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第2話 異世界転生と早過ぎる出向辞令です……。

 スキルの変更ができないかと訊いて来たミオを相手に、ヒヨコは嬉しくなって煽りまくる。


「スキルの変更? いや、無理ですね! 一回付与されちゃったんで! 人間がそんなにぽんぽんスキル付与されたら、身体が持たなくて爆散しちゃいますよ! あはは! いや、すいませんねぇ! もっとチートっぽいのあげたいんですけどね! でもガチャがそれ出したって、それもうミオさんの運命ですよ! いやー仕方無い仕方無い。接着、いいじゃないですかー。大事な物握っとけば、神ですら盗れないですよ? あ、でも普通に考えて相手が盗賊とかなら腕ごと切り落とすとかしますよね!」


 ヒヨコはもう大笑いだ。

 必死で準備した作戦が上手くいって楽しいのだろう。

 女神としては、もはや救いようが無い程に堕ちている。

 

「……」


 ガコッ! バキッ!


「ふぇ?」


 突然の破壊音にヒヨコはびっくりする。

 目の前ではミオがスキルガチャを蹴りで破壊し、中の球を取り出しているところだった。


「あ、ちょ! やめてください! それ頑張って作ったのに!」

「はぁ?」

「あっいや……」


 ミオは先程とは全く違う表情をしていた。

 黒髪の奥から刃物のように鋭く輝く瞳に、ヒヨコはたじろいだ。


「頑張って作ったって、これお前が作ったのか? え?」

「あ……はい……」


 ミオは地面に転がる球を拾い上げて、中に入っている紙を読み上げていく。


「鑑定スキル、キノコ。これは?」

「見分け辛い毒キノコを……判別できるスキルです……」

「そうか、キノコスープを安心して飲めるな。採取にしか役立たないが。鉄の親指。これは?」

「親指が鉄並みの強度になるスキルです……」

「それで刺せば痛そうだな。まぁ、なんで親指だけなのか疑問だし剣を持つ方が賢いが。カメレオンの瞳、これは?」

「瞳の色を自由に変えられます……」

「厨二病なら喜ぶかもな。変装なら髪色の方がまだ便利だが」


 ミオの威圧感に、ヒヨコはすっかり萎縮してしまっている。


「で……他にもある意味甲乙付け難いスキルが沢山転がっているが……これらで、どう魔王と戦うんだ? ん?」


 ミオは無表情でヒヨコを覗き込む。


「これ、全部ハズレスキルだよな?」

「ごべんなざいぃぃぃ!」


 ミオの足元にヒヨコが土下座をする。


「ちょっとした! 出来心でしたぁぁぁ! 履歴書を読んだ時にミオさんが完璧過ぎたので、つい嫉妬しましたぁぁぁ!」


 足元でおいおいと無様に泣く女神を見て、ミオは一気に怒りが冷めた。そして思った。

 こんな醜態を晒すこと無く人生を終えられて、良かった。と。


「はぁ……。まぁ、もういいよ。顔上げてよその……ピヨコ」

「あっはいピヨコです! ピヨピヨ!」


 和ませようと冗談で言ったのに、必死にピヨピヨと鳴くヒヨコを見て、ミオは思った。

 誇りを保ったまま人生を終えられて、良かった。と。


「とりあえず、スキルの変更はもうできないんだよね?」

「はい……そればっかりはどうしようもありません。一度付与したスキルを剥がすことは、基本的に神でもできませんから」

「じゃあ、アロン〇ルファ人間として異世界生活するしかないかぁー」


 まぁ元々、転生するだけでもラッキーだし。とミオが諦めたように笑った時、部屋の扉が開いた。


「大変! 申し訳ございませんでしたぁー!」


 突然入室して来たのは他の女神だろうか、ヒヨコよりも背が高く、軍人然とした女性が頭を下げていた。


「イルカ! あんたなんでここに!」

「ミオ殿! この度はうちの駄女神がとんだご無礼を! 私、異世界転生部アジア支部統括部長の女神、イルカと申します! 天界一同を代表しまして、私が謝罪させて頂きます。この通り!」


 そう言うと、イルカと名乗った女神はさらに深々と頭を下げた。


「アジア支部統括部長……って事は日本支部長のヒヨコの上司の方ですか。どうか顔を上げて下さい。いや、まぁ結構人生かかってるところで滅茶苦茶されましたけど……呆れ過ぎて、逆にもう諦めもついてますから」

