薬草採取
冒険者ギルドへとやってきた。
朝のピーク時間だったため、冒険者ギルド内は混雑していた。
「よし、依頼を探すぞ!」
「うん!」
俺とシャルは、込み合っている掲示板へと突入するのだった。
相変わらずシャルは後ろにも目が有るのか? って感じに上手く避けている。
俺は…まぁ、察してくれ。
さて、特に気になる依頼は見つからなかったのだが、シャルの方はどうだったんだろうか?
シャルも戻ってきたので聞いてみることにした。
「どうだ? 何かやってみたい依頼は有ったか?」
「無かった。」
ふぃ~、掲示板の端っこにドラゴン退治の依頼が貼って有ったが、さすがに持ってくることは無かったみたいだ。
まぁ、持ってこられても無理だけどな。
「それじゃ、どうしようか?」
「だったら何時もと同じが良い。」
「同じ? ダンジョンにでも行くのか?」
「違う、薬草。」
「薬草か。」
どうやらシャルは、アルデの街の時みたいな過ごし方が希望らしい。
「よし、街の外にでも行ってみるか。」
「うん!」
俺達は冒険者ギルドを後にし、街の外へ向かうのだった。
・・・・
草原までやってきた。
「おー! あちこちに薬草が有るなぁ~」
ここが迷宮都市だからだろうか、ダンジョンに向かう人に集中するのだろう。
薬草採取をする人は少ないみたいだ。
「ハル様、勝負!」
シャルに勝負を挑まれてしまった。正直勝てる気がしない。
だけど、今日はシャルのための日だ、乗ってあげるのが大人って者だ。
「ふっふっふ…良いだろう、後で吠えずらをかくが良い。」
「かくのはハル様!」
「では勝負だ!」
「うん!」
俺達は一斉に薬草集めに散らばるのだった。
俺は薬草を摘むと同時にアイテムボックスへと収納する。これは、いちいち袋に入れる手間を省くためだ。
卑怯? 使えるのもは親でも使えと言うでは無いか。何の問題も無い。
俺は薬草を摘むだけのマシーンへとチェンジするのだった。
俺は今までの経験と勘をフル稼働で薬草を集めて行く。
ふははははっ、素早さが上がった俺の実力を思い知るが良い!!
・・・・
お昼の時間になった。このくらいで良いだろう。
「おーい! そろそろ終わりするぞ~!!」
俺は声を掛けると、シャルがこちらに戻ってきた。
俺はアイテムボックスより薬草を取り出してみた。
ふむ、170束だ。内20束は毒堕観草である。
もちろん自己新記録だ。これは勝ったな。
チラリとシャルの袋を見てみる。
袋はパンパンだから100束くらいだろうが、シャルのことだから油断は出来ない。
俺は学習する男だからな、ぬか喜びは無しだ。毒堕観草が沢山入っている可能性もあるからだ。
「シャル、どれだけ採れたんだ?」
「ふふん♪」
シャルは、とってもいい笑顔で袋の中身を見せてくれた。
「はあっ?」
なんと袋の中身は、薬草が50束、毒堕観草40束、そして何と鶏蕪徒が10束も入っていたのだ。
「ま、負けた…」
俺はガクリと膝を落とした。完敗である。
シャルは勝負に勝ったおかげで、気分が良いみたいだ。
「~♪」
シャルが喜びのダンスを踊っている。
可愛いシャルのダンスに癒された。勝負なんてどうでも良いか。
「それにしても、よく鶏蕪徒なんて知ってたな。」
「勉強した。」
「そうかそうか、偉いぞ~!!」
俺はシャルの頭を撫でまくる。
「ハル様、髪の毛が乱れる!」
「ふははははっ!」
俺はぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「もう!」
そんな怒った台詞とは裏腹に、シャルは嬉しそうなので間違っては無いハズだ。
「さて、お昼の時間だし、何か食べるか?」
「うん!」
何となくピクニック気分なので、お弁当が良いだろう。
俺はアイテムボックスより、ジェニファー愛妻弁当を2つ取り出した。
「あっ! ジェニファーのお弁当!!」
シャルはとっても嬉しそうだ。何と言っても品質Sのお弁当だからな。
普段ナタリーさんとティアさんが作ってくれるから、俺もあまり出さないし(汗)
「じゃあ食べようか。」
「うん♪」
ぱくり………………………………………………はっ!
ヤバイヤバイ! 久々だったから一瞬意識を失ってしまった。
相変わらず文句の付けようもないほどの美味さだよな。
それじゃあ、続きを頂きますか。
「あれ?」
俺の弁当は空っぽだった。
意識を失っている間にシャルに食べられた? いや、そんなことをする子じゃないよな。
俺がチラリとシャルを見る。
「食べてないよ! ハル様が夢中で食べたんだよ!」
言われてみればお腹は膨れていた。と言うことは、あまりの旨さに体が勝手に弁当を欲して、無意識で食べたってことか? 何て恐ろしいお弁当なんだ…
「いや、シャルが取ったとは思ってないよ? ちょっと聞いて見たかっただけだからね?」
だけどシャルは落ち込み、耳はペタンと、シッポも垂れ下がっていた。
俺のせいとは言え、何か可哀相になってきた。
「ほ、ほら、お詫びってのも変だけど、シャルの好きな物買ってあげるから!!」
「ホント?」
「ホントホント!!」
「やった~!!」
何とか機嫌が戻ってくれたみたいだ。ほっ…
さてと、まだ時間は有るけど、どうしようかな。
「シャル、これからどうする?」
「買い物!」
「そうかそうか、なら街に戻るとするか。」
「うん!」
「その前に、この薬草って俺が買い取っても良いか?」
「あげる…だとハル様は受け取ってくれないし、わかった。」
その通りだ。分かってきたじゃないか(笑)
「えっと薬草が50束で銀貨1枚、毒堕観草が40束で金貨8枚、鶏蕪徒が10束で金貨20枚だから…金貨28枚と銀貨1枚だな。
あ、ごめん、今細かいのが無いや、お釣り有るか?」
「要らない! そんなに要らないです!!」
「シャルよ、これはシャルに対する正当な評価だ。だから遠慮なんかするんじゃないぞ?
それに、シャルはこういう時の俺のことは良く知ってるんだろ?」
「…はい。」
どうやら分かってくれたみたいだ。諦めたとも言うがな。
「ほれ、白金貨3枚だ。」
シャルがお金を受け取り、お釣りを計算していた。
「えっと、白金貨は金貨10枚だから、3枚で30枚、金貨28枚と銀貨1枚だから…えっとえっと…」
必死に頭の中で計算しているみたいだ。そう言えばシャルに計算って教えて無かったな。どうなる?
俺は温かい目でシャルの結果を待つことにした。
シャルは必死に悩み、指を使いながら一生懸命計算している。
「えっと、金貨1枚と銀貨9枚…ですか?」
「正解~!! 凄いぞ!!」
「やった!」
シャルが胸の前に握りこぶしを作って喜んでいた。
計算なんか教えて無いのに、本当に凄い!
やっぱりウチのシャルは天才だ!!
「そろそろ戻るぞ~」
「は~い。」
俺とシャルは仲良く街へと帰るのだった。




