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第14話 芽吹きの街ジェルムで期待の新人です!

「嬢ちゃん達、大丈夫かー!」


 ヒヨコとミオは墓掘りアナグマを討伐し街へ帰る途中、ギルドから緊急派遣された応援隊に会った。

 二人が荷車を止めると、荷台に乗せられた墓掘りアナグマの死体を見て応援隊の冒険者達が驚いた。


「こいつは驚いた……まさか本当に二人きりでやっちまうなんて」

「しかも見たところ、大した装備も無いじゃないか。一体どうやったんだ!?」


 二人は、なんでこんなに大事になっているんだと顔を見合わせる。

 二人には何故応援隊が派遣されてきたのかも、何故そんなに驚いているのかも分からなかった。

 何故なら、二人はこのクエストが自分達初心者に妥当な難易度だと思い込んでいたからである。

 街へ帰り、借りていた荷車と墓掘りアナグマをギルドが運営する解体所に引き渡す。

 応援隊の冒険者達とギルドに戻ると、ホッとした表情のミルクが出迎えてくれた。


「心配しました……この度は、本当にすみませんでした」


 ギルドの応接室に通されたヒヨコとミオは、何が起こっているのか分からないままソファに座っている。

 向かいにはミルクとチヤが座っており、チヤは申し訳なさそうにうつむいている。


「一体どうしたんですか? 私もヒヨコも状況が飲み込めていなくって」

「実はですね……あなた方にご案内したクエストは、本来、初心者にはご案内しないものなんです」

「「えぇっ!?」」

「でもこれ、二人~で討伐できるって書いてあったわよ!?」

「実際、私達はケガも無く討伐してきた訳だし……」


 驚く二人にミルクが墓掘りアナグマの恐ろしさを説明をした。


「はい、今回は討伐が成功し、お二人にケガも無かったので本当に良かったです。 でも、墓掘りアナグマはとても危険な魔物なんですよ……既にご存知かもしれませんが、墓掘りアナグマの脂肪は非常に厚く、通常の攻撃では一撃で倒すのは難しいです。そうなると反撃を受けてしまいますが、反撃を正面から受ければとても無傷では済みません。つまり強力な魔法攻撃で反撃を受けないように一撃必殺を狙うか、大人数で囲んでお互いにフォローしつつ戦うのが正攻法です。ですがあなた方は……」


 二人はお互いの装備と戦いの過程を思い出す。


「包丁のような短剣と中華鍋を一つずつ装備しただけの駆け出し冒険者が二人……どうりで強かった訳だ! しかしこの包丁、なかなかの切れ味だったな……」

「じゃあ私が正面から攻撃を受けてもやられなかったのって、実は凄いってことかしら! ミオ、やっぱりこの中華鍋と私はベストパートナーみたいだわ!」


 死んでいたかもしれないというