今日のナタリーさん 98
部屋の中に入ると、何時もの如く、中央にゴブリンナイトが立っています。
ゴブリンナイトは私達の存在を確認すると、盾を構えて突進してきました。
「炎の壁!」
まずはシャルティアさんの魔法が発動します。…が、タイミングが悪かったのか、間一髪で踏みとどまり避けられてしまいました。
そこにアイリの魔法が発動します。
「ブリザード!」
アイリの範囲魔法はゴブリンナイトへと命中!
「ギャアアァァ!」
どうやらアイリの魔法だけでは倒しきれませんでした。
「前に出るのじゃ!」
ビアンカさんが壁となり、前に出ます。
「てぃ!」
ビアンカさんが攻撃を仕掛けます。それに合わせてゴブリンナイトもカウンターで合わせます。
お互いの攻撃をお互いの盾で防ぎます。
ガガン!
そのにシャルちゃんが背後からの攻撃を仕掛けます。が、避けられてしまいました。
「炎の矢!」
「アイスウォーターアロー!」
すかさずシャルティアさんとアイリの魔法が飛びますが、左右にスペースが有るため、一つは盾で防がれ、もう一つは避けられてしまいました。
これは私も攻撃に参加した方が良いのかもしれません。
ビアンカさんが攻撃を受けたタイミングに合わせて、彼のようにゴブリンナイトの腕を目掛けて攻撃を仕掛けます!
ガッ!
ゴブリンナイトは振り下ろした剣をそのまま持ち上げて私の攻撃を跳ね返しました。あまりの衝撃に私の武器は弾き飛ばされてしまいました。
私は思わず動きが止まってしまいました。
「あっ…」
ゴブリンナイトは武器を持たずに動かない私に対し、ニヤリと笑った後に、武器を振り下ろしてきました。助けて!
「やらせないのじゃ!」
ビアンカさんが盾を前に構えての体当たりをかまします。さすがのゴブリンナイトもこの攻撃を完全には防げ無かったらしく、バランスを崩しました。
「炎の矢!」
「アイスウォーターアロー!」
そこにアイリとシャルティアさんの魔法が飛び、今度は見事に命中! 相手は虫の息でフラフラです。
最期のトドメにシャルちゃんがパイルバンカーでしたっけ? で見事倒すことが出来ました。
「やっぱりこやつは強いのじゃ。」
「だね~、何とか勝てたって感じ?」
「みなさん、怪我とかは大丈夫ですか?」
「問題無いのじゃ。」
「平気。」
「そう言うナタリーはどうなのよ。」
私も自分の体を確認します。武器を弾かれた以外は特に問題無さそうです。
「大丈夫です。それよりビアンカさん、危ない所、ありがとうございます。」
「仲間を助けるのは当たり前じゃ。気にすること無いのじゃ。」
「はい。」
私は本当に良い仲間に恵まれました。
そんなことを感謝していると、
「おいおい、あっぶねーなぁ、よくそんなんで挑戦しようと思ったもんだな。」
運び屋の男性が文句を言ってきました。
確かに私達が全滅すると、危険になるのでその気持ちは分からなくは無いです。これは反省ですね。
「俺の女になるのに、怪我されたら堪ったもんじゃねーからな。」
違いました。反省する必要は有りませんね。
もうアイリも文句を言う気力も沸かないみたいです。完全に無視しています。
もともと相手にもされていないビアンカさん、シャルティアさん、シャルちゃんも、もちろん無視です。
私も必要に迫られない限りは相手にしないことにします。
「じゃあ下行くのじゃ。」
「そうね。」
「行く。」
「頑張ります。」
「はい。」
私達は地下6階へ向けて進むことにしました。
「おぃ、武器拾わないのか。」
「それを運ぶのはアンタ、選ぶのもアンタ、後は任せるわ。
ただ、拾わなければ儲けが無くなるとだけ言っておくわ。」
「何なんだよ。」
男性がブツブツ文句を言っているが、ゴブリンナイトの装備は高いのでしっかりと拾って行くみたいです。
さて、いよいよ地下6階です。
「どっちから行くんじゃ?」
「ん~、じゃあ右にしよっか。」
「了解なのじゃ。」
ビアンカさんが扉を開けて通路に出ます。
そして、そのまま右に進みます。
「ビアンカ、その辺に罠が有るみたいよ、気を付けて。」
「分かったのじゃ……ぬぉっ!」
ズボッ!
言った傍からビアンカさんがトラップに引っ掛かってしまいました。
意表を突かれましたが、走っていた訳では無かったので、怪我をすることが無かったのは幸いでした。
「擦りむいてしまったのじゃ。」
どうやらほっぺの辺りを少し擦りむいてしまったみたいです。
私は直ぐにビアンカさんの元へと近寄ります。
「この程度、構わないのじゃ。」
「駄目です! 女の子なんだから顔の傷は駄目ですよ。それにほら、ハルさんだって顔に傷が有ったら気にしますよ?」
「うっ…頼むのじゃ。」
「はい♪」
私はビアンカさんに回復魔法を掛けてあげました。これですっかり綺麗になりました。
気を取り直して探索を続けます。最初の曲がり角の所までやってきました。
「ビアンカ居そう?」
「あたいの索敵じゃ分からないのじゃ。でもオークなら気を付けて居れば問題無いのじゃ。」
「魔法使おっか?」
「いや、居なかったら無駄になるし、大丈夫なのじゃ。」
「そう? 一応私の方も気を付けておくね。」
ビアンカさんが盾を構えて角を曲がる…どうやら居なかったみたいです。
そして、角を曲がって少し進むと、前方からオークが現れました。
「来たのじゃ!」
アイリとシャルティアさんの魔法で2体倒し、後1体!
