打ち上げ
「そろそろ出かけようか。」
「「「は~い(なのじゃ)。」」」
ティアさんと、シャルの復活のお祝いをするために食べに行くことにしたのだった。
コンコン…
「はい。どうぞ。」
ガチャ!
「ティアさん、出かけようと思うのですが、大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。」
「ん?」
シャルが恥ずかしそうに、ティアさんの後ろに隠れていた。
「シャル、どうした?」
俺が聞いてみると、シャルは恥ずかしそうにモジモジとしていたが、意を決したらしく前に出てきた。
ティアさんはその姿を嬉しそうに見ている。
「は、ハル様、助けてくれて…ありがとう…」
な、何だコレは!? 俺は天使にでも出会ったのか? いや狐様の天使なんて見たことも聞いたことも無いぞ? この瞬間、弧天使と言う新しいジャンルが確定した(嘘)
「あの…」
ぴょこぴょこ動くお耳に、ふかふかのシッポ。最高に可愛い声と致せり尽くせりだ。もふもふしたい…
「ハル様?」
これはお持ち帰りしても良いのだろうか?
「えっと…」
いや、シャルは俺の奴隷だったな、だったらお持ち帰りもOKだよな?
「その…」
だけど、シャルの年齢だと条令に引っ掛かってしまう…どうしたらいいんだ!
「いい加減にせんか!」
パコーン!
「痛っ! 何するんだよ!」
「ハル君、シャルちゃんが困ってるよ?」
「へっ?」
言われたのでシャルを見ると、ジト目だった。困ってる?
ナタリーさんは仕方ないなぁって顔をしていて、ティアさんはニコニコ顔で見ていた。
「す、すまん、考え事してた。」
「大丈夫です…」
「ま、まぁ、なんだ、シャルも声が戻って良かったな。可愛いぞ?」
俺がそう言うと、シャルは真っ赤になった。
「…ありがとう。」
…俺、新しい扉が開いたのかもしれない…
いかん! ダメだダメ! 条令に引っ掛かる! タイーホは勘弁して欲しい、自粛汁!
「よし、みんな揃ったし、出かけるか。」
「「「「「はい(なのじゃ)。」」」」」
・・・・
「え~、本日はティアさんの完全復活と、シャルの声が戻ったことを祝って、乾杯~!!」
「「「「乾杯~!!」」」」
「乾杯?」
「乾杯ってのはね、こうしてコップ同士を合わせてお祝いするんだよ~」
「そうなのですね。」
「ほら、乾杯~」
「か、乾杯~」
アイリさんがティアさんに乾杯を教えて実践していた。
「ハル、酒もっと頼んでも良いか?」
「いいぞ、今日は好きなだけ飲んで食べてくれ、お金は気にしなくても良いぞ。」
「ハル君、話分かるぅ~♪」
「給仕よ、大吟醸はあるか?」
「大吟醸…ですか? ちょっと聞いてきますね。」
「あ、私はエールね。」
「私も欲しいです。ティアさんも如何ですか?」
「え? でも…」
「気にするな、飲めるんだったら飲んでも良いぞ。
お酒が駄目って言うならジュースでも良いぞ。
俺もエール追加ね。」
「では、私もエールでお願いします。」
「リンゴーンジュース…」
「畏まりました。少々お待ちください。」
俺達は飲んで食べてと楽しく過ごすのだった。
残念ながら大吟醸は無かったけどね。
「ティアさん、楽しんでますか?」
「はい。楽しんでます。
こうしてお酒が飲めるとは思っても居ませんでした。」
「それは良かったです。」
「こんなにも楽しいのは、主人が生きていた時ぶりかもしれません。」
遠い目をしながらティアさんがぽつりと呟いた。
「ご主人はどんな人だったのですか?
あ、言いたくない場合は良いですよ。」
「いえ、大丈夫です。
そうですね、一言で言うと駄目な人でした。」
「え?」
「不器用で、おっちょこちょいで…頭もそれほど良くなかったかもしれません。
でも、優しくて、一生懸命で、何となくハル様に似ていたかもしれませんね。」
「そ、そうですか。」
う~ん、俺のイメージって不器用でおっちょこちょいでおバカキャラなのか…
何か落ち込むな…
「うふふふっ。」
「どうしました?」
「いえ、多分勘違いして変な事考えてるな~と思いまして、そう言う所もソックリでしたよ。
ハル様が似ているのは、優しくて一生懸命な所ですよ。でも、少しおっちょこちょいの所も似ているかもしれませんね?」
そう言ってティアさんはコロコロと笑った。
俺は何となく恥ずかしくなった。
それにしてもやっぱり人妻だったからか、ティアさんってフェロモンが出ているのか、物凄く色っぽい。
大人の色気と言うか、余裕が有ると言うか、何とも言えない何かが有るな。
いかんいかん、呑まれてしまう。話題を変えることにした。
「それで、ご主人はどうなったのですか?」
「それが、『俺は冒険者になる!』と言って、迷宮都市に行ってしまい、戻ってきたのは愛用の剣を握りしめた右腕だけでした…」
どこぞの海〇王さんですか?
「そうでしたか…」
「弱いくせに、ホント馬鹿なんだから…」
ティアさんの目に涙が見えた。
「すいません、思い出すようなこと聞いてしまって。」
「いえ、昔の話ですし、今となってはいい思い出です。」
「代りになるかは分かりませんが、俺で何か出来ることが有れば言って下さいね?」
「はい、その時はお願いします。」
その後は普通の話題で楽しんだ。
・・・・
「まだじゃ、エール追加じゃ!」
「ビアンカ、まだ飲むの? 私もう駄目…」
「ハルさんがいっぱいだ~、これ私の~」
「すぅ~、すぅ~」
「みなさん、大丈夫ですか?」
「う~ん、そろそろお開きにした方が良いか。
すいませ~ん、会計お願いします。」
俺は基本2杯までしか飲まないので全然平気だ。
飲み代は金貨3枚ほどしてしまったが、今日は打ち上げなので問題無い。
「ほら、みんな帰るぞ。」
「ハルさん、だっこ~」
「あはははっ、じゃあ私はおんぶ~」
「なんじゃ、だらしないの。」
「ビアンカ、アイリかナタリーのどっちかお願い出来ないか?」
「恨まれそうじゃが、仕方ない、ナタリー来るんじゃ。」
「ハルさ~ん。」
「へへ~んだ。」
俺はアイリさん、ビアンカさんがナタリーさん、ティアさんがシャルをおんぶする形で帰ることになった。
宿屋に着いたので部屋に戻る前に声を掛けておいた。
「今日はお疲れ様でした。また明日から宜しくお願いします。」
「こちらこそ宜しくお願いします。
精一杯頑張りたいと思います。」
「それじゃ、おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
ティアさんと別れた後は、アイリさんをベットに降ろし、ビアンカさんに声を掛ける。
「部屋を出てるから湯あみを済ませといて。」
「分かったのじゃ。」
部屋の外に出てしばらく待つと扉が開いた。
「もう良いのじゃ。」
部屋に入ると、すでに2人はベットで眠っていた。
「今日はあたいが隣じゃ。早く来るのじゃぞ?」
そう言ってベットに潜り込んだ。
俺もさっさと湯あみを済ませ、寝ることにした。
おやすみなさい…ぐぅ…
シャルのお父さんは既に居ませんでした。なむ~




