プロローグ2 この転生者候補、なんだかムカつきません?
オウルから愚痴……もとい説明を受けて一ヶ月。
あれから天界は大忙しだった。
久々に大きな部署を新設するということで、神も天使も残業に残業を重ねて立ち上げ作業を進めていた。
しかも度々ふらっと視察に来る役員達が、その場の思い付きで新しく注文を付けて帰って行くのだ。
現場の神と天使は、何度堕天しかけたことだろうか……。
そして今日、日本支部はようやく初めての転生者候補を受け入れることになった。
「ついに、今日が異世界転生部日本支部長としての初面談ね……短くも長い……地獄のような一ヶ月だったわ。でも、ようやくこれで少しは皆に追い付けるかしら……」
ヒヨコはデスクに置かれた集合写真を見る。
天界学校の卒業式に撮ったもので、そこには同期達と笑顔で写るヒヨコがいた。
ヒヨコは、ふふ。と笑うと、いつもの調子に戻る。
元来、ヒヨコは元気が取り得な性格で親しまれていた。
こうして感傷に浸っている姿は滅多に見られないのだ。
「それにしても、早く転生者のドラマが見たいからって、異世界転生部の立ち上げを一ヶ月でやれだなんて滅茶苦茶言うわよね~。まぁ、立ち上げの時に大量にポストが新設されたお陰で昇進できたから、残業はキツくても私にはすっごくラッキーだったんだけど! さーてさて、初めての候補者さんはどんな子かしら?」
天使達が用意した履歴書を手に取る。
「なるほど、女子高生かー! 高校3年生で、家柄、人望、良し。文武両道……顔も良し。なかなかやるわね」
まぁ、ここまではたまにいるわよね~転生者候補に選ばれるくらいだし~。と負け惜しみのように自分を納得させながら読み進める。
「死因は……あらまぁ、ナイフで刺されちゃったの! これは嫉妬とかかしらね~」
ペラペラとページをめくっていく。
「ん? 何これ。受験ストレスで発狂したクラスメイトから、推薦で大学合格した他のクラスメイトを庇って刺された……両者との関係は元々良好で、刺された後も恨み言を言わずに息を引き取る……」
ヒヨコは、うへっという顔をした。
「あー何これ何これ、ヒーロー願望? むーりー! 私、そういうのむりー! しかも最期の言葉は……」
『そんなに苦しんでいたのに、気付けなくてゴメンな』
『私に庇われたとか、そういった事は気にしなくて良いよ。好きでやった事さ』
ヒヨコは履歴書をぶんっと投げる。
「な・ん・で! 二人共フォローしてんのよ! イケメンか! お前、これで死んだんだぞ! 花のJKこれで良いのか! ウザッ!」
バタバタと両手を振り回し、ヒヨコは叫んだ。
「あーもう、最初がこれとか逆の意味で難易度高過ぎでしょ! 私女神なのに! 私より女神すんな! これなら根暗童貞ヒキニートの方がマシだったわ!」
ここ最近、残業続きで気が立っていたのかもしれない。
ヒヨコはちょっとした嫉妬から、面白半分で嫌がらせを決意した。
ふぅ。と息をつくと、ヒヨコは悪い顔をする。
「まぁ~要するに? 役員のジジイ共も面白い展開に期待しているようですし? よその地区の担当者みたいに、ただのチート冒険者に仕立て上げてもつまんないわよね~。そこで、私ったら天才! 神! この完璧美少女にクッソ微妙なハズレスキル授けて、異世界でどこまでやれるかチャレンジして貰うって企画やりましょ! そうしましょ! 決定~」
別に、この子に嫉妬したとかじゃないのよ~。いかに認可ギリギリの凄いチートスキルを授けるかで出世競争してる同期達とのインフレバトルから降りて、アイディア路線で上司にアピールするだけなんだから~と自分に言い聞かせるように言い訳を5分程喋ってから、ヒヨコはまた、悪い顔をした。
「さてさて、どんなハズレスキルが面白いかしら」