魚釣り
途中で少し問題も有ったが、俺達は無事に地下7階へと到着した。
扉を開けて小部屋から出ると、一面水面が広がっていた。相変わらずダンジョン内とは思えない様な光景だな。
「ハル君、魚釣りやるの?」
「いや、まずはこの階を攻略してからかな。」
「そっか~」
別にここで釣りをしても良いのだが、もっと良い釣りスポットが有るかもしれないからな。
「それじゃ、行くよ~」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
今の所通路は一本道だけなので、進むことにする。
周りには沢山の反応が有るのだが、これが魔物なのか、魚なのかは判別付かないため、注意深く進むことにする。
しばらく進むと、左に通路が曲がっていたのでその通りに進む。
「あれ? 此処で終わり?」
左に曲がった先も一本道で、その先には3×3ブロックの島みたいな感じになっており、堤防みたいな感じに各方面へと延びていた。
その島の中央には、下に降りるための階段が有った。
敵に会うことも無く、あっという間に地下7階の攻略が終わってしまった。
そしてこの島には、沢山の人達が釣りをしていた。どうやらこの島は釣りスポットらしい。
「どうするんじゃ? 下の階に行くのかの?」
「う~ん。」
下に降りても良いのだが、釣りをしている人達を見ると、釣りをしたい衝動がうずうずとしていた。
「よし、釣りをするぞ~!!」
俺はアイテムボックスるより釣竿と仕掛けを取り出して、全員へと渡した。
竿に仕掛けを付けて、いざ釣りを、釣りを……あれ?
「ハル君、エサは?」
「・・・・」
「まさか忘れたの?」
「…面目ない。」
マジかよ、エサのことなんてすっかり頭に無かった。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、俺の馬鹿~~~~~!!
俺がショックを受けていると、一人の釣り人が声を掛けてきた。
「何だあんちゃん、エサを忘れたのか?」
「実はそうなんです。」
「ここまで来て釣りが出来ねーってのは可哀相だな。
よし! 俺の餌を分けてやろう!」
「良いんですか!?」
「釣り好きな奴は、みんな仲間さ、気にすんな。」
「ありがとうございます!!」
「ただ、俺もそんなに有る訳じゃないから、これだけな。」
男性がエサ箱から人数分のエサを分けてくれた。
一人1回分だけだが、十分だ。
「あの、これはほんのお礼です。」
俺はHPポーション改を男性に渡した。
「おっ、良いのかい? 助かるよ。」
「いえ、大したものじゃないですし、感謝の気持ちも入ってますから。」
「そっか、ありがとよ。じゃあ頑張れよ!」
「はい!」
俺は男性と別れて、空いているスペースへと移動することにした。
「ハル君、良かったね♪」
「おう。」
エサも手に入れたし、早速釣りますか!!
貰ったエサはイソメ…で良いんだよね? 細長くて柔らかく、触手みたいな物が沢山付いている生き物だ。
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【イソノ】
品質:C
効果:なし
多毛類の環形動物門の一種、海底に住んでおり、プランクトンを餌としている。栄螺が天敵。
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イソノ? 中〇君が野球でも誘ってくるのだろうか?
まあいい、このイソノ君を通し刺しにして…っと、これで良し!
「ハルく~ん、これ気持ち悪いよ~!! 付けて~!!」
「ハルさん、私もお願いします。」
「あたいも頼むのじゃ。」
「はいはい。」
確かに女性は苦手な人も多いし、仕方ないか。
でも、シャルとティアさんは平気みたいだな。
「はい、出来たぞ。」
「ありがと~♪」
次はナタリーさんの分を。
「はい。」
「ありがとうございます。」
最期にビアンカさんのっと。
「ありがとうなのじゃ。」
みんな自分の竿を持って各々散って行った。
それじゃ、俺も釣るとしますか。
あの辺りの反応が多いな、それ!
チャポン!
指先に神経を集中し、小刻みに竿を動かし当たりを待つ…
コツン…
来た! だが、まだだ!
コツン、コツン……クンッ!
「今だ!!」
俺は竿を上げ、針を引っ掛ける!
重い!! これは大きいぞ!!
魚の逃げる方向に合わせて竿を動かす。ここで焦ると逃げられるからな。
バシャ!
魚が跳ねた! あれはサバ…じゃなくてシャバだ!
