屋台のスープ作り
「戻ったぞ。」
「ずいぶん時間が掛ったじゃないか、何を買って来たんだ?」
「いや、ちょっと個人的に衝動買いしたものも有ったから、遅れてしまった。
買ってきたものはこれだな、全部で銅貨3枚と鉄貨2枚だ。」
「えっと、ケッコー鳥の骨? 何に使うんだ?
後は、キュロットに、ホワイトネギ、せロリとしぃたけ、ショウガナイにぱっセリ、唐辛子か。
確かにお金は掛からないな、で、こいつをどうするんだ?」
オヤジが骨を指している。
「まぁ、今から説明すっから、空いてる鍋って有るか?」
「こいつを使ってくれ。」
スープに使ってる鍋と同じものを出してきた。
「まずは、この骨を洗う。」
俺は生活魔法で水を出しながら、骨に付いた血とかを洗い流す。
「お、坊主は生活魔法持ちか、料理人に向いているんじゃないのか?」
「俺は冒険者だ、料理は作ってくれたのを食べる方が良い。」
「がははっ、そーか。」
洗い終わった骨を鍋に入れる、ホワイトネギの青い部分と、ショウガナイ1個を輪切りにしたものも一緒に入れ、鍋一杯に水を入れる。
「こいつを弱火で煮てくれ。」
「どのくらい煮るんだ?」
「そうだなぁ、1の時間分かな?」
「そんなに煮るのか、大変だな。」
「頑張ってくれ、で、煮てる最中に出る灰汁は出来るだけ取ってくれ。」
「アク? 何だそれは。」
「野菜とか煮た時に、泡の塊みたいなのって出ないか?」
「ああ、それか、分かった。」
「普段、灰汁って取らないのか?」
「取った事は無いな。」
「あれって、苦みやえぐみの元だから、取った方が旨くなるぞ?」
「そうなのか、なら次からは気を付けるようにするわ。」
1時間ほど、鍋を煮つつ灰汁を取り、減った分の水を生活魔法で追加したりした。
「出来たな、そしたら、骨と、ホワイトネギ、ショウガナイを取り出す。」
「そいつはどうするんだ?」
「捨てる、食っても良いけど、その辺は任せる。
で、ケッコー鳥肉は一口サイズ、キュロットは扇形、ホワイトネギは千切りで、しぃたけとせロリは細かく刻んで、余ったショウガナイはすりおろしてくれくれ。
ホーンラビットの肉と丸ネギは何時もの通りで良いぞ。」
「ぱっセリと唐辛子はどうするんだ?」
「唐辛子はそのままで、ぱっセリは鉄板で炙ってパリパリになったら、細かくして置いてくれればいい。」
「よし、やるか。」
オヤジが一生懸命材料を切っている。
「出来たぞ。」
「んじゃ、さっき作った汁に、ホワイトネギ、ショウガナイ、ぱっセリ以外は入れちゃって、中火で煮てくれ。
さっきと同じく灰汁が出るので取ってくれ、時間は肉と野菜に火がしっかり通るまでだ。」
オヤジが先ほどと同じように、灰汁取りをしている。
「さっきもそうだが、これ結構面倒くさいな。」
「まぁ、やらなくても食えるが、どうせなら旨い方が良いだろ?」
「まーな。」
肉や野菜が十分に煮えたので、弱火にする。
「ここからは、オヤジのセンス次第だ、俺は料理人じゃないからな。」
「おい! そりゃあないぜ!」
「待て待て、プロと素人で味付けが違うのは当たり前だろ?
全部俺が言った分量で作ったら、それはもう俺の料理だ、オヤジの料理じゃないだろうが。」
「そ、それはそうだが…」
「とりあえず、唐辛子は取り出せ、で、ショウガナイのすりおろしたのを入れたら、後はオヤジのカンで塩を入れてくれ。
個人的には、いつもの3分の2程入れて、微調整するのが良いと思う。」
「わかった」
オヤジが、塩を入れ、味見をしてみる。
「なんだこれ! ちょっと塩味は足らんが、それでもいつもより旨いぞ!
この味なら、いつもの量だと多すぎるな…この辺りか…うん!」
「出来たぞ!」
「そしたら、器に入れて、刻んだネギを乗せ、ぱっセリを振りかけてっと、完成だ。」
「匂いも良い感じだな、食っても良いか?」
「俺も味見したいし、貰うぞ?」
「ああ、もちろん構わない。
どれ、さっそく…旨めー!!
たいした材料使ってないハズなのに、なんだこの旨さは!!」
俺も食べてみるか、ぱくり…うん、良い感じの出汁と塩加減だ、セロリの風味と、唐辛子のピリリとしたアクセントが有って旨い!
先ほど食べたスープとは段違いだ、やっぱり鶏がらスープは優秀である。
だけどなぁ、これ胡椒入れたらもっと旨くなるよな、別に大量に入れなくても良いんだけど、無理かな?
