明日の予定
食事が終わり、各自部屋へと戻って行った。
俺も先に部屋に戻り、ナタリーさんが帰ってくるのを待つことにする。
今の内に体だけ洗っちゃおうか…
・・・・
だいぶ時間が過ぎた頃、扉を叩く音がした。
コンコン…
「は~い。」
ガチャ!
扉を開けると、ナタリーさんと料理長が居た。
「遅くなりました。」
「いえいえ、大変だったよね、お疲れ様。」
「失礼するよ。」
「料理長、お世話になりました。」
「いや、正直お世話になったのはこっちかもしれん。」
「そんなことないですよ、私の方が色々勉強させて頂きました。」
「そうか、ありがとう。」
「わざわざそれを言いに?」
「いえ、ハルさんにちょっとお願いが有りまして。」
「何?」
「もう1泊王都でお泊りって出来ませんか?」
「そこまで急いでる旅じゃないから問題無いけど、どうしたの?」
「ここからは私が説明するのが筋なので言わせてもらうが、お互いの技術を勉強しあおうって話になってな、もし可能であるならお願いしたい。」
「そういうことなら別に拒否する理由も無いし、ナタリーのためにもなるんだろうし、良いんじゃないかな?」
「ありがとうございます。」
「感謝する。お礼と言うのも何だが、宿泊費とかは全部こちらで出させてくれ。」
「お互い様だと思いますが?」
「いや、伝説の料理人のお弁当を分けてくれただけでも、金貨を払う価値が有ると思っている。気にしないでくれ。」
金貨!? これ作ってもらうのに鉄貨5枚分の値段しか払ってないぞ?
いや、これは言う物じゃ無いな、ありがたく受けるのが正解だろう。うん。
「そう言う理由なら、有難く泊まらせてもらいます。」
「感謝する。」
「ハルさん、ありがとうございます。」
そうだな…まあいいか、俺はジェニファーレシピ本を取り出した。
「それは?」
「ジェニファーのレシピ本だ。見てみるか?」
「是非! お願いしたい!」
料理長は、まるで神器を受け取る様な感じに恭しくレシピ本を受け取った。
そしてレシピ本を広げて読んでみた。
「やっぱり暗号化されていたか…」
うん、当然読めないよね。
「いや、特殊な言語で書かれているだけで、暗号化はされてないぞ。」
「もしかして読めるのか!?」
「ああ、一応翻訳したものはマスターに渡してある。興味が有るならアルデの街に行ってみたらどうだ?
マスターが教えてくれるかは知らないけどな。」
「そうだな、成長した様子を見るついでに、行ってみるのも良いかもしれないな。」
読める人が目の前にいるにもかかわらず何も聞いてこないってのは好感が持てるな。
「…1品だけで良いなら教えましょうか?」
「本当か!」
「ええ、何だかんだでマスターへの感謝へのお返しです。
今のマスターが居るのは、貴方が居たからだと思ってますからね。」
「そうか…」
「どんな料理が良いですか? それとも適当に選んでみます?」
料理長は少し考え、ページをパラパラとめくり、1つのレシピを指差した。
「では、これでお願いしたい。」
「どれどれ? えっと、茶碗蒸しか。明日一緒に作ってみるで良いか?」
「宜しく頼む。」
「ああ、じゃあ明日な。」
「夜分遅くに失礼した。」
そう言って料理長は部屋から出て行った。
パタン…
「それじゃ明日はここで料理作りだな。」
「私のワガママを聞いていただきありがとうございます。」
「そう? 別にワガママだとは…いや、そうだな、ワガママだな。うん。」
「え?」
俺の突然の言動にナタリーさんが驚いている。
「だから俺のワガママも聞いてもらいたい。」
俺はナタリーさんを抱き寄せた。
「あ…」
そして、ナタリーさんの耳元でささやく。
「ナタリー良いかな?」
「ふふっ、ハルさん、それってワガママじゃないですよ♪
どちらかと言うと私の希望ですから…でも、先に湯あみだけはさせて下さい。」
こうして王都での夜は更けていくのだった…
もう1泊することになりました。