シャバは針から逃れようと暴れるが、俺がそれを許さない!
シャバと格闘すること10分ほどして、力尽きたシャバは俺に釣れられたのだった。
「捕ったど~!!」
釣れたシャバは40cm程の大きさだった。
「おっ、兄ちゃん、やるねぇ!」
「どうも~!」
隣で釣っていたおっちゃんが褒めてくれたのでお礼を言っておいた。
さてと、シャバは足が速いから今の内に処理しちゃいますか。
桶に海水を汲んで、首を折ったシャバを突っ込んだ。
2,3分放置して血抜きが終わったところで、腹を裂いて内臓を取り出す。
もう一度海水を汲んで、良く洗い流して完成だ。
「他のみんなはどうかな。」
エサが無くなったので、様子を見に行くことにした。
「ぬぉっ、逃げられたのじゃ!」
ビアンカさんは折角かかったのに逃げらたみたいだ。どんまい。
「あ~!! エサだけ獲られた~!!」
アイリさんも駄目だったみたい。
「「釣れた!」」
シャルと、ティアさんは2人一緒にヨンマを釣ったみたいだ。どうやら群れに当たったみたいだ。
「・・・・」
ナタリーさんはジッと竿を持って水面を見ていた。
「ナタリーどうだ?」
「ひゃあぅ!」
俺が声を掛けると、ビックリしていた。
「ごめん。」
「あ、いえ、突然だったのでビックリしただけです。」
「そうか、それでどんな感じ?」
「何の反応も無いですね。」
確かにナタリーさんの糸の先は何の反応も無いみたいだな。
「ナタリー、こっちの方が居るみたいだぞ。」
俺が魚のいる方を教えてあげた。
「じゃあ、そっちにしますね。」
ナタリーさんが、場所を変えるために一度竿を上げる。
「・・・・」
「エサが有りません…」
どうやら気が付かない内に、エサだけ獲られたみたいだ。
「残念です。」
どんまい…
さて、今回の俺達の結果だが、シャバが1匹と、ヨンマが2匹の計3匹だ。
初めてにしては、中々の結果ではなかろうか。
そして、釣りの最大の楽しみと言えば、釣った魚を食べることだ!
どうやらこの階は、スライム以外の魔物は出ないみたいなので、ここで調理をすることにした。
とっておいた棍棒を取り出し、薪にすることにする。
キャンプの時に収納しておいた石のかまどを取り出して網を乗せ、薪に火を点けた。
シャバは開きで、ヨンマはそのまま塩焼きにする。
ジュー
魚の油が落ち、良い感じに焼けてきた。とっても旨そうである。
「おいおい、まさかこんな場所で魚を焼くヤツがいるとは…」
「あ、エサを譲ってくれた人。」
突然声を掛けられたと思ったら、先ほどエサを譲ってくれた男性だった。
「薪は棍棒だとしても、わざわざ石かまどを持ってきたのか? 物好きだな。」
「ええ、まぁ。」
「見てたら俺も食いたくなってきたな。その人数で3匹だけだと、物足りないだろ?
これもやるから、俺の分も焼いてもらえるか?」
「構わないですが、折角釣ったのに、良いんですか?」
「おいおい、これを見せられて我慢できるかよ。」
「そうですよね、じゃあ焼かせて貰います。」
男性が提供してくれたのは、ヨンマが5匹とシャアケだ。ヨンマは塩焼きにして、シャアケは半分塩焼き、半分はバターと塩コショウでちゃんちゃん焼きだ。
ジュ~~~~! この匂いが溜まらん。そろそろ良いかな。
「出来たぞ!」
完成した物をそのまま皿に盛る。みんなで切り分けるなんてことはせずに、そのまま突っついて食べることにした。
「旨っ!」
「美味しい~!」
「美味しいです。」
「美味しい。」
「美味しいですね。」
これだよ、これ、やっぱり捕りたて新鮮な魚は最高だ。
「ハルよ、エールが欲しいのじゃ!!」
上手い魚と美味い酒、気持ちは分かるが、さすがに他の人が居るのにエールは出せんぞ?
俺の視線で気が付いてくれたので、男性も冗談だと思ってくれたみたいだ。
こうしてダンジョン内での海鮮バーベキューを楽しむのだった。




