初ダンジョン 1
冒険者ギルドを後にした俺達は、さっそくダンジョンに向かうことにした。
「近くで見るとやっぱり大きい壁だよな。」
「本当に大きいですよね。」
見上げるような高さの壁は本当に凄い迫力だ。
そして、壁の門の前には色んな露店が有り、冒険者に商品を売るために必死になっている。
「松明、ランタン、ダンジョンには明かりが必要だよ~」
「ダンジョンにはHPポーションが必要だよ~、買った買った~」
「今話題のHPポーション改を取扱ってるよ~」
「最新版の地図だよ~買って損は無いぞ~」
お、HPポーション改を売ってる。確認してみると、銀貨5枚で売っていた。
あれ? 売値って銀貨4枚じゃなかったっけ? 興味が有ったので聞いてみることにした。
「あの~、HPポーション改って銀貨4枚じゃなかったでしたっけ?」
「何言ってるんだよ、それは冒険者ギルドで売ってる値段だ。今は在庫が無いから露店でしか買えないよ。
ウチはこれでも安く売ってるんだ、買わないならあっち行った行った!」
どうやら転売屋らしかった。まあいいか。
地図屋も覗いてみることにした。
「地図って何階までの地図を売ってるんですか?」
「地下10階までなら有るぞ。」
「お幾らですか?」
「地下1階だと銅貨1枚、地下2階だと銅貨2枚、地下3階だと銅貨4枚って感じに増えていくぞ。」
「え? そうすると地下10階だと金貨5枚以上もするのか!?」
「これでも安い方だと思うぞ?」
「う~ん、試しに地下1階の地図だけ売ってくれ。
後、自分で地図を作るための紙と書く物って有るのか?」
「有るぞ、結構自分で作る奴もいるからな。
まぁ、使えない地図が多いけどな。俺としては買った方が良いともうぞ?」
「とりあえず紙を10枚と、書くものを売ってくれ。」
「買うなら売るけどな、地下1階の地図と紙10枚で銅貨1枚、書くものは銅貨2枚だから、全部で銅貨8枚だな。」
少し高い気もするが、仕方ないな。俺はお金を払った。
「まいど。」
後は特にめぼしい物も無かったので、終わりにした。
「ハルさんは、地図を描けるんですか?」
「どうだろう? 物は試しでやってみようかと思ったんだけど、良いかな?」
昔のPCゲームはオートマッピングの機能なんて無かったからな、方眼紙を片手によく遊んだものだ。御蔭で多少は自信は有るつもりだ。
有名どころではウ〇ズさんとかだな。戦闘時にはリセットボタンに手が離せなかったな…
操作に慣れて無い時に地下1階の落とし穴で全滅したのはいい思い出だ。
だいたい綴りを間違えると魔法失敗とか罠発動って、今のオートマッピング機能やメニュー式に慣れている若者には耐えられないだろうな。
「良いんじゃない? 何事も挑戦だよ~」
とりあえず了解も得られたので挑戦してみることにした。
門を抜け、いよいよダンジョンへと突入だ。
入り口は見張りは居るが、特にチェックすることもなく素通りだったのは楽で良かった。
さて、ダンジョンの中だが、横10m、高さ5mの通路が続く感じだ。
入り口近くだから真っ暗では無いが、明かりが無いと進むことも困難だろう。
よくダンジョンって壁が薄っすらと光っているとかが有名だが、全く無いじゃないか! 責任者出てこい!
一応松明とランタンを持って居るが、今回は軽く探索するだけだし、松明で良いか。
とりあえず松明に火を点ける。だいたい5m範囲くらいは見える程度か、なら2つ使うことにしよう。
「悪いんだけど、アイリとティアが松明持ってもらって良いか?」
「まかせて~」
「はい。」
了解を貰ったので2人に松明を持たせた。
さて、ダンジョンを進むための陣営だが、罠発見と索敵の関係で俺が先頭。
すぐ後ろにビアンカさんとシャルにして、いざ戦闘になった時にはビアンカさんと位置を交代する感じかな。
その後ろにアイリさんとティアさんの遠距離攻撃担当コンビで、殿はナタリーさんに任せることにした。
とりあえず壁から壁まで横に歩いてみると、丁度13歩か。なら13歩歩くたびに1ブロックとしてマッピングしていくことにしよう。
気になることと言えば、回転床とかマップの反対側にワープするとかが無ければ良いんだけどな…
まずは買った地図を見てみることにする。
さすがに地下1階はそれほど広い訳ではないため、道も単純なため、これなら迷子になることも無いだろう。
後は自分で作成してみて比較してどの程度の差が出るかを調べてみるとするか。
「よし、行くぞ!」
「「「「「おー!」」」」」
とりあえず2ブロックほど進んだ所で、反応が有った。
「あれ?」
「どうしたんじゃ?」
「いや、20mほど先に反応が有ったんだけど、俺の索敵ってもっと広かったハズなんだけど、何でここまで近づくまで反応が無かったんだ?」
「20mならあたいの索敵レベルでも分かるハズじゃが、何も感じ無いのじゃ。」
「ん~考えられるとすると、ダンジョンだからとか? 後は隠密のスキルを持って居るとか?」
「さあの、ナタリーなら知っているんじゃないのかの?」
「私も聞いた知識でしか無いのですが、ダンジョン内の索敵範囲は極端に低くなるみたいです。
たしか10分の1くらいになるとか…」
「すると、あたいは不意打ちに反応出来る程度なんじゃな。」
「無いよりはマシって感じか。」
「まぁ、索敵はハルに任せているし、構わんじゃろ。」
「任せろ! って自信を持っては言えないけど、出来るだけ頑張るよ。」
とりあえず索敵に反応した所まで行ってみることにした。
そこには、デロデロに溶けた感じの直径30cmほどのスライムがいた。
「スライムだな。」
「どうする? 倒す?」
「こいつで叩いてみるか。」
俺はゴブリンが持って居た棍棒、薪用として取っておいたものを取り出した。
「誰か倒してみるか?」
「やる!」
シャルが立候補したので、棍棒を渡してあげた。
シャルは棍棒を振り上げ、叩きつけた。
グシャ!
スライムの核をつぶすとスライムが溶ける様に崩れ、そのまま消えて行った。
「倒した。」
シャルがやり遂げたみたいな顔で言ってきたので、頭を撫でてあげた。
「よくできました。それにしても、話には聞いていたけど、倒すと本当に消えるんだな。」
「しかも何も残さないのじゃ。」
「だからみんなこの階は、見向きもしないんですね。」
「とりあえず今日は初日だから、儲けは無いとしてもこの階は調べようと思う。」
「「「「「は~い(なのじゃ)。」」」」」
現在地はちょうど曲がり角だったので、右に進むことにした。
2ブロック進むと分かれ道へと出た。
1階の地図を確認してみる。
「えっと、ここを右に行くと行き止まりみたいだな。」
「どうする? 行くの?」
「うん、悪いけど付き合ってよ。」
「いいよ~」
どうも昔からRPGはマップは全部埋め、宝箱は全部開けないと気が済まない性格なのだから仕方がない。
右へ進むことにした。3ブロックほど進むと曲がり角が有り、そこで再び反応を見つけた。
「この先にも何か居るな。」
「行くのじゃ。」
反応の有った所まで来たのだが、何も居なかった。
「あれ? 居ない? でも、反応は有るんだよな…」
「ハル様! 上です!」
ティアさんの声で上を向くと、丁度スライムが落ちて来た所だ。
「危なっ!」
俺は素早くスライムを避けた。
スライムは俺が先ほど居た場所へと落ちた。
「そう言えば上から襲い掛かるって書いて有ったな。」
折角事前に調べたと言うのに…反省。
「叩く?」
シャルが聞いてきた。
「そうだなぁ、違う方法も試してみようか。
アイリ、松明で焼いてみてくれるか?」
「焼くの? いいよ~」
アイリさんが松明をスライムに近づけた。
すると、スライムのジェル状の部分に火が点いた。
「うわっ! ビックリした~」
「燃えたのじゃ。」
「スライムって燃えるんですね、しかも結構明るいです。」
「他の階にもスライムが居るのなら、火を点けて明かり代わりに使うのも良いのかもしれないな。」
「戦闘とかには便利そうじゃの。」
「見つけたら燃やして行けば良いんじゃない?」
「そうだな、後はこの火がどのくらい燃え続けるのかだが…」
「休憩しながら確認すればいいんじゃない?」
「まだ入ったばっかりで疲れて無いのじゃ。」
「なら、先の行き止まりを先に確認しに行ってみるか。」
とりあえず奥に進むことにした。
と言っても1ブロック先で行き止まりなんだが…
「行き止まり?」
「だな、特に何も…無いか。」
少し壁とかを調べてみたが、何も見つからなかった。
どうやら単なる行き止まりなだけだったみたいだ。
「よし、戻るぞ。」
と言ってもすぐそこだし、さっきからスライムが燃えているのが見えているので意味は無いが…
色々と調べるのに時間をかけたので、燃やし始めてからすでに30分は経過している。
「ん? 少し縮んだか?」
スライムの元の大きさが30cmくらいだとしたら、今の大きさは25cmくらいだ。
30分で5cmだとすると、単純に3時間くらい燃え続けるのだろうか?
「まだしばらく燃え続けてそうだ、一度散策してから戻ってこようか。」
「「「「「賛成~(なのじゃ)。」」」」」
まぁ、ここに居ても暇だしね。
とりあえず分かれ道の所まで戻ってきた。
それからマッピングをしつつ、スライムを交代で潰しながら探索し、ようやく2階への階段を見つけた。
「どうする? 下に行くの?」
「いや、一度スライムの状態を確認しに行きたい。」
「あ、そっか、じゃあ戻ろ~」
あれから2時間ほど経ったので、予想通りならあと30分程度で消えるだろう。
急いで戻ることにした。
「あ、まだ燃えてる~」
スライムのサイズはあと1cmほどだ。10分ほどしてようやく火が消えた。
時計が無いから正確には分からないが、おそらく3時間くらいで合っているだろう。
スライムは3~4ブロックに1匹程度の比率で居たので、全部に火を付けて行けば、いざ戦闘になった時にも役に立ちそうだ。
2階以降にも同じ感じで居ればの話だが…
「消えちゃった…」
シャルが残念そうな顔をした。
「それでどうするの? 2階に行く?」
殆ど戦闘と言う戦闘もしていないし、まだお昼を少し過ぎたくらいの時間だ。行ってみても良いかもしれない。
「そうだな、行ってみるか。」
こうして俺達は2階へ進むことにした。




