指名依頼 3
俺は給湯室でコーヒーを入れ、休憩中である
「だ~れだ!」
突然目隠しをされた、この声は…
「亜紀ちゃん!」
「正解~♪」
当たったにも係わらず、目隠しを取ってくれない
後ろから目隠ししているので、背中に何か柔らかいものが当たっている…いや押し付けている
ヤバイ、俺の息子が反応している
「亜紀ちゃん、ちょ、離れてくれ、誰か来ちゃう」
「や~だもん、今の時間は誰も来ないし、ハル君ともっと一緒に居たいんだもん♪
それに、ハル君、何か期待しているみだいだしぃ~」
亜紀ちゃんは、目隠ししていた手を、頬、首筋、胸元にと撫でりながら下げて行く
そして俺の息子に手を…
ガバッ!
「…そこは駄目~!あれ?何だっけ?」
よく覚えて無いが、何か凄く良い夢をみた気がする…
だけど、何か違和感を感じた俺は、ある所を確認する
「…あっ!」
覚えてて良かった生活魔法、洗濯機能は万能でした(2回目)
しかし、高校生以来だな(何が?)
おはようございます
今日は解読3日目だ、引き続き頑張るとしよう
昨日、途中報告もしたし、今日は行かなくても大丈夫だろう
今日と明日の状況次第で、また報告すればいいか
では、朝飯を食べに行くとするか
「マスター飯よろ~」
「おう、待ってろ」
昨日は思わず食べたい衝動に駆られて作ったのは良いが、こんなことを続けたら何時までたっても終わらんな、今日は我慢することにしよう
そんなことを考えていると、マスターが朝食を持ってきた
「ほらよ」
「ども~」
今日の朝飯は、パンに納豆にスープと野菜ジュースだ
「…マスター?」
「何だ?」
「何でパンに納豆なんだよおおおぉぉ~~~~!! 納豆様にはご飯だろおがああぁぁぁぁぁ~~~!!」
「うおっ! またか…別に変でも無いだろうが」
「オヤツでそのままなら良いけど、パンに納豆は合わないだろうがあぁぁぁぁ~~~~!!」
「あーうっせ! だったら、そいつを貸してみろ」
マスターは俺からパンと納豆を奪い取り、キッチンへ入って行った
そして、5分ほどして戻ってきた
「ほらよ」
マスターが持ってきたのは、パンに納豆、その上にチーズを掛け、最後に玉ネギを刻んだものを乗せて、オーブンで焼いたものだ
「何これ?」
「良いから食ってみろ」
マスターに言われたので食べてみることにする
パクリ…こ、これは!
納豆と塩魚汁が合わさって焼いたことによるフンワリした触感と風味に、チーズの濃厚さ、玉ねぎのシャキシャキ感と甘みが、口の中に広がった
「何これ、旨~!!」
「そうだろ? 坊主よ、これでも納豆には、ご飯か?」
「すいませんでした~!!」
俺は素直に謝れる人である…あれ?
「でもさ、さっきは調理してなかったよね?」
マスターを見ると明後日の方向を向いていた
「マスター?」
「さーて仕事仕事っと、あ、坊主よ、昨日と同じ時間に始めるからな」
そう言ってマスターはキッチンへ戻って行った
「…逃げやがった」
仕方が無いので、残りの朝食を食べ終えた俺は、日課の氷を作った
「さて、時間まで結構有るな、どうすっかな」
冒険者ギルドに報告をしに行っても良いが、毎日行くものでもないよな
他の場所に行くには時間が足りないし、また近所の散策でもしてくるか
「この前はこっちの道を行ったし、今度はこっちにでも行ってみるか」
俺は大通りから細い道に入ってみた
この辺りは住宅街みたいだ、仕事に向かう人達が結構いるので人通りも多い
少し歩くと、女性が何か怒鳴っている声が聞えた
内容は聞き取れないが、きっと母親が、中々起きない子供に起きろ~って怒鳴っているんだろう
俺も昔はそれでよく怒られたもんだ、うんうん
そんなことを思い出しながら歩いていると、怒鳴り声の内容が分かるようになった
「…から、…じゃない、だいたい1日中お酒飲んでるなんて、信じられない! いい加減にして!」
違った、子供が起きないじゃなくて、ぐーたらな酒浸りな親だったらしい、そんな親を持った子も大変だよな
しかし、この声、どこかで聞いたことがあるような…はて?
