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第1話 ハズレスキルを押し付けました!

 転生者候補は女神の執務室に通される前に、まずは天使から説明を受ける。

 異世界に転生をするか、転生をせずに天国で暮らすか。この時、


「転生後も死ねば天国に送られますよ~! しかも、今なら特別に異世界転生にチートスキルもお付けしますよ! 今だけ! どうせ後で天国に行けるんですから、とりあえず一回異世界転生挟んでおきましょ? ね? 天国なんていつでも行けますよ! チートスキルで異世界転生、皆様ご満足頂けてますよ~」


 と説明をするのがミソだ。

 すると、じゃあとりあえず転生してみるか~と、大抵の転生者候補は転生を希望してくれる。

 転生者候補は、大体が若くして不慮の事故で死んでしまったパターンだ。

 厨二病、高二病真っ最中の彼らは簡単に釣られてくれる。チョロ過ぎる。

 ちなみにこの手法は同期の女神が考案したもので、既に他の地区では成果を挙げているようだ。 


 そして、そんな策略にハメられたのか、単純に未練があったのか、転生を希望した候補者が天使に案内されて廊下を歩いて来る。

 ついに、日本支部初の面談の時間が来た。


「大丈夫よ私、セリフもちゃんと覚えたし、さくっとチートスキルに見せかけたハズレスキルを与えてから、女神らしい威厳と慈愛を持って送り出すだけ……簡単簡単。リラックスリラックス~」


 必死に女神らしくしようとするヒヨコの前に、とうとう転生者候補が現れた。

 案内をして来た天使が扉を閉めて部屋を出たのを確認すると、ヒヨコは用意していた定型文を笑顔で読み上げる。


「佐渡 澪さん。この度はご愁傷さまでした。そして、転生を選択してくださり、誠にありがとうございます。私はあなたを担当します女神の日与子。本日はどうぞ、よろしくお願い致します。」


 ヒヨコはこれでも女神だ。

 ヒヨコの羽毛が如く明るい金髪に白い肌。大きな瞳は輝く金色で、その姿は人間の常識を遥かに超える可愛らしさである。

 そしてその太陽のような笑顔は『女神らしさ』の為に、毎日必死に練習してきたヒヨコの全力ビジネススマイルだ。


「天使からの説明でご不明な点はございますか?」

「こちらこそよろしくお願いします。不明な点は特に無いです」


 さらりとした黒髪のショートヘアで、クールな印象を与える少女だ。

 可愛いや綺麗と言うよりも、格好良いと評されるタイプの美少女。

 なるほど、女子からの人気が高かった訳だ……とヒヨコは内心で顔面チェックをする。


(まぁ、私の可愛さ程ではないけれど、女神と比べちゃ可哀想ね)


 ジャンル違いの美少女に対し、大した自信である。

 ちなみに、実際ヒヨコは同期から常々「顔は良いのに頭は悪い」「あと10センチ上に栄養いかなかったのか」と言われている。

 そして、悪いところは忘れてしまい「顔は良い」というところだけが記憶に残っている。

 可哀想な自信家である。


「それでは私から簡単に確認をした後、スキルの付与とさせて頂きますね」


 ヒヨコは、必死に女神らしく説明を始める。


「ミオさんがこれから転生する世界は、元いた世界とは少し違った発展を遂げた世界です。科学の代わりに魔法が発展しており、実質的な文化水準は概ね変わりません。ただ、端的に言えば剣と魔法の世界ですので、街並みや服装は中世のヨーロッパ辺りとお考え下さい」


 ここまで喋って、ヒヨコの口調が怪しくなってきた。


「えーと……とにかく、お風呂とかご飯とかは心配しなくて大丈夫です! あちらの食べ物や言語、免疫力等についても、一律で付与する基礎スキルでいい感じになるんで大丈夫です!」


 ヒヨコはもう顔が真っ赤になっていた。


「あの、女神様、大丈夫ですか? 私も事前にある程度聞いていますので……」

「し、心配して下さらなくて大丈夫です!」


(最悪! 緊張でセリフ全部忘れちゃったじゃないの! しかも、全部事前に聞いてるのに改めて私が説明して、その上セリフ忘れて慌てるとか道化もいいところじゃない! もういい、さっさとハズレスキルを付与しちゃいましょ)


「まぁ、とにかく元の世界とは違う点が多いですから! 現地で初めて知ることも沢山あるかと思いますが、なんかまぁ上手い感じにやって下さい。あ、あと人類より数段ヤバい奴、つまり魔物とかが沢山いるんですけど、あなた達転生者は基本的に魔王討伐を目標にして貰うって事になっているんで。これ、上からの指示なんで。まぁいきなり異世界で魔王倒せとか私も大変だと思うんですけどね、よろしくお願いします」


 最後にさらっと重要なことを言う。

 やり切ったぜ。という表情のヒヨコと対象に、ミオは不安げな表情でいる。


「は、はぁ。分かりました」

「じゃ、じゃあスキルの付与に移りますね!」


 そう言うと、ヒヨコはデスクの上から大きな機械を持って来た。


「じゃじゃーん! スキルガチャ~」


 某青狸のような口調でミオの前に置いたのは、大きなガチャポンだった。


「これはですね~、あなた自身の手でスキルを選び取って欲しいという想いから作られた神具なんですよ~。このレバーを回して貰いますとね、なんと! 中からスキルの入った球が出てくるんですね~。簡単でしょ?」


 もはや女神らしい口調なんてものは諦めたらしい。


「なるほど。もっと、魔法陣とかに乗るのかと思ってました」

「いやいや~私、これでも女神ですから! 魔法陣なんて使いませんよ~魔法使いとは違いますからね~」


 ふふんとヒヨコが胸を張る。


「では、回させて頂きます」


 ミオはレバーを掴むと、ガチャガチャと回した。


(ふふふ……急いで作った甲斐があったわね。このスキルガチャ、詰まっているのは全てハズレスキル! でも、自分で選ばせるということで運命性を感じさせ、こちらの非を感じさせない作戦よ! 私ってば天才! 神!)


