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第6話 冒険者の食事は常に戦いです!

「ちょっとミオさん、耳引っ張らないで痛い痛い」

「何回も呼んだのに、ぼけっとしてるからだ。まったく」

「(魔法で脳内からブログを更新してたなんて言ったら殺される……)いやぁ、ミオさんが超絶美人だなぁって見惚れてて」

「嘘は上手く吐け」


 耳をさらに引っ張られ、ヒヨコはくぴぃっと悲鳴を上げる。


「まぁいいや。外見てみろ」


 窓の外を見ると、綺麗な夕焼けが輝いていた。


「夕焼け、綺麗ねぇ」

「感想求めてるんじゃなくて。あのな、もう夜になるぞって言いたいんだよ。私達、何も食べてないし泊る場所すら決まって無いんだぞ」

「なるほど! どうする? とりあえず何か食べる? あ、でも私、お金持ってないんだけど……」

「そうか、お前無一文だったのか。残念だな。じゃあ私、ちょっと食べて来るから。お前はリリィって子を待つんだろ? 1時間後にまたここでな」


 そう言うとミオは立ち上がり、すたすたと歩いて行こうとする。


「ちょっと! ちょっと待ちなさいよ! え? 何で今一人で行こうとしたの!? 私のご飯は!? 私、無一文なんですけど!! 置いて行かないでよぉ……一人にしないでよぉ……ミオさーん! おねがいぃ」


 泣きながらミオの足にすがりつくヒヨコを見て、周囲にいた冒険者達の視線が集まる。


「おい、あれさっきの知能が可哀そうな嬢ちゃんだぜ……」

「あぁ、やっぱりあの黒髪の子にパーティ組むの断られたのか」

「可哀想だが……これも冒険者の厳しさってやつだよな」

「おい嬢ちゃん! 大したものじゃ無いが、これやるよ。強く生きるんだぞ」


 モヒカン頭の冒険者がヒヨコに差し出したのは、棒付き飴だった。


「俺も! 嬢ちゃん、冒険者は実力社会だが……助け合いの社会でもあるんだぜ」


 キラッと白い歯を見せ、別の冒険者もヒヨコに小銭を握らせる

 その後も何人もの冒険者が、ヒヨコに思いやりの施しをしたのだった。


「え、なんだか凄くいっぱい貰えたんですけど! 皆ありがと! 私、強く生きる!」


 そうだそうだー! 頑張れよ! と声が上がると、ヒヨコは立ち上がり、笑顔で皆に手を振った。


「ミオ! 私、これだけあったらご飯も食べられるんじゃないかしら! ご飯に行きましょうよ!」


 ヒヨコが手に握った沢山の小銭を見ながら嬉しそうに言う。


「分かったけど、お前……恥ずかしくないのか……いや、何でもない。そうだよな、知能が低い分、生きるのに必死だもんな……悪かったよ、お前がどう生きようと、何も言わないさ。さ、食事に行こうか」


