指名依頼 2
少しだけ早かったが、10の鐘に十分間に合う時間に宿に戻ってきた
「おう、丁度良い所に戻ってきたな、早速始めたいが、大丈夫か?」
「いつでもいいぞ」
「じゃあ、昨日の続きから読んで言ってくれ」
「んじゃ行くぞ、名前は肉じゃが、材料は、ジャガイモ3個、タマネギ2分の1、ニンジンが…」
・・・・
しばらく解読作業を続け、一つのレシピを読み終えた所で、マスターに聞いてみた
「そういえばさ~」
「なんだ?」
「答えられないなら答えなくても良いんだけど、ナンシーちゃんを雇った理由って何?」
「何でそんなこと知りたいんだ?」
「なんとなく?」
「深い意味は無いぞ? 単に近所に住んでて顔見知りだったのも有るし、仕事を探していたみたいだったからな」
「本当に普通の理由だった」
「それに、あの家には…いや、何でも無い」
「何? そこまで言いかけておいて、どうしたんだよ」
「そりゃあ、人の家庭のことをとやかく言うものじゃないだろ?」
「そりゃそうだ、悪かったな」
「ま、生活するにはお金が必要だからな」
「ごもっともで」
理由は普通に生活のためみたいに聞えたが、何か隠してるのか?
プライベートな話だし、きっとマスターは話さないだろうな、こう言っては何だが、マスターはその辺のことは信用できるからな
「休憩は終わりだ、次を頼むぞ」
「へいへい、次はあら汁か、これ旨いんだよな」
「そうなのか?」
「ああ、魚の旨い部分だけで作るから、旨味がたっぷりな出汁が出て最高だ、問題は新鮮な魚じゃないとダメな所だな」
「新鮮な魚か、海の近く、もしくは、ヤツが持っているスキルみたいな物が無いと無理か」
「そーいやアイテムボックスに沢山の魚介類が入っていたな…
マスターよ、ちょいと相談が有るんだが?」
「おう、奇遇だな、実は俺も相談が有ったんだ」
お互いニヤリとして
「坊主、レシピだ!」
「おう、材料だが、魚のあら2匹分、白葱2分の1、大根2分の1で…」
・・・・
「じゃあ作るぞ、坊主、魚を出してくれ」
「了解! このダイで良いか?」
「問題ない、ダイは旨いしな」
ダイを三枚におろし、頭部、骨、エラ、ヒレ、そして身の部分に分ける
「坊主、この身の部分はどうする?」
「今回はあら汁だし、入れると違う料理になるし、辞めておこう」
身は使用しないのでアイテムボックスへ仕舞っておく
あらの部位をしっかり塩を振り30分ほど放置、霜振りをして、鱗や血合いをしっかりと落とす
鍋に出汁、あら、DAICON、酒(アイテムボックス内に有ったのを利用)を入れて火にかける
沸騰したら、弱火にして灰汁取りをするのだが、これをしっかりやるかどうかで味が決まるから真剣にやる
あらから旨味がしっかりと出たら、味噌を溶き、ホワイトネギを入れ、みりん(これも入ってた)、塩魚汁、ショウガナイ汁で味を整える
後は器によそって、完璧ネギと七味もどきを入れて完成だ
「…出来たな」
「あぁ、見た目はちょとアレだが、臭いとかは旨そうだ」
「見た目で判断するとはマスターもまだまだだな。どれ、どんな感じで出来たかな?」
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【あら汁】
品質:A
効果:HP回復+5
ダイのあらを味噌、みりん、塩魚汁、ショウガナイ汁で味付けたスープである
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「マスター! 品質Aだ!」
「何! 本当か?
