トンカツ
宿屋に戻ってきた。
今日はハイオークの肉で夕食を作ろうと思う。
「ナタリー、ティア、今日は俺も手伝うよ。」
「「はい。」」
「じゃあ、あたいらは食堂で酒でも飲んで待ってるのじゃ。」
「ハル君、楽しみにしてるよ~」
「待ってる。」
「おう、期待しててくれ。」
ビアンカ達は食堂へ、俺達はキッチンへと向かうことにした。
キッチンではサンタナさんが料理を作っていた。
「おや、今日はどうしました?」
「すいません、料理がしたいので場所を借りたいのですが。」
「はい、ナタリーさん達で有れば大丈夫ですよ。」
「では、お借りしますね。」
俺は薪代を支払って、早速料理に取り掛かることにした。
まずはハイオークの肉と、キャベスリー、小麦粉、塩コショウ、ケッコウ鳥の卵、パン、オルーブ油を取り出す。
「何を作るんですか?」
「トンカツだ!」
「トンカツ…ですか?」
「作り方はそれほど難しく無いから、ナタリー達に任せようと思うんだが、どうだ?」
「はい、頑張ります!」
「ハル様、作り方を教えて下さい。」
「よし、じゃあまずはハイオークの肉を、そうだなぁ…1cm程度の厚さに切ってくれ。
切った肉を包丁の後ろで叩いて肉を柔らかくしてから、塩コショウを振って、小麦粉、溶いた卵、パンを削って作った粉をまぶしたら、油で揚げる。
後は揚がったカツをキャベスリーの千切りと合わせたらトンカツの完成だ。」
「それ程難しい物じゃないんですね。」
「揚げる時の温度さえ気を付ければ大丈夫だ。」
「分かりました。任せて下さい!」
「頼んだ。後ご飯もよろしくな。」
「「はい。」」
まぁ、ナタリーさん達なら失敗はしないだろう。
さてと、俺は俺で準備でもするとしますか。
用意するのは、黒糖、ハッチミツ、溜まり醤油、塩、酢、赤ワイン、リンゴーン、トゥメイトウ、ホワイトネギ、丸ネギ、キュロット、ニンニンニク、ショウガナイ、せロリ、グロローブ、夏メグ、シラモン、ロリえ、セーシ、ダイム、コショウ、Toカラシ、バター、ミルクだ。
勘の良い人ならこれで何が出来るか想像できるだろう。そうソースだ!! トンカツにはコレが無いと物足りないのだ。
何で今までソースが無かったのか疑問も有ったが、ジェニファーレシピには有ったので、存在自体が無い訳では無いのだろう。
単に使い切ってしまっただけなのだろうが、新たに作って残して無かったジェニファーに殺意が沸いたのは内緒だ。
まずは下ごしらえをする。材料は微塵切りにし、香辛料もすり下ろして細かくしておく。
次に黒糖をカラメル状にしてから、お湯を加えてカルメラを溶かしたら、先ほどの材料を加え、酢、堪り醤油を加えて混ぜる。
弱火で沸騰直前まで温め、火から外して冷ます。本来ならこのまま2~3日ほど寝かせるのだが、今は時間が無いので省くことにする。
冷ます間に次の準備をすることにする。
赤ワインにホワイトネギを刻んだ物を入れて火にかける。蒸発して半分ほどまで煮詰まったら、先ほど冷やした物を加えてケツチャップも投入する。
強火で沸騰させたら、ハッチミツとミルクを加え、火を止めてパターも加える。
ザルで濾したら完成だ。
久々に見たソースだが、色と言い匂いと言い、これだけで口の中から涎が出て来るな。
ちょっと味見をしてみよう。
ペロリ…
ふむ、やっぱり寝かせる作業が無かった分、味が尖ってるが、これはこれで旨いし、悪くないかもしれない。
後はザルで濾しただけなので、ちょっとドロッと材料が混じっているが、それも個性と割り切れば問題無い。
ふと視線を感じたので振り返ると、ナタリーさんとティアさんが興味津々でこちらの作業を見ていた。
「ハルさん、それって何ですか?」
「微妙に違うけれど、トンカツソースモドキ?」
「トンカツソースと言うことは、トンカツ用のソースなんですね。」
「別にトンカツ専用って訳じゃなくて、他にも使えるんだけど、そう言えば何でトンカツソースって言うんだろうな?
まあいいか、それよりソースの確認をしてみようと思うんだけど、トンカツは出来てる?」
「はい、ハル様の言った通りに作ってみたのですが、どうでしょうか?」
ティアさんが山のように揚げたトンカツを見せてくれた。
えっと、全部揚げちゃったのね……単純に見ても、一人5枚以上食べられる計算だぞ? まあ余ったら、アイテムボックスに収納しておけば良いか。
とりあえず1枚取り出して、包丁を入れる。
サク、サク、サク…
心地よい音を出してトンカツが切られ、その肉が現れた。
ハイオークの肉に寄生虫が居るのかは分からないが、中まで火が通ってるみたいなので問題無いだろう。
完成したトンカツソースを掛けてっと、よし。
「味見してみよう。」
こうして先に食べられるのは、作っている人の特権だ。
俺は一切れを取って口の中に放り込んだ。
ぱくり…うん、これだよこれ!! やっぱりトンカツにソースは最高だ!!
ハイオークの肉の旨さもさることながら、トンカツソースの酸味と香辛料の香りが鼻を抜ける感覚が堪らん!!
「美味しいです。」
「こんなにも複雑な味なのに、サッパリしてとっても美味しいですね。」
どうやら2人も好評みたいだ。これなら夕食に出しても大丈夫だろう。
またもや視線を感じた俺は、そちらを見ると、扉の蔭からケリーがこっちを見ていた。
「ケリーおいで。」
俺が手招きすると、見ていたことがバレて赤くなっていたが、こちらにやって来た。
「ほら、あーん。」
俺がトンカツを一切れ掴んで、ケリーに向けてみた。
「良いんですか?」
「おう。」
俺がそう言ったら、ケリーが口を開けてくれたので、口の中にトンカツを入れてあげた。
「おいひい!!」
ケリーが目を輝かせて喜んでいる。こんなにも喜んでくれるのなら作った甲斐が有ったって物だ。
「そうかそうか、折角だからケリーと親父さんに差し入れだ。後で食べてくれ。」
俺は皿に2人分のキャベスリーとトンカツを乗せて、ソースを掛けてあげた。
「良いんですか?」
「もちろんだ。ケリーには何時もお世話になってるからな。」
「ありがとうございます! 父さんも喜ぶと思います!!」
ケリーがスキップをしながら再び給仕に向かって行った。俺はそんなケリーをほっこりとしながら見るのだった。
「さてと、うちの腹ペコ達にも持って行かないとな。」
「うふふっ、そうですね。」
「ハル様、お皿用意しました。」
俺達は、急いで盛り付けをして、みんなが待っている食堂へ向かうのだった。




