第5話 駄女神の服を匂いフェチの変態百合冒険者が洗います。
「ど、どうしよう……私、着替え無いまま服まで洗っちゃった」
シャワー室で涙目かつ全裸のまま、おろおろとしているヒヨコに非情な現実が突き付けられる。
「あれ、お湯止まった」
そう、シャワー室は冒険者特典で無料である。
しかし! それは1日15分限定のこと。
いくら冒険者ギルドが初心者に親切とは言え、無限にお湯は使えないのだ。
「さ……寒い……」
ぶるぶると震えながら更衣室に戻ったヒヨコは、濡れたままの服を手に取る。
粘液を落とそうと、何も考えずに洗ったのがいけなかった。
まずは粘液を我慢して着替えを調達すべきだったのだと、そう悟った時にはもう遅い。
「おや? 見ない顔でありますが、新人さんでありますか? 何かお困りのようでありますが」
隣で着替えていた少女に声をかけられる。
ヒヨコやミオよりもやや幼い外見からして、年は15か16歳くらいだろうか。
背も低く幼い顔立ちだが、ナイフで切ったかのように雑に切られた茶髪と鍛えられた身体は、いかにも冒険者といった風貌をしていた。
「あ、どうも。実は着替えを持たないまま服を水洗いしちゃったのよ」
「あちゃー、それはやってしまったでありますね! あ、私はリリィと申します!」
リリィは見定めるようにヒヨコの顔と身体を見ると、笑顔で言った。
「こんなに綺麗な方に風邪なんて引かせられませんからね! よろしければ、洗いたてですから私の着替えを使って下さい。私は余分に服を持っておりますので」
「ほ、本当に良いの!? やったぁー! これで全裸の恐怖から解放されたわ! 私はヒヨコ。よろしくね」
服を受け取り着替えると、リリィはヒヨコがロッカーに何も入れていないのを見て聞いた。
「もしかして、この街は初めてでありますか?」
「そうなのよ。ついさっきそこで冒険者登録も済ませたばっかりで。服も一着しか無かったから助かったわ」
「それでは洗濯も大変では? 私、丁度今から無人洗濯屋に行くところでした! 一着増えたところで料金も変わりませんし、もしよろしければ一緒に洗って来くるのであります! 乾燥機にかけますから、すぐにお返しできるはずでありますよ」
「良いの!? もうほんと、手持ちも無いし泣きそうなところだったのに、リリィちゃんみたいに優しい子に助けられるなんて……どっかのドSとは大違いだわ!」
ヒヨコが大喜びで服を預けると、ホールで待っていてくださいねと言ってリリィはトタトタと走って行った。
「良い子だったわねぇ。この世界も来てから酷いことばっかりだったけど、初めて良いことがあった気がするわね」
その頃、無人洗濯屋の片隅。
「すぅー……はぁ……すぅー……はぁ……」
濡れた服を抱え、ベンチにうずくまったまま息を荒くしている少女が一人。
「すぅー……はぁ……やっぱり思った通り。水で流しただけなら匂いまでは無くなっていないでありますね! 私の嗅覚を舐めて貰っては困るのでありますよ!」
幼い顔を恍惚に歪めているのは、リリィだった。
ヒヨコから預かった服を抱えたまま、一心不乱に匂いを嗅いでいる。
「さっき預かってから走ったから5分短縮……課金となりますが洗濯機のお早目モードで10分短縮……さらに課金ですが乾燥機の強力モードでさらに10分、帰りも走って5分……よし、あと30分は嗅げるであります! この至高の時間の為なら課金は惜しまないでありますよ……」
酷い変態である。
「それにしても……あの麗しいヒヨコ殿の匂い、思っていたものよりもややキツめでありますね。なんというか……ねばねばを出す雑草のような……いやしかし! このようなギャップも萌えでありますよ! ヒヨコ殿ー! すぅー……はぁ……」
リリィはその後30分しっかりとヒヨコの体臭、もとい食虫植物の粘液臭を嗅ぐと、心底勿体無さそうに洗濯機に入れた。
この洗濯機と乾燥機は魔動となっており、お金を投入することでチャージされた魔力を使用し、高速で洗濯をしてくれるのだ。
素早く、かつ綺麗に仕上げることができるということで、服を汚すことが多い冒険者達には大人気の魔法具だ。
しかしやはりと言うか、便利なものにはお金がかかる。
一回一回は少額でも、一月も使えばそれなりのお値段になってしまう。
そこで、懐が寂しい冒険者達は寄り合って洗濯機に服を放り込むのだ。
そしてリリィのような者は、この風習を悪用して自身の欲望を満たすのであった。
「ん? ヒヨコ、その服どうしたんだよ。お前、着替え持ってなかったろ」
ヒヨコに気付くと、ホールで待っていたミオが声をかける。
「ふふん、実はとぉーっても優しい冒険者の子が貸してくれたのよ! しかも、丁度洗濯に行くからって私の服も一緒に洗ってくれてるの!」
「奇特な奴もいたもんだなぁ。それでお前、そんな小さめの服着てたのか。新手の露出狂かと思ったぞ」
「露出狂な訳無いじゃない! 心優しいリリィちゃんが貸してくれたんだもの、文句なんて言わないわよ。あ、ホールに服を持って来てくれるらしいから、あんたも仲良くさせて貰った方が良いと思うわよ~」
ヒヨコはすっかりご機嫌で、リリィを心から信頼しているようだった。
「まぁ、そうだな。ヒヨコ以外にもパーティメンバーはいた方が助かるし、もしレベルが近そうなら誘ってみるか」
「え、今私以外にもって言った? つまり、私もメンバーにカウントされてる!? ねぇ! ねぇ!」
「うるさいなぁ。だってお前みたいな駄女神、私が組んでやらないと誰も組んでくれないだろ? 流石に、見知った顔が転生してすぐに物乞いとかしてるの見たくないよ」
「ちょっ……色々否定も反論もしたいけど! でもでもパーティ組んでくれるのね!? よかったー! あ、いや別に組んでくれる相手がいなさそうとかそんなことは無いのよ? でもほら、私もミオのこと見守る義務があるし! 近くで見守れた方が良いじゃない! そういうことよ!」
ヒヨコの雑なツンデレ発言に既に興味を持っていないミオは、はいはい。と適当にあしらうと冒険者手帳を読む時間に戻った。
こんにちは異世界の皆さん、ブロガー女神のヒヨコです。
今回は少しだけ良いことがありました!
なんとですね、私のことを助けてくれる人がいたんですよ。
私のことを見つめる視線なんて、恋人を見つめるみたいに優しかったですよ!
しかも綺麗な方って……女同士でも、恋愛対象じゃないって分かっていても言われるとやっぱり良いものですね!
まぁ私、女神なので人間の殿方とそういう関係にはならないので異性とかあんまり関係無いんですけども。
と、それは置いておいて、今回はもう本当に凄く嬉しかったんですけどね、逆にこういうことにも気付いちゃったんですよ。
今まで、優しく接してくれる人が少なすぎたんじゃないかっていう事実に。
はい、哀しいですね。
天界でも下界でも、私の扱いってずっとこんなんなんでしょうか……。
今日みたいな優しい人にこれからもいっぱい出会えると良いのですが!
あ、痛い痛い!
横で冒険者手帳を読んでいたミオさんが乱暴に私の耳を引っ張っています!
どうやら私にも関係のある話があるようですね。
ではでは皆さん、今回は短いですがこの辺でブログを〆ましょう。
またね~! 珍しくハッピーなブロガー女神、ヒヨコでした!