都市を散策
予定より早く終わってしまったので、まだお昼前だ。
宿に帰っても誰も居ないし、すこし迷宮都市を散策しても良いかもしれない。
さっそくぶらついてみることにした。
腹が減ったので、露店で串肉を買って食べながら適当に思いのまま彷徨ってみる。
「おっ、ここは薬屋か?」
俺も薬剤師の端くれとして興味も有ったので 寄ってみることにした。
ぎぃ…
扉の先には、魔女みたいな恰好したおばあさんが、大きな鍋でぐつぐつと煮ていた。
「あれ? 師匠?」
俺が声を掛けると、おばあさんはこちらを見た。
「誰だ!」
良く見ると、顔も声も違うし、よくよく見るとふくよかな体で、服装以外は全く違う人だった。
よくよく考えれば、此処に師匠が居る訳ないか。
「あ、すいません。人違いでした。」
「何しに来たんだい?」
「ここが薬屋っぽかったので、興味本位で寄ってみただけです。」
「そうかい、ならゆっくりして行きな。」
「ありがとうございます。」
許可が貰えたので見学していくことにした。
並べている材料からすると精力剤か? 何で師匠と言い、この人と言い、薬剤師は精力剤ばっかり作るんだろう?
確か1瓶で金貨1枚だったから、儲けるためかもしれないな。
それにしても、何かあの人の作業はたどたどしいな…
ああっ! 入れる順番もタイミングも適当じゃないか。あれじゃ品質も悪い物が出来るんじゃないのか?
「まぁ、こんなもんだな。」
それで良いんかい! 思わず心の中でツッコんでしまった。
折角なので、こっそりと鑑定をしてみた。
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【精力剤】
品質:C
効果:興奮効果上昇、機能回復
精力剤、1日2瓶まで、ご利用は計画的に
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やっぱり品質が悪いな。しかも効果が悪いせいか、1日2瓶まで飲んでも平気みたいだ。
もしかすると、2瓶で師匠の1瓶分の効果なんだろうか?
同じ材料を使っているのに、なんか勿体ないな。
「精力剤ですか。」
「分かるのかい? もしかしてお前さんも薬剤師なのかい?」
「ええ、まだヒヨッコですけど。」
「なら頑張ると良い、若い内から頑張れば、私の様な立派な薬剤師になれるだろうて。」
おばあさんの様にねぇ…師匠だったらなっても良いとは思う。
…いや、師匠もあの性格だし、実際どうだろう?
ゾクッ!
一瞬寒気がした気がしたが、きっと気のせいだろう。うん、気のせいだと信じたい。
「おばあさんの調合のレベルって幾つなんですか?」
「聞いて驚くが良い、レベル6だ。もうすぐ7になって上級HPポーションが作れるようになる予定だよ。凄いだろう?」
きっとこのレベルが一般的なのだろうな。師匠と比べるのが悪いのだろう。
でも、どうやら態度に出ていたみたいで、おばあさんが疑問に思ったみたいだ。
「あまり驚いてないみたいだね。そう言えばさっき師匠とか言っていたね。お前さんの師匠って誰なんだい?」
「俺の師匠はロッテさんです。」
「ロッテ? 何処かで聞いたことが…ってあのロッテかい? HPポーション改を開発した。」
「はい。そのロッテ師匠です。」
「なんと…道理で私のレベルを聞いても驚かない訳だ。」
どうやら調合師としての師匠は此処でも有名人みたいだ。
「ダメ元で聞いてみるが、HPポーション改の作り方とかは?」
「駄目ですね。」
「だろうね。分かっていたことだけど、仕方ないね。
最近、迷宮都市でHPポーション改が出回るようになったが、もしかしてお前さんが作ったのかい?」
「はい。俺が作りました。」
「やっぱりそうだったんだね。私も薬剤師として何時か作ってみたいものだ。」
おばあさんは遠い目をしていた。
「頑張ってくださいね。」
俺は応援しておくことにした。
結局の所、ネックになるのは聖魔力水だ。これさえ何とかなれば、HPポーション改を作ることが可能になるのだけど、それが難しいんだよなぁ…
あれ? ふと思ったんだけど、アイリさんとシャルは、創造神では無いが、他の神様の加護を貰っているよな。
もしかして聖魔力水を作ることが可能なのか? 帰ってきたらお願いして試してもらうのも良いかもしれない。
もし出来るのならば、他にも神様の加護を持って居る人だって居るはずだし、今後出回る可能性は有るぞ。
「すいません、用事を思い出したので俺はそろそろ行きます。」
「そうかい。またおいで。」
「はい。それではまた。…っと忘れてた。ポーション瓶って買えますか?」
空の瓶が何個か有ったかもしれないが、余分に持って居ても良いし、買って行くことにした。
「有るぞ。幾つ必要だい?」
「100本下さい。」
「それなら銀貨1枚だな。」
俺がお金を払うと、おばあさんが棚からポーション瓶を取り出して渡してくれた。
「ありがとう。それでは。」
他に用事も無いので、俺は薬屋を後にした。