 ミオに諦められたように見られた気がしつつも、ヒヨコは冒険者達にお礼を言い、笑顔で外に出た。


「ちょっとミオ! これなんてどうかしら! すっごく美味しそうな匂いがするわよ!」


 ヒヨコが指を指したところには、やや古い店構えで大きな黄色の看板を出した店だった。

 焼いた豚肉の良い匂いが漂っており、冒険者達がひっきりなしに出入りする為か、ドアは常に開いている。


「らあ……ぬん?」


 黄色の看板には、真っ赤な文字で『らあぬん』と書かれていた。


「ミオ、二人分席空いてるわよ! あ、大将! らあぬん二人前お願い!」

「あいよー! らあぬん二人前入ったぞー!」

「承知!」


 店内は広くないが、大勢の、それも特に若い冒険者達で賑わっている。

 カウンターには二人の他にも冒険者達が座っていたが、皆まだ食事にありつけていないようだ。

 そわそわと落ち着きの無い者、精神統一するかのように深呼吸をする者、ちらちらと横の客を見る者まで様々だが、皆どこか普通の料理屋とは様子が違う。

 どうやら麺料理のようで、同時にいくつものテボを持ち、力強く湯切りをしている大将の姿はさながら阿修羅だ。

 大将が振り返り、カウンターに座る客に順番にトッピングを聞いていく。


「旦那、ニンニクはどうする?」

「ニンニク普通野菜マシマシ、アブラ、カラメで!」

「承知!」


 もはや呪文のようなことを言っており、二人には意味が分からない。


「おいヒヨコ、今のって魔法の呪文か何かか?」

「聞かれても知らないわよ! あーもう、こういう時はね、一つ前の人と同じのを頼めば良いのよ! 呪文を聞き逃すんじゃないわよ!」


 まるで戦いに挑むかのように精神統一をしていた巨漢の冒険者が、すぅ。と息を吐くと呪文を唱えた。


「全マシ超盛らん魔」


 店内が大きくザワつく。


「おい……超盛らん魔だってよ……」

「あいつ知ってるぜ、最近勢いのある若手パーティでバーサーカーをやってる奴だ」

「猪狩りのバーサーカーか! ここいらを荒らしまわっていた大猪も、奴の前ではチャーシュー同然だったと言う……」

「猪狩り……見せて貰うぜ、お前の戦いってのをよぉ!」


 ざわつく店内に全く動じない、猪狩りと呼ばれた男と大将。

 そこはかとない大物感が漂っている。


「嬢ちゃん、ニンニクは?」


 ついにヒヨコが聞かれる順番が回って来た。


「おいヒヨコ、なんだかヤバそうな雰囲気だぞ……」

「何怖気づいてるのよ! 大将、全マシ超盛らん魔で!」

「……承知!」


 一瞬面食らったという顔をするが、大将は大声で答える。

 さっき以上に店内はザワついた。


「おい、今の嬢ちゃんって、さっきの知能が可哀そうな」

「あぁ、ただの馬鹿か……それとも歴史に名を残す大馬鹿か……俺達は今、伝説の幕開けに立ち会っているのかもしれねぇ」

「おい! 俺はあの嬢ちゃんに賭けるぜぇ! 誰か他に賭ける奴はいねーか!?」

「俺は猪狩りだ!」

「大穴だが……嬢ちゃんだ!」


 店内では勝手に賭けが始まっているようだ。

 そこら中を紙幣が飛び交い、気付くと見習い店員が取り仕切っていた。


「お嬢ちゃん、ニンニクは?」

「……店公認かよ。あ、私は全部普通で良いです」


 ミオは冷静に答えるが、この店内で平静を保っていたのは、もはや殆どいなかった。

 しばらくすると、見習い店員達が大きな丼を持って現れた。

 丼の中には濃厚そうなスープに、極太の麺。

 そしてその上には、山のように盛られた野菜とニンニクがあった。


「ちょっ、この量って……本当に人の食べ物なの!?」

「ふっ、やはり初心者か。だが戦いは引き返せない。俺に戦いを挑んだことを悔みつつ、無様に散るが良い」


 オーダー以外で初めて口を開いた猪狩りがヒヨコを挑発する。


「なっ何言ってるのよ。このヒヨコ様がねぇ、勝負と名の付くもので負ける訳無いじゃないの! 泣いて謝るのはそっちなんだから!」


 そしてすっかり挑発に乗せられるヒヨコ。

 ミオはもう、全てがどうでも良くなり、ただ美味しく完食しようと思った。


「位置について」


 神妙な面持ちで大将が言うと、先程まで騒がしかった店内が一瞬にして静まり返る。


「用意」


 ぐっ。と前のめりになり、それぞれ箸を手に持つ。

 ヒヨコはすっかり馴染んでいるが、ミオは慌ててポーズだけでも倣った。


「着ドン!」


 丼が目の前に置かれるや否や、全員一心不乱にがっついた。

 野菜の山を切り崩し、ズルルルと麺をすすり、豚肉の塊を噛み千切る。

 ミオはもはや、何が何だか分からなかった。


(まっ負けないんだからぁぁぁ!)


 麗しい女神の姿はどこへやったのか、必死になって豚骨スープにまみれているヒヨコが隣にいた。


(小娘、なかなかやるな……序盤のこの加速、ただの馬鹿か、それとも底無しの空腹か……見定めさせて貰おう)


 特に早いペースでらあぬんを削っていく猪狩りとヒヨコの一騎打ちに、店内はむせ返る程の熱気を帯びていた。





 こんにちは。ブロガー女神、ヒヨコです。


 美味しそうな匂いに釣られて入ったら、まさかのそこは現代のコロッセウム!

 横に並ぶは歴戦の猛者達!

 しかし私も負けてはいられません。

 勝負と名の付くもので人間に負けるようでは、女神の名折れですからね!

 流石に超盛らん魔のサイズには驚きましたが、やってやりましょう、やってやりますよ!


 それでは、そろそろ試合が始まりそうなので今回の更新はここまでです。

 以上、らあぬんに挑むブロガー女神、ヒヨコでした!

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