このターコ
宿に到着したので、着替えて夕食作りをすることにする。
もちろんこのターコを調理したいので俺も参加する。
「ちょっとキッチン借りるぞ。」
「ハルさん、何かお手伝いしますか?」
「んー上手く出来るか分からないから、失敗したときのためにも、そっちは普通に夕食を作ってくれると助かるかな。」
「「わかりました。」」
ナタリーさん達が夕食を作り始めたので、俺はこのターコの処理をすることにする。
とりあえずアイテムボックスより1匹取り出す。
このターコは3kg程の大きさで、見た目は真蛸っぽい。これは期待できそうだ。
ふと、足の吸盤を見ると綺麗に並んだ形をしていた。
「メスかな?」
何匹か取り出してみると、不ぞろいのも有ったので、多分そうなのだろう。
メスの方が柔らかいとも言うし、初めて食べるのならこっちの方が良いだろう。
「それじゃあ、始めるとするか。」
まずはこのターコの頭の部分を捲る様にして、内臓を綺麗に取り出す。
その後はひっくり返してクチバシを取る。
次にボウルと塩を取り出して、先ほど処理したこのターコを入れて、塩を振りかけてしっかりと揉んで滑りを取っていく。
特に吸盤の所は汚れも詰まっている場合が有るので、しっかりと揉んで汚れも取るのがコツだ。
十分にヌメリが取れたところでしっかりと水洗いをする。
洗い終わったら、皮を剥いたDAICONで叩きまくる!
これはDAICONの分解酵素と叩くことで身を柔らかくするためだ。
最期にもう一度軽く洗って完成だ。
「これで下準備はオッケーっと。」
さて、このターコをどう料理するかが悩みどころだ。
タコ焼きにするには窪みの有る鉄板が無いから今のところは諦めるしかない。
生は…ちょっと不安も有るし、茹でてタコ刺しと、ぶつ切りにしてから揚げがお試しとしては丁度良いだろう。
そうと決まれば大きな鍋に水と塩を少々入れて火にかける。
沸騰したところで、このターコの頭を掴んでお湯の中に足だけをちゃぽちゃぽと入れる。すると足先がくるんと丸く包まるので、そしたら全体をお湯に沈めて茹でる。
ここで煮すぎると、身が硬くなってしまうので注意が必要だ。
フリージングでキンキンに冷やした水を用意しておいて、煮あがったこのターコを冷水で締める。
一番太くて旨そうな足1本を切り落とし、薄く切って行く。タコ刺しの完成だ。
一切れだけ味見で頂くことにする。
わっさbeeを乗せて、たまり醤油にちょっと付けてっと
パクリ…くううぅぅぅ~~~!! タコの甘みとワサビの風味が鼻を抜けるこの辛さ、こりゃ堪らん!!
ビールが欲しくなるな……いや、この味なら日本酒か?
確かアイテムボックスに日本酒が…って危ない危ない、思わずタコ刺しを肴に、ここで晩酌を始めてしまうところだった。
とりあえず、これでこのターコはタコと同じだと言うことが分かった。
「・・・・」
何となくだが、後1本刺身にしておいた方が良い気がしたので作ることにした。
さて、刺身が完成したのでとりあえずアイテムボックスへと入れておく。
次に作るのはこのターコのから揚げだ。
まずはフォークを使って、親の仇の如くにこのターコをめった刺しにして、後は一口サイズにぶつ切りにしていく。
溜まり醤油に、酒、胡椒、ごま油、ニンニンニクとショウガナイ、リンゴーンのすりおろしを混ぜ、小麦粉を入れて混ぜる。
革袋にこれら材料をすべてぶち込み、もみもみして味を馴染ませていく。
十分に味が馴染んだら、カッタ栗子をまぶしてから油へと投入!!
ジュワアアァァァァ~~~!!
このターコは、最初に茹でてあるので二度上げの必要は無い。高温で一気に揚げる。
キツネ色に染まったところで、油から上げて完成だ。
お皿にレトゥースと一緒に盛り付けて……あっ!
「しまったあぁぁ~~~!!」
俺が突然大声を出したことで、ナタリーさんとティアさんがビックリしたみたいだ。
「ハルさん、どうしたんですか?」
俺は今恐怖のあまりにブルブルと震えている。
「ハル様大丈夫です。私達が居ますよ。」
ティアさんがそう言いながらそっと抱きしめてくれた御蔭で、俺は少し落ち着くことが出来た。
「それで何が有ったのですか?」
「戦争が起きる…」
「「えっ!?」」
「戦争が起きるんだ。」
「は、ハルさん? 今の世の中は平和でそう言った話は聞いたことが…」
「起こるんだ!!」
「ハル様、詳しく教えて貰えませんか?」
「…覚悟をして聞いてくれ。」
「「は、はい。」」
「から揚げにレイモンを掛けるか掛けないかで戦争が起こってしまうんだ!」
「はい?」
「えっと?」
どうやら2人共納得してないらしい。
「どうやらこれの怖さを知らないらしいな。だったら試してみるが良い!!」
俺は単なるから揚げと、レイモンを絞った洗揚げを用意した。
2人がそれを食べてみた。
「「美味しいです。」」
当然だ、無いとは言わないが、から揚げが嫌いな人はあまり聞いたことが無い。
次にレイモンの掛かったから揚げを食べる。
「「美味しいです。」」
そうだろそうだろ……あれ? 反応が同じ!?
「あの、どちらが美味しいでしょうか?」
「そうですね、どちらも美味しかったですが、どちらかと言われますと、掛けて無い方でしょうか?」
「私は掛かっている方が好みかもしれません。」
やっぱり意見が分かれたか、ナタリーさんが無し派で、ティアさんが有り派だ。やっぱり戦争か…
「でも、戦争になる程じゃないと思いますよ。どちらも美味しいですし。」
「はい、私もそう思います。」
「何…だと…」
「ハルさんが何を気にしているのか分かりませんが、もしレイモンが気になるのであれば、大皿で無く、一人一人に分けたら良いのではないでしょうか?」
「あ、はい。」
言われてみればそりゃあそうか、俺は素直に人数分に分けることにしたのだった。




