マスターの師匠
夕刻になり、俺達は『薔薇の絆』へと戻ってきた。
「戻りました。」
「お帰りなさいませ。お部屋に戻られますか? それともお食事にいたしますか?」
「どうする?」
「食事で良いんじゃない?」
「私もそれで良いと思います。」
「お腹が減ったのじゃ。」
シャルもコクコクと頷いている。
「じゃあ、先に食事にしちゃいます。」
「では、そこの扉が食堂になっておりますので、空いている席でお待ち下さい。」
「わかりました。」
俺達は食堂へ向かう。さすがは食事が美味しいと噂の所だ、すでに人が一杯だった。
1つだけテーブルが空いていたのでそこに座ることにした。
周りを見るとみんなお酒を飲んだり食事を美味しそうに食べていた。これは十分に期待できそうだ。
『薔薇の宿屋』との違いと言えば、人が多いくらいか? 客席が多いのも有るが、ウェイトレスも3人も居た。
もしかすると、料理を作っている人も何人か居るのかもしれない。
「お待たせいたしました。本日の夕食です。」
「すいませんが、エールを4つと、この子が飲めるジュースを1つお願いします。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。」
持ってきた料理を置いて、ウェイトレスはキッチンへ入って行った。
「先食べちゃう?」
「酒が来てからじゃ!」
「え~! いいじゃない~!」
「まぁまぁ、直ぐ来るって。」
「ハル君がそう言うなら…」
「お待たせしました。エール4つと、ジュースです。」
当初みんなの分を払おうと思ったが、各自でお金を支払った。
何故ならシャルも【じぶんではらうの】と言ってきたからだ。
黒板によってシャルも意見を言えるようになったので、シャルの気持ちを優先させたのだった。
「じゃあ、王都に無事到着を祝って、乾杯~!」
「「「乾杯~(なのじゃ)!」」」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ…ぷはぁ~!
「旨い!」
「昨日の夜空の下で飲むのも良かったけど、こうして明るい所で飲むのも良いよね~」
「飲めれば何処でも良いのじゃ。」
「ビアンカってそんな感じよね。」
「私は皆とこうして楽しく飲めるのならば、何処でも良いですね。」
「…そうね。まっ、私の場合はハル君さえいれば何処でも良いんだよ~」
そう言ってアイリさんが俺の左腕にしがみついてきた。
腕におっぱいが当たって最高です。
「あ~! アイリずるい~!」
そう言ってナタリーさんが俺の右側に来ようとした。
「ナタリー、こっちはあたいじゃ! 夜は一緒なんだからいいじゃろう?」
「…そうですね、ごめんなさい。」
そう言ってビアンカさんが俺の右腕に引っ付いてきた。
アイリさんみたいな弾力は無いが、これはこれで。
そしてシャルはご飯に夢中だった。
「俺も夕食食べるか、ごめん離して貰っても良いかな?」
「「は~い(なのじゃ)。」」
2人が離れたので夕食を食べることにした。
さて、今日の夕食は、ミートソースにあらあげにサラダとスープだ。
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【ミートソース】
品質:A
効果:HP回復+2
パスタに丸ネギ、ピマーンをトゥメイトゥソース、オークのひき肉を一緒に炒めて煮詰めた物を掛けたもの
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【鳥のから揚げ】
品質:B
効果:なし
ケッコー鳥のもも肉を一口大に切り、塩魚汁、ショウガナイ、砂糖、お酒を混ざたものに漬け、片栗粉をまぶし、油で揚げたもの
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【サラダ】
品質:B
効果:なし
トゥメイトゥとレトゥース、ドコーンをドレッシングで和えたもの
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【野菜のスープ】
品質B
効果:なし
ケッコー鳥の鳥ガラ、丸ネギとキャベスリー、シャガイモを塩コショウでじっくり煮込んだスープ
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ほぅ…さすがはマスターの師匠だ、品質もAかBしかない。
ぱくり…うん、旨い!
一般の店に比べると比較にならないほど旨い。
旨いんだが個人的にはマスターの方が旨かった様な気がするな。
「いかがでしょうか?」
声を掛けられ、そちらを見ると、中年…いや、初老になるくらいの料理人風な男性が居た。
「えっと、どちら様ですか?」
「申し遅れました。私、ここの料理長をしているジェームスと申します。」
「料理長でしたか、料理を大変美味しく頂いております。
私は冒険者のハル、そしてナタリー、アイリ、ビアンカ、シャルです。」
「お褒めに頂きありがとうございます。
貴方達はアルデの街から来られ、私の弟子のキースも知っていると聞きました。」
「はい。キース…さんには大変お世話になりました。」
「参考にキースの料理はいかがでしたか?」
「キース…いや、マスターと呼ばせてもらいますね。
マスターの料理は大変美味しかったですね。」
「そうでしたか、私の料理と比べるとどうでしたか?
