ゴードン大商会
道具屋へとやってきたんだが、かなり大きなお店だ。
早朝にも拘わらず人の出入りが多いと言うことは、結構繁盛しているのかもしれない。
さっそく入ることにする。
「「「いらっしゃいませ」」」
さすがは大きな道具屋だ店員が何人も居て出迎えてくれた。
その内の1人に声を掛けてみた。
「すいません、4人用のテントを探しているのですが。」
「4人用のテントですね。それでは案内致します。」
案内された先には大小それぞれのテントが置いてあった。
「こちらが4人用のテントになります。」
「これってテントを張るのは大変でしょうか?」
前に結構苦労したからな。
「いえ、こちらは最新式となっておりまして、簡単に出来る様になっております。
そちらのスペースで一度作ってみますか?」
「良いんですか?」
「もちろんです。お客様にはしっかりと納得してから購入して頂きたいですからね。」
「それでは、試させて貰います。」
許可を得られたので早速テントを作ってみることにした。
縛ってある紐を解くと、真ん中に穴が空いている正方形のシートと、骨組みとテントのシートが一体型になった物、アンカー用の釘が数本が有った。
「俺、これ見覚え有るぞ? 何だっけ…そうか! 折りたたみ傘か。」
傘を広げて、シートの真ん中の穴に持ち手の部分、槍状になっているのを刺して、周りをアンカーで打ち付けて完成みたいだ。
確かにこれなら直ぐにテントを張ることが出来そうだ。
「これって、強度的に大丈夫なんですか?」
「そうですね、風が強い時なんかは使うことは出来ませんね。
でも、他のテントも同様ですし、今までのテントよりは強度は高いですよ?
当店自慢の商品でも有ります。」
まぁ、他の人が居た時のためのダミーだから良いんだけど、簡単にテントを設置できるのも魅力的だ。
必要な物だし、買っておくことにする。
「では、これを下さい。」
「こちらは銀貨5枚となっております。他にも何かございますか?」
皆を見ると、首を振っていたので無いみたいだ。
「大丈夫です。これでお願いします。」
財布から銀貨5枚を取り出して支払った。
「本日はゴードン大商会をご利用いただき、誠にありがとうございました。
またのご利用をお待ちしております。」
ん? 今聞きなれた名前が出た様な…
「ゴードン大商会?」
「はい、そうですが、それが如何いたしましたか?」
そう言えばゴードンさんが王都にお店を出したんだっけな。すっかり忘れていた。
ハリーさんにもゴードンさんに宜しく言っておいてと言われていたんだっけ。
テントを買いに来なかったら素通りしていたな…
「あの~、ゴードンさんに会うことって出来ますか?」
「大商会長は大変忙しい方なので、お会いすることは出来ません。」
「私はアルデの街のハルと申します。確認だけでもお願いできないでしょうか?」
「アルデの街ですか? しょ、少々お待ちください。」
そう言って店員が奥へと行ってしまった。
少ししてさっきの店員が慌てた様子で戻ってきた。
「さ、先ほどは大変失礼致しました。
大商会長がお待ちですので、奥の部屋へどうぞ。」
俺達は奥の部屋へと案内された。
コンコン。
「お客様をお連れしました。」
「入って貰いなさい。」
「失礼します。」
ガチャ。
扉の中に入ると、そこにはゴードンさんが居た。
「ハルさん、ようこそいらっしゃいました。」
「ゴードンさん、お久しぶりです。」
「ええ、本当に久しぶりですね。
お元気そうで何よりです。」
「ゴードンさんも。」
「お客様にお茶を。
ささっ、ハルさん、立ち話も何ですから、座ってください。」
「ありがとうございます。」
進められたソファーに腰を掛けると、あまりの座り心地のよさにビックリした。
これ、俺の部屋に置きたいな。
「良いソファーでしょう。」
「はい。個人的に欲しいくらいですよ。」
「有名な家具職人が作った物ですからね。でも、お高いですよ?」
「ですよね~、今はちょっと旅の途中ですし、諦めることにします。」
「アイリ様とビアンカ様でしたね、お久しぶりでございます。
そちらは、冒険者ギルドのナタリー様でしょうか。もうお一方は…前におっしゃっていた良い人ってまさか…!」
「違います! 違いますからね? 実は訳有って一人は別れることになりました。
そして、この子はシャルと言うのですが、カルデの街から帰る途中に助けた子で、今はシャルの故郷へ向かっている最中なんです。」
「そうでしたか、安心しました。」
ん? 何かシャルの機嫌が悪くなった様な…気のせいか?
「お茶をお持ち致しました。」
店員がお茶とお茶菓子を持ってやってきた。
俺達の前に一人ずつ配膳して、去って行った。
さっそくシャルがお菓子に夢中だ。どうやらさっきのは気のせいだったみたいだ。
「そうそう、ハリーさんからゴードンさんに言付けが有ります。」
「何でしょうか。」
「頑張っているとのことです。」
「…そうですか。」
「ええ、今回の旅に出る時も、ハリーさんには色々お世話になりましたし、十分に頑張っていると思いますよ。」
「お知らせして頂き、ありがとうございます。」
「そう言えば、ハルさんは当店に何かお探しに来られたのですか?」
「実はテントを購入しようかと思いまして。」
「テントは確か持って居ましたよね?」
「はい。でも4人用も欲しいと思ったので。」
「それでは御用致しましょう。」
「あ、いえ、もう買っちゃいました。」
「ではお金を…いや、ハルさんには失礼でしたね。」
「そうですね。ゴードンさんとはこれからも付き合っていきたいですからね。」
「わかりました。」
「ハルさんはこれから出発ですか?」
「ええ、用事も済んだので。」
「そうですか、また王都に来られた時はお会いしたいですね。」
「もちろん、寄らせてもらいます。」
「その時を楽しみにしています。」
俺はゴードンさんと握手をして別れたのだった。
やっべーすっかりゴードンさんのこと忘れてたよ(汗)
実はテントを買ってそのまま出ていく話だったんだけど、ゴードンさんのことを思い出して急遽変更しました。