ビアンカさんが防ぎ、シャルちゃんの一撃でオークを倒すことが出来ました。
正面からのオークなら問題無さそうですね。
その後も、何度かオークとの戦闘を行い、そろそろ戻ることにしました。
「地下7階は良いのかの?」
「それは今度ハル君と一緒に来た時で良いんじゃない? それに私達じゃトラップ見分けられないし。」
「それもそうじゃの。」
探索はここまでにして、私達は戻ることにしました。
「あ、その辺にトラップが有るみた…」
ズボッ!
「……もっと早く言って欲しかったのじゃ。」
「ごめんなさい。」
色んなことが有りましたが、何とか無事にダンジョンを出ることが出来ました。
「さっさと精算して終わりにしちゃいましょ。」
「じゃな。」
「そうですね。」
「うん。」
「私もそうした方が良いと思います。」
みんなの意見が一致したことですし、さっさと済ませることにしました。
私達は冒険者ギルドへ向かい、トルネラさんの所へと向かいました。
「おう、今日はメンバーが違うみたいだな、坊主はどうした。」
「ハルさんは、トラップ講習を受けるために、別行動です。
こちらの方は運び屋で雇いました。」
「おう、これからはお世話になるぜ。」
「…そうなのか?」
トルネラさんは疑問に思ったみたいで聞いてきました。
「今日だけだよ~」
「今日だけじゃな。」
「2回目は無い。」
「遠慮させて頂きます。」
「もちろん私も遠慮ですね。」
「がはははっ、随分と嫌われたみたいだな、まぁ当然か。」
「おいおい、俺の女になるんだろ? それは無いだろう。」
「あのねぇ~、前にも言ったけど、私達にはすでに旦那が居るの!」
「またまた冗談キツイって!」
「おい、そいつが言っていることは本当だぞ。」
「うっせ! 関係ない奴は引っ込んでろ!」
「ほぅ? 俺にそんな口聞いて良いのか? お前が参加するPTの買取を今後一切取引しなくしても良いんだぞ?」
「くっ…それはさすがに困る!」
この迷宮都市で、買取の責任者でもあるトルネラさんを敵に回すと、冒険者として生きていけませんからね。
「本当に旦那が居るのか?」
「だから、そう言ってるじゃ無いの!」
「あんたもか?」
私にも聞いてきたので頷いておきます。
「ひょっとしてこの小っこいのにもか?」
「馬鹿にするんな! あたいにも居るし、立派な大人なのじゃ!」
「恐れながら、私もご主人様に娶って貰いました。」
「はぁ? 獣人もってどんな変態だよ。まさか…この子供もか?」
「シャルは今は無理でも、将来はお嫁さんだもん!!」
「マジか…」
「そう言うことだ、諦めるんだな。ほれ、買取するぞ。
グラスウルフの牙が15、オーク肉が20個、ロングソードが1本、ブロードソードが1本、ラージシールドが1枚だな。
全部で金貨6枚、銀貨3枚、銅貨5枚って所だな、確認してくれ。」
「問題無いわ。これを6等分すると…はい、あんたの分ね。」
アイリが計算して、金貨1枚と銀貨1枚を渡した。
「多めに渡してあげるんだから、もう付きまとわないでね!!」
「けっ、ちょっとは可愛いと思ったが、お手付きで、獣人好きなんて変態が居る連中なんぞ、こっちからお断りだ!」
そう捨て台詞を吐いて、お金を受け取ったらさっさと行ってしまった。
あの人と組むのはこちらこそお断りです。
「みんなごめんね~、勝手に配分決めちゃって。」
「構わないのじゃ、下手に同じにすると絶対揉めるタイプじゃろうし。」
「そうだね、アイリの機転の御蔭で助かりました。」
ふと、シャルティアさんを見ると静かに怒っている様に見えました。
「シャルティアさん、どうしました?」
「私は本当にここに居ても良いのでしょうか?」
「当り前じゃない、急にどうしたのよ~」
「・・・・」
シャルティアさんは口を結んで何やら悩んでいます。
もしかして、先ほどの文句を気にしているのでしょうか?
「シャルティアさん、今幸せですか?」
「えっ? あ、は、はい。」
「だったらそれで良いじゃ無いですか。みんなが居て、ハルさんが居て、そんなハルさんをみんなが好きで、ハルさんもみんなのことが好き。
私はそれだけで十分です。他人がどうこう言おうと関係有りません。シャルティアさんはどうですか?」
「私もお慕いしております。でも、私が好意を寄せることで、ハル様にご迷惑が…」
「一杯迷惑掛けちゃえば良いじゃない~!」
「えっ?」
「ハル君だったら迷惑と思わないと思うよ? 逆に頼ってくれて喜ぶんじゃない?」
「そ、そうでしょうか?」
「そうじゃな、きっと鼻の下伸ばして喜ぶじゃろうて。」
「ビアンカさん、それはちょっと違うと思いますよ? でも、私もアイリの考えと同じですね。」
「・・・・」
「何、ティアはハル君と離れたいの?」
「それだけは嫌です!!」
「なら、それが答えで良いじゃない。」
「じゃな。」
「シャルも!」
「私も同意します。」
シャルティアさんは瞳から涙が零れます。
「あり…がとう…ございます。」
「ほらティア、ハル君の所に帰るよ~!」
「はい!」
私達は冒険者ギルドを後にすることにし、宿へ帰ることにしました。