「オヤジよ、ちなみにコレだったら幾らで売るんだ?」
「そうだな、材料だけ見るなら、鉄貨6枚なんだが、7…いや8枚でも売れそうだな。」
「ちょっと材料を提供してやるから、味変えても良いか?」
「何を入れるんだ?」
「こいつだ。」
俺はアイテムボックスから、胡椒を1粒だけ取り出す。
「胡椒?」
「ああ、1粒だけ入れてみないか?」
「1粒で変わる物なのか?」
「さあ? 物は試しだから。」
「まあ、俺としては文句は無いが…」
俺はカバンから取り出す風にして、乳鉢と乳棒を取り出す。
「ん? 坊主は調合もやっているのか?」
「ああ、最近ようやく一人前になってきた所だ。」
「料理に調合にと多才だな。」
「料理は趣味だが、調合は努力してるからな。」
俺は胡椒をすりつぶして粉末状にする。
出来た胡椒の粉末を鍋に入れ、良くかき混ぜる。
小皿に取り、味見をしてみる…うん、あれだけの量だが十分に旨くなった。
もう一度小皿にとり、おやじに渡す。
「ほれ、どうだ?」
スープを飲んだオヤジはカッっと目を見開いた。
「なんだこれは…あれ1粒で、こんなにも味が変わる物なのか!?」
「ちなみに、あれ1粒で銀貨1枚な。
スープ代に換算すると、胡椒だけで銅貨2枚か…材料と儲けを考えると銅貨3枚か? さすがに高いな…」
「ああ、高いな、この旨さは魅力的だが、ちょっとな…
先ほどのでも十分旨かったが、この味を知ってしまうとちょっと悩むな。」
俺達が金額のことで悩んでいると、
「すいませーん、すっごく良いにおいがしていてお腹が減ったので、スープ1杯貰えませんか?」
突然、女の子の冒険者が声を掛けてきた。
「あ、いらっしゃい、鉄貨5枚になります。」
オヤジがスープを器に入れようとしたら、
「あ、いつものじゃなくて、そっちのスープね。」
「あ、いや、すまんが、これは試作品で、まだ売るとは決まってないんだ。」
「えー! そんなに良い匂いさせているのに、食べられないの~?
材料費払うから、食べさせてよ~!!」
「材料費って言ったって、1杯、銅貨3枚くらいするぞ?」
「高っ、う~でも食べてみたい~、それで良いよ! お願い! 頂戴~!」
「まぁ、材料費払ってくれるなら…ほらよ。」
女の子はお金を払い、器を受け取った。
「あ~やっぱり良い匂い、どれ、お味はどんな感じかな~」
しばらく匂いを堪能していたが、スープを飲むと、目を見開いた。
「何これ! 美味しい~!!」
様子を伺っていた男性が、女の子の叫んだ声を聞いたとたんに声を掛けてきた。
「お、俺にも売ってくれ!」
「はいよ。」
「こっちもだ!」
「はい。」
何か凄い列が出来ているな…ってマジか!?
スープ1杯に銅貨3枚だぞ!?
「すまんが、売り切れだ。」
あっという間に売り切れてしまった。
文句を言う奴も居たが、無い物は仕方がない、しぶしぶ帰って行った。
「銅貨3枚だったのに、すごい売れ行きだったな。」
「ああ、そうだな。」
「で、どうするんだ?」
「あの売れ行きを見てしまうと悩むな…」
「なら、2種類作ったらどうだ? 一般向けと、高級向けって感じで。
売切れるかが不安だったら、1日10杯の限定にするとかも良いかもな。」
「ふむ、良いかもしれんな。」
「ま、後はオヤジの頑張りしだいだな。
さてと、良い暇つぶしも出来たし、俺も帰るわ。
次来るときはもっと旨いものが食えることを期待しているぞ。」
「そうか、ならこれを持って行け。」
オヤジが何かを投げてきたので受け取ると、それは金貨だった。
「金貨?」
「ああ、安すぎるとは思うが、材料代とレシピ代だ。」
「そんなに大したものじゃないっての、材料だって胡椒を入れても銀貨1枚と銅貨3枚程度だぞ?」
「それだけ以上の価値が有るんだよ、つべこべ言わずに持って行け。」
「そうか、ならこれでまた食いに来るわ。」
「いやいい、坊主はこれから、俺のスープはタダだ。」
「…そっか、まぁ、めったには来れないかもしれんが、その時は有難く貰っておくわ。じゃあな。」
俺は中央広場を出て、宿に帰るのだった。
視界の端っこで、オヤジが頭を下げていたような気がした…
思いつきでレシピも何も見ずにスープを作ってみたが、食えるのだろうか?
誰か試したら教えてください(笑)