「それじゃ、私仕事行くから、父さんも、今日こそは仕事行ってよね!」
バン!と扉が開き、ピンク髪で18歳くらいの町娘風な女の子が出てきた
「あれ? ナンシーちゃん?」
声を掛けられた女の子がビクツっと反応し、驚いた顔をしてこっちを見た
「え? ハルさん? 何でこんな所に? え? どうして?」
俺は別にメ〇パニを唱えた訳では無いんだが、ナンシーちゃんは混乱しているみたいだ
「いや、マスターの仕事がひと段落着くまで暇だったから、散歩?」
「そう…ですが、あ、私仕事に行くので、それじゃ!」
何か誤魔化すかのような感じで、ナンシーちゃんは行ってしまった
「…戻るか」
色々と思う所が無い訳でも無いが、ナンシーちゃんの家庭の事情だ、俺が言うことも手伝えることも無いだろう
だけど、この前機嫌が悪い原因は分かったかもしれない、仕事終わりだとは言え、明るいうちから酒を飲んでいたからに違いない
だって、夜に夕食と一緒にエール飲んでも何も変わらなかったからな、まぁ、多少は思う所は有ったかもしれんが…
戻ってきたは良いが、マスターはまだ仕事中だ、しばし待つことにする
ぼーっと待っていると、先ほどのことを考えてしまう、だけど、俺はカウンセラーでも正義の味方でもない、単なる一般人だ
ナンシーちゃんの悩みを解決してあげることはできない
だけど、出来るなら助けてあげたいと思ってしまうのは、きっとエゴなんだろうな…
「お、来てたか、じゃあ始め…どうした?」
「いや? 何でもないよ、早速やるけど、良いか?」
「…そうだな、始めてくれ」
「じゃあ行くぞ、名前は天ぷら、小麦粉100g、水75g、卵1個…」
・・・・
「そろそろ一度休憩にするか」
「うぃ~」
「ほらお茶だ」
「さんきゅー」
「…なぁ、坊主よ」
「ん~?」
「何か有ったんか?」
「べつに~」
「…ナンシーの件か?」
「!!」
「やっぱりか、何か知ったか?」
「マスターにはバレバレか」
俺は今朝の事をマスターに話した
「と言う訳さ、でも、家庭のことだし、他人がどうこうするのもって思ってさ」
「…そうだな、だけど、坊主なら何とかなるんじゃないのか?」
「俺が? 無理無理、だいたい何すれば良いのかも想像付かんし」
「…そうか、だけど、何か手伝える範囲でで構わんから、助けを求められたら。助けてやってくれないか?」
「まぁ、そのくらいで良いなら…でも、出来る範囲だからな?」
「あぁ、それで構わない。
じゃあ、休憩は終わりだ、次行くぞ」
「はいはい、えーっと次は、呉汁か、あーこいつも旨いんだよな…
いかん、いかん、また脱線するところだった、えーっと、大豆100g、大根4分の1、油揚げ1枚…」
・・・・
「今日はここまでだ、また明日よろしくな」
「うぃ~」
「エール飲むか?」
「いやいい、替わりに夕飯旨いのをよろしく」
「わかった」
そう言ってマスターは仕事に戻って行った
俺はイスに深く腰掛けてのんびりとする
少しするとナンシーちゃんがやってきた
「おはようございます~
あ、ハルさん…こんばんは」
「おう、ナンシーちゃん、こんばんは」
「…お酒飲まないんですか?」
「そうだな~今はそんな気分じゃないから、飲まないかな?」
「そうですか…何も聞かないんですか?」
「特に無いけど、何で?」
「いえ、何でもありません、それじゃあ仕事入りますね」
「おう、仕事頑張れよ~」
そう言ってナンシーちゃんは仕事をするのにキッチンへ入って行った
俺はしばらく休憩した後、氷を作り、夕食を頼んで食べた
時々ナンシーちゃんがこちらを気にしていた雰囲気を出していたが、気にしないことにした
部屋に戻った俺は、特にすることも無いので寝ることにする
おやすみなさい…ぐぅ
ナンシーちゃんの親、異世界あるあるパターンでした