「あ、出ました。開けます」


 コロン。と出てきた輝く球を手に取り、少し眺めてからミオは蓋を開けた。

 すると球の中から光がミオを包み、しばらく輝いた後、ミオの中に納まっていった。

 後には、空になった球だけが残された。


「これで、スキルが身に着いたんですか? というか、何のスキルだったんですか」

「はい、完璧に問題無くイイ感じにスキル身に着いてますよ~。あ、スキルは紙に書いてあるんですよ。よいしょっと。お~、これはこれは、何とも珍しいレアスキルですよ! このスキル持っている人は未だ一人もいませんね!」


 球を開けた時に落ちていた小さな紙切れを拾うと、ヒヨコは笑いながら言った。


「そんなにレアなスキルなんですか。それで、一体どういった内容ですか?」

「接着です」


 しーん。数秒、空気が消えたように静まり返った。

 ヒヨコだけは心の中で何度もガッツポーズを決めた。


(どうよこの絶望した表情! めっちゃ期待してたのに裏切られたっていう表情! してやったり!)


「接着、ですか」

「接着、です」

「あの、失礼ですけど、接着ってどういうスキルなんですか」


 名前の微妙さと裏腹に、実は物凄い能力なのではないか。そう期待してミオは尋ねる。


「え、普通に接着します。ペタッと。アロン〇ルファみたいな感じで」


 ヒヨコは半笑いで答える。


「アロン〇ルファですか……あの、これもしかしてハズレとかじゃ……」

「いやいや~素晴らしいスキルですよぉ! だってね 、一瞬ですもん。くっつくの。離れるのも一瞬で、くっついちゃって離れない~困る~みたいなのも無いです。ミオさんの好きなタイミングでくっついたり離れたりしますよ!」


 必死に凄そうに語っているが、全く凄そうに見えない。


「あ、試しにやってみて下さいよ~。あ、今手に持ってる空の球とかいいじゃないですか! くっつけ! って力込めたらくっつくんで」


 言われた通りにやってみると、確かに球は手の平にくっついた。


「確かに、逆さにしても落ちないですね」

「でしょ~? これね、剣とか持ってる時にお勧めです。汗で滑ったりしませんから」

「は、はぁ。これ、手のひら以外でもできるんですか?」

「足の裏も大丈夫ですよ。靴くらいなら効果は貫通します。同様に、手袋して貰っても大丈夫です! 凄い! 4カ所くっつく!」


 ミオは逆に手足の4カ所だけかよ。というツッコミを入れたそうな表情をしている。


「あの、これ某蜘蛛のヒーローみたいに手からアロン〇ルファ出すとかは」

「あ、そういうのじゃないんですよ。液体とかじゃないんです。くっつくという概念なんですよ」

「はぁ……で、これでどうやって魔王倒すんですか」

「え? いや私に聞かれましても。っていうか普通に考えて無理じゃないですかね?」


 思わずヒヨコは素で答えてしまう。


「……すみません、他のと交換とかってできますか」


 ミオは信じたくなかった。

 自分が引き当てたスキルが、あろうことかアロン〇ルファだったなんて。





  ……はい。どうも、ブロガー女神のヒヨコです。


 異世界から私のブログをご鑑賞中の皆様、こんにちは。

 ここまで私の現実逃避、もとい回想にお付き合い頂いてありがとうございます。


 実はこれ、今から少し前の出来事なんですよね。

 私、思いっ切り調子乗ってたなぁ……浮かれてたなぁ……。

 えぇ、もちろんミオさんの期待を裏切られたって感じの心底残念そうな顔、最高でしたよ!

 その後に私の身に起きたことを除けば。


 仕方無いですよね。管理職になったばかりですもん。

 人間から、女神様って言われる初の機会でしたもん。


 ……今ですか? ははは……いやもう、最悪ですね。

 できる事なら、当時の私を殴りってでも止めたいです。

 調子に乗って転生者候補にウザ絡みとか、ましてや一時のノリと勢いから、面白半分での嫌がらせとか、いやほんともう後悔しかしてないですよ。


 当時の私は、ミオさんが来るまで必死にハズレスキルを考えながらガチャポン組み立ててたんですけどね、今だったらはっきり言えますね。

 変な欲を出さずに、普通に仕事をやれって。

 その時間があったら、茶菓子と紅茶でも出して来て、もてなす準備しろって。


 まぁ、察しの良い皆さんなら私が今どういう状況か、なんとなく分かると思うんですよ。

 ですけどね、一応そこまでの経緯とか、もう少し語らせてください。

 私、自分で自分に起きたこと整理しないと、とても受け入れられないような状況なので。はい。

 今の時間軸と現実を受け入れられるまで、もう少しお付き合いください。


 ……ヒヨコでした。これでも、女神なんです。私。

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