指輪
色んなお店をウィンドーショッピングしている最中に、一つのお店に目が留まった。
それは白い石造りのお洒落なデザインのお店だ。多分だけど王都での似た様なお店が有ったし、アクセサリーを扱っているお店だと思う。
みんなの指輪は買ってあげたが、ティアさんの分は無かったし、いい機会かもしれない。
「ティア、あのお店に行ってみない?」
「はい。良いですよ。」
了解を得られたので行ってみることにした。
まぁ、了解を得られなかったとしても行くのは決定だけどね。
「いらっしゃいませ。」
店内に入ると、店員が声を掛けてきた。
「すいません、この人に似合う指輪を探しているのですが。」
「えっと。」
店員が驚き、少し戸惑っているみたいだ。
たぶん、ティアさんが獣人で、奴隷でもあることから判断に迷ってる感じなのだろう。
ティアさんも雰囲気を感じたのか、少し気落ちしている感じだ。
「この人は、俺の妻で大事な人なんだ。だから良い物を頼む。」
「ハル様…」
「わ、分かりました。」
俺は堂々と宣言してやった。ティアさんが幸せになってくれるんだったら、他人の目なんて気にしない。
俺はこっそりティアさんに近づき、耳元で囁いてみた。
「ティア、まだ気にしてたのか? それとも俺が信じられない?」
「い、いえ! ハル様には沢山可愛がって頂いたので、大丈夫です。
そうですね、もっと自信を持とうと思います。」
「なに、もし世界の全員が敵になったとしても、俺がティアを守る。
その時は、仲間と一緒に国外にでも逃亡しようか。」
俺はすこし冗談っぽく言ってみた。
「うふふっ。そうですね、私もハル様と一緒に連れってってください。
もう迷いません。嫌だと言っても一緒に居させてもらいますからね。」
「そんなこと無いから、これを失うなんてとんでもない!」
俺はこっそりと、ティアのシッポを握るのだった。
ティアさんは一瞬ビクッっとしたが、さすがにここで声を上げることはしなかったみたいだ。
ただ、ジト目で見られてしまったのは、ご愛敬である。
「あの…」
俺達がピンク色の空間を作り出していたので、入り込むのを躊躇していたみたいだが、一区切りついたのを確認出来たので、店員が声を掛けてきた。
「は、はい!」
突然現実に戻されたため、少し驚いて返事をしてしまった。
「いくつかご用意させて頂きましたので、こちらへどうぞ。」
そう言ってカウンターの椅子を勧められたので座ることにした。
カウンターの上には傷を付けないように、布が貼られた箱に何点かの指輪が置かれていた。
ティアさんがそれを見て目を輝かせていた。
「ティアはどれが良い?」
「そうですね…あっ!」
ティアさんの目に留まったのは、シルバーのリングだった。これって…
「みなさんが付けているのと同じデザインですよね? だったらこれが良いです!!」
「確かに宝石が埋まってるし、デザインとかも似てるかな?」
俺達がそんな会話をしていたら、店員が声を掛けてきた。
「あの、もしかしたらですが、その指輪は王都でお買いになられましたか?」
「ええ、そうですが。これがその時旦那用として買った物です。」
俺は左手を出して、リングを見せた。
「間違い無いです。同じ指輪でございます。なにしろ王都のお店とこのお店は同じ商会ですから。」
「そうなんですね。ならコレが良いな。貰えるか?」
「分かりました。では、宝石の種類を選んでください。」
「ティアはどんな色が良い?」
「ハル様に選んで欲しいです。」
俺が選ぶのか…ティアさんなら赤が似合いそうだが、シャルと同じってのも可哀相か。
どうせなら他の人と違う色で、ティアさんに似合う色…
「これだな。」
俺が選んだのは、情熱の赤では無く、オレンジが少し入った黄色の宝石だ。
「ハル様、ありがとうございます!」
どうやら喜んでくれたみたいで、良かった。
「奥様にピッタリな色ですね。」
店員の反応も上々だ。
「では、指輪の調整を行いますので、こちらへどうぞ。」
・・・・
調整が終わった指輪を受け取り、お金を支払った。
料金は、王都で買ったのと同じだったため、銀貨5枚だった。
「またのご利用をお待ちしております。」
俺達はお店を後にした。
「ティア。」
俺が指輪を渡そうと思ったら、ティアさんは左手をそっと出してきたので、俺はティアさんの薬指に指輪を嵌てあげた。
「嬉しいです…」
そういってティアさんの目から涙が零れたのだった。




