだし、多少汗臭いな…
男の子の匂いは嗅いだことが無いから良くは分からないが、きっと違うんだろう。
「なるほどね。」
俺は納得することにした。
「ご飯食べに行こうか。」
「わ~い。」
「お腹が空いたのじゃ。」
「ご飯。」
「じゃあ、私達は夕食を作りに行ってきますね。」
ナタリーさんがそう言ったのだが、さっきの件でも何か疲れたので今日は宿の料理で済ますことにしよう。
「いや、今日は良いよ。何か疲れちゃったし。」
「良いんですか?」
「明日からまた頼むよ。」
「分かりました。」
食堂へ向かい、空いているテーブルに着いた俺達は注文することにした。
「ケリー…さん、日替わり夕食を6つお願い…します。」
「エールも頼むじゃ!」
「あ、私も~」
「えっと、じゃあエール5個とジュースも追加で。」
「あ、は~い。直ぐにお持ちしますね。」
何となく今までの注文がしにくくなったので、ぎこちない言葉使いになってしまった。
「ハル君、照れてる?」
「そう言うのじゃ無くて、何と言うか、その、女の子に何時もの言葉使いだと…その…」
「別に気にすること無いと思うけどな~
逆にその態度だと、気にしていると思われるよ~?」
「そうかな?」
「そうだよ~」
「そっか、気を付けるよ。」
「うん♪」
アイリさんとそんな会話をしている内に夕食がやってきた。
「お待たせしました。日替わりとエールです。」
「待ってたのじゃ。」
「来た来た~、あ、そうだ、ケリーちょっと良い?」
「あ、はい。」
アイリさんがケリーを呼び寄せた。
そして、ボサボサの髪の毛を軽く整えて、サイドを髪留めて留めることで目を出す様にしてみた。
「こうすると完全に女の子って分かるね~」
何と言うことでしょう。ボサボサのショートボブで男の子だと思っていたのが、すっかりと可愛らしい女の子に大変身!
少し大きな瞳とタレ目なところがキュートです。将来は可愛いらしい女性へと変貌するでしょう。
「あ。あの、えっと。」
「だな、可愛いぞ。」
俺がそう言うと、ケリーは口をパクパクした後、貌を真っ赤にしたまま逃げて行った。
そして俺はシャルに足を蹴られるのだった…うん、すまん。
実はケリーは最初っから女の子の設定でした。




