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運び屋


さっそくダンジョンへとやってきた。

ふと、昨日話していた運び屋のことが気になったので、入り口の所にいる人たちを観察してみた。

すると、自分の体程も有りそうな大きなリュックを背負った人たちが何人も居た。


「あれが運び屋かな?」


「そうですね、やはり戦えなそうな人が多いのは、仕方が無いことなのかもしれませんね。」


ナタリーさんが言った通り、運び屋と言われているのは、戦闘力を持って居なさそうな子供や、腕を失った人とかそんな感じの人が多いみたいだ。

中には五体満足の人も居たが、ああいった人は下の階へ行く人なんだろうな。

ふと、一人の男の子が目に入った。年齢はシャルよりも下かな? 他の子供達と比べてもとずいぶんと小さく、服はボロボロで汚れていて靴は履いていなかった。

幸いと言って良いのかは分からないが、部位欠損とかは無さそうだ。

今、あるPTに声を掛けている…が断られたみたいだ。


「どうしたんじゃ?」


「あそこに居る運び屋の子が気になったんだ。」


「あのちっこい子か?」


「ああ。」


「ハルが優しいのは美徳じゃが、誰にでも手を伸ばすのは感心しないのじゃ。」


「いや、俺もそこまでするつもりは無いよ。」


誰にでも手を出すと、いつか絶対無理が出るのは知っているからな。

もし、助けるとしたとしても、ギブ&テイクの関係で雇ってあげるくらいだ。


「行こうか。」


俺達はダンジョンに向かって歩く、例の男の子の前を通った時に必死な声で言ってきた。


「お願いします! お母さんを助けたいんです! 僕を運び屋として雇ってくれませんか?」


その言葉を聞いた俺は足が止まってしまった。

母親か…最近シャルのお母さんでもあるティアさんを助けたばかりだ。その時のシャルの喜んだ顔が浮かんでしまった。

それに俺はもう自分の母親に対して孝行をすることも出来ないんだよな…くそっ!


「みんな、ゴメン!」


「仕方ないね~」


「仕方ないの。」


「やっぱりハルさんです。」


「ん。」


ティアさんはニッコリと微笑んだだけだった。


「ちょっと良いか?」


「は、はい!」


声を掛けてもらえると思っていなかったのか、驚いて返事をした。


「お母さんがどうしたんだ?」


「病気で倒れちゃって…だから、お金を貯めて薬を買いたいんだ!」


「お父さんはどうしたんだ?」


「お父さんはダンジョンへ行ったっきり帰ってこなかった。」


おそらく、ありがちなパターンかもしれないが、父親が居なくなって母親が無理して働いたおかげで病気になったとかそんな感じか?

そして、服装から判断すると、それほど余裕のある生活をしていないって感じなのだろう。


「君を雇うとした場合、幾らだ?」


「えっと、運び屋の方に聞いた話ですと、潜る階によって違うみたいです。初めてなので良く分らないです。」


「ちなみに薬の値段は?」


「銀貨3枚って言われました。」


う~ん、助けてやりたいのは山々だが、無償で出すのは違うだろうし、他の運び屋に失礼だ。

どうしようか悩んでいたら声を掛けられた。


「そいつを雇うのは止めておいた方が良いぞ。」


「それは何ででしょうか?」


「運び屋は量を運んでこその仕事だ。そんなに小さくて力が無い奴は役に立たないぞ。」


「まぁ、そうかもしれませんね。」


「俺だったったら役に立つと思うぞ、どうだ?」


男が自分をアピールしている。雇うつもりは無いが聞いてみることにした。


「ちなみになんだが、俺達は地下5階を目指しているんだが、地下5階だとすると幾らになるんだ?」


「地下5階と言うと武器目当てか…なら最初に交渉だな、1日銀貨1枚で雇うか、運んだアイテムの1割で雇うかのどちらかだ。」


「なるほど、稼げるPTだったら後者で、前者なら万が一儲けが無かったとしても最低限の稼ぎが出来るってことか。」


「まぁな、稼げた場合は銀貨1枚だったら後悔するけどな。」


「わかった。ありがとうな。」


「と言う訳みたいだ、どっちが良い?」


俺が男の子に交渉してみた。


「おい、俺を雇うんじゃないのか?」


「最初に交渉していたのはこの子ですから、今回はこの子にします。」


「…仕方ねーか。次は俺に声掛けてくれよな。」


「すまないな。」


「良いってことよ。」


そういって男は離れて行った。

すんなり諦めてくれたのは、運び屋同士の何かが有るのかもしれないな。


「で、どうする?」


俺が聞くと、


「えっと、僕で良いんでしょうか?

 僕は小さいですし、あまり運ぶことが出来ません。」


「今日は君で良いよ。で、どうするんだい?」


男の子は少し考えた後に答えた。


「運んだ1割でお願いします。」


「わかった、じゃあ今日1日宜しくな。

 俺はハルだ、君は?」


「僕はロンと言います。宜しくお願いします。」


俺はこうして男の子ロンを雇うことにしたのだった。


何だかんだで、親切な運び屋仲間。

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