あっ、遠慮なしに意見を言って頂ければと思います。」
「それならば…正直言うとマスターの料理の方が美味しいですね。」
「おぉ! あやつなら私を超えるとは思ってはいたが、これほど早くだったとは。」
「まぁ、ここでの修行での下地と、目標の人物が居たからでしょうね。」
「目標? それはどの様な人物でしたか?」
「ジェニファーって言うんだけど。」
「ジェニファー? 伝説の料理人と呼ばれた人物と同じ名前!?
もしかしてその一族? いや確か子は居たとは聞いて無いな、弟子関係か?」
「伝説の料理人? 何ですかそれ?」
「知らないのも無理はない、300年ほど前に居たと言われている料理人の名前だよ。
とてつもなく美味しい料理を作ったと言われていたが、その人物に関しては謎に包まれていてね、レシピも失われたと言われているんだよ。」
それって本人じゃね? そりゃあ、おかまじゃ子は作れんわな。
レシピは…俺が持ってる(汗)
「ハルさん、その伝説の料理人ジェニファーさんって…」
「本人だと思う。」
「それはいったいどういった意味で?」
状況がわかっていない料理長ははてな顔で聞いてきた。
「えっと、マスターはジェニファーの幽霊に憑依されてまして、10日に1度出てきては料理を作ってた。そして、その時のマスターは意識が有ったから、色々と技術を盗んだって話ですよ。」
「なんと! ならキースの所に行けばその技術が…」
「いや、直接は無理だと思うぞ? 多分成仏しちゃったし…」
「そうか…」
料理長は落ち込んでしまった。
何か少し可哀相だな。
「ハル君、お弁当出してあげたら?」
「そうだな、1個くらいなら良いか。」
「お弁当?」
「ちょっと人が居ない所って有りますか?」
「なら、奥の個室が有る。
食事もそちらへ運ばせよう。」
全ての食事を個室に運んでくれた。
「それでお弁当とは?」
「マスターの師匠とのことなので、信用することにしました。
内緒にして頂けるのなら、お弁当を出そうと思います。」
「約束しよう。」
「では。」
俺はアイテムボックスるよりお弁当を1つ取り出した。
「これは、ジェニファーが作ったお弁当です。1つだけですが差し上げますよ。」
「なんと…」
料理長は震える手でお弁当を受け取った。
「ついでにこちらも、こっちはマスターが作った物です。少し前に作った物なので今の腕よりは味が落ちますけどね。」
サンドウィッチ、おにぎり、からあげを1つずつ取り出して渡した。
「た、食べても良いかね?」
「差し上げた物ですから、どうぞ。」
料理長がまずはお弁当の蓋を開けた。
「おぉ…なんと…」
料理長が色取り取りのお弁当の配置を見て感動に打ち震えている。
「これはオンデカ米を使っているのか、珍しいな。
…なんと! あのオンデカ米がここまでの味になるとは…
しかもこれはオカズと一緒に食べることによって、より味の深みが出るのか。
いや参った…こんな貴重な物、私だけで食べるのは勿体ないな。」
料理長は一通りの味見をした後に弁当を閉じてしまった。
おそらく、弟子とかにも食べてもらうためだろう。
次に、マスターの料理へと移った。
「…よくぞ此処まで成長したな…」
料理長は一つ一つをしっかりと味わって食べていた。
目にはうっすらと光るものが見えたが、知らんぷりをしておいた。
マスターの料理については全部平らげてしまった。
「こんな素晴らしい物をありがとう…」
料理長が頭を下げて感謝している。
「たまたま持って居ただけですから。」
「いや、あの伝説の料理人の料理を食べることが出来たんだ。
料理人として最高だったよ。上には上が居るのを知れたのは有難い、目標が出来たよ」
「どの料理人も同じじゃの。」
「そうね、きっと負けず嫌いなんでしょ。」
「私ももちろん最後には超えて見せますよ。」
料理長が意気込んでいるナタリーさんを見た。
「ん? お嬢さん、貴方は?」
「あ、先ほどハルさんにご紹介頂きました。ナタリーと申します。
マスターさんには一時期料理を教わっておりました。」
「そうか、キースの弟子って訳か、なるほどな。」
「まだまだ習いたての若輩者ですが…」
「そうかな? 私の弟子と良い勝負をしそうな気がするんだがな。」
「過大な評価をありがとうございます。」
「折角だ、何か学んで行くかね?」
「…そうですね、今日だけで問題無いのであれば、お願いします。」
「よし、こちらに来なさい。」
「それじゃ、ハルさん行ってきますね。」
「ああ、頑張ってな。」
「はい♪」
料理長は、ナタリーさんを連れて行ってしまった。
あ、ナタリーさん夕食食べてる途中だ…
とりあえずアイテムボックスに入れておいてあげよう。
ジェニファーの名前がこんなところで出てきたな。