レシピ通りに作ったから間違いは無いとは思っていたが、そうか、俺もヤツと同じ物が作れたんだな…」
何かマスターが感動に打ち震えているが、そろそろ俺も限界だ
「マスターよ、そろそろ食わね?」
「そ、そうだな、食うか」
俺は早速頂くことにした
まずは、汁をひとすすり、ズズッ…
口いっぱいにダイの出汁の旨味と味噌、塩魚汁の味が広がる、そしてショウガナイ汁が魚の臭みを抑えていて良い感じだ…旨い!
そして、背骨の間の身をトウモロコシを食べるようにガブリと食いつく、実がホロホロと崩れるが、しっかりとした魚の味がたまらん!
おっ! こいつは目玉の部分だ、苦手な人もいるが、このゼラチン質の目玉の周りのちゅるっとした感覚と、サクっとした目玉のアクセントが楽しい
俺はひたすらと、あら汁を堪能したのだった
「ふぅ~旨かった…」
ふとマスターをみると、味を噛締めるように食べていた、うっすらと涙が出ているみたいだが、知らないフリをする
とりあえず、お互い食べ終わったが、鍋にはまだあら汁が残っている
「マスターよ、この残ったのはどうする?」
「そうだな、まかないとして、ナンシーにでも出してやるか」
別に反対する理由も無いので、了承しておく
「それじゃ、次のレシピに行くか」
「えーっと、次はもつ煮込み…だめじゃん」
「何だ? そいつはマズイのか?」
「逆、逆、旨くて、酒にも合って、最高の食べ物だ。
あら汁食べて無かったら、耐えられんかった」
「そうか、それほどの物か…なら、そのうち作ってやるから楽しみしておけ」
「絶対だぞ! 楽しみにしてるからな? フリじゃないぞ?」
「おう、まかせろ」
「じゃあ、レシピを読むぞ、豚モツが300g、長ネギが1本、ニンニク1片…」
・・・・
夕刻になったのでマスターが声を掛けてきた
「そろそろ準備しないと間に合わなくなりそうだ、今日はここまでにしよう」
「おつ~」
「エールでも飲むか?」
ふと、昨日のナンシーちゃんの態度が頭をよぎった
「んー今日は辞めておくわ、お茶をくれ」
マスターがハーブティーを入れてくれたので、ありがたく貰っておく
「じゃあ俺は夕食作るから適当にしてくれ」
マスターは仕事に戻って行ったのでのんびりすることにする
ずずっ…あーお茶が旨い…
まったり過ごしているとナンシーちゃんが出勤してきた
「おはようございます~
あ、ハルさんじゃないですか、それってお茶ですか? 今日はお酒じゃないんですね~」
「まーな、と言うか、今の時間だと「こんばんは」じゃね?」
「あははっ、気にしないで下さい。
それとも、細かいことが気になるお年頃ですか? そんなんじゃモテませんよ?
それでは、仕事に入りますんで、また後で~」
そう言って仕事をするにに去って行った、どうやら機嫌は悪くないようだ
そろそろ混み始める時間だな、先に氷作っちゃって、そしたら飯を食べることにする
地下へ行き、氷を作ったので、食堂へ戻ってきた
「ナンシーちゃん、飯よろ~」
「は~い、ただいま~」
返事と共に、夕食を持ってきた、相変わらず早いな
「お待たせしました~ごゆっくりどうぞ~」
結局昨日のは何だったんだろうか?
ナンシーちゃんがすれ違う瞬間に耳元で話しかけてきた
「あら汁でしたっけ? 美味しかったです、ありがとうございました♪」
えっ?と思ったが、返事をする前に、ナンシーちゃんはさっさと行ってしまった
まあいいか、さて今日の夕食は、パンに、牛ステーキと野菜のスープだ
旨いが、昼間の余韻が残っているので、少々物足りない、マスターよ精進したまえ!(偉そう)
「ごっそーさん」
部屋に戻り、特にやることも無いので、さっさと寝ることにする
たまには、こういう日も良いだろう
おやすみなさい…ぐぅ
港にある寿司屋のあら汁ってマジ旨いよね。