「ミオ殿、なんと寛大なお言葉! ほら、お前も謝らんかい!」


 軍靴のようなブーツがヒヨコの横腹に食い込む。


「ぎゅぴぃっ! あ、本当に申し訳無いです……」

「さっきも謝罪はして貰ったのでもういいですよ。で、私、このまま異世界に転生すれば良いんですか?」


 ミオはもうすっかり呆れ顔だ。


「はい、とんだハプニングとなってしまいましたが、今から転生して頂くことになります。ですがその前に……実はミオ殿に付与されたスキルは、通常付与されるスキル……所謂チートスキルに比べ、必要とする容量が格段に少ない物です。そこで、お詫びと言っては難ですが、こちらのスキルの中から何か一つ選んで頂き、その後転生という形を取らせて頂くというのはいかがでしょうか?」


 イルカの後ろから天使がスーツケースを持って現れる。

 蓋が開けられると、中にはいくつかのスキルが収められていた。


「ここに用意されたスキルであれば、人間の許容量を超える事も無いので同時に二つのスキルを所持できます。もっとも、その分多少チートよりは見劣りはするスキルとなってしまっておりますが……」

「なるほど……お気遣い感謝します」


 ミオはしばらくスキルを物色した後、イルカに告げた。


「決まりました」

「どちらにされますか?」

「スキルじゃないんですけど……この、床に転がって泣いている女神。とか、ダメですかね?」

「あ、全く構いませんよ。では、転生の儀を執り行いますね」

「悪いなヒヨコ。じゃあ、ちょっと付き合って貰うぞ」

「へ?」


 ヒヨコは全く状況が理解出来ていないようだった。

 ヒヨコを無視して、イルカと天使達はミオに手をかざした。

 一瞬にして光の輪に包まれる。


「ではミオ殿、ごきげんよう。良き人生を!」

「はい。行ってきます」

「え、ちょ、私の意思は!? やだやだ行きたくない! やっと出世したのに! まだ初日なのに!」

「あーヒヨコ、心配するな。日本支部長は私が掛け持ちするし、お前は異世界特派員に降格及び、異世界への出向扱いにしておくから。もちろん給与は出向先準拠……つまり、冒険者稼業を頑張ってくれ。ミオ殿に失礼の無いようにな!」

「うそ!? やだー! やだー! もっとダラダラしたい! 天使達に敬われたい! 転生者に崇められたかったのにー!」


 ヒヨコは必死に部屋に留まろうとしている。


「往生際が悪いぞ。アロン〇ルファ!」


 ヒヨコの首筋に手を当てると、ミオは唱えた。


「え、何して……っ! 何これ全然離れない! 離してよぉ! はな……ぐびぇっ」


 ヒヨコが言い終わらない内に転生が始まったようだ。

 光のトンネルの中を抜けていく。

 ヒヨコが叫びながら暴れているが、ピッタリとヒヨコの首筋に吸い付いた手は離れない。


「さて、二度目の人生はどうなるやら」


 涙目のヒヨコとは反対に、ミオは少し楽しそうに言った。





 ……はい、皆さんご清聴ありがとうございます。ブロガー女神のヒヨコです。


 どうですか。ご想像通りだったでしょうか。

 煽っといて号泣土下座したり、横腹にトウキック刺さったり、挙句、仕事初日に降格&出向させられたりしましたけど。

 給与が出向先準拠で冒険者稼業頑張れとか、左遷ってレベルじゃないですよこれ。

 もはや遺棄じゃないですか? 女神遺棄。つらいです。


 あ、ちなみにイルカは私の同期です。

 昔から真面目で優秀で……よく勉強を教えて貰ったなぁ……。

 まぁ、今回、横腹に思いっ切りつま先を食い込ませてきましたけど。

 というか何なんですかね、同期が直属の上司って。

 人事部にイジメられてるんですかね? 私。


 それにしても、ミオさんは本当におっかないです。

 私、あんな人相手に煽ってたとかヤバ過ぎ……。

 あの目は人殺してる目ですよ~私、見ただけでブルブル身体震えましたもん。


 さて、私はこれからミオさんと一緒に異世界で生活しなければなりません。

 というか、自分で言っておいて難ですけど、魔王とか倒さなきゃいけないんですか? 本当に?

 あのね、いくら私がスーパーな女神だとしてもですよ、相棒がアロン〇ルファ人間ですよ?

 キノコ鑑定士の方が、採集クエストでワンチャン活きますからね……。


 ……はい、全部、私が自分で蒔いた種なんですけどね!

 一瞬で収穫した種なんですけどね! 分かっております。はい。


 そんなこんなで現実逃避、もとい回想も終わりです。

 私はそろそろ覚悟を決めて、異世界に踏み出さねばいけません。

 隣のミオさんは楽しげですけど、私、全く気乗りしません!

 でも仕方無いので頑張ります。天界に帰れるその日まで!

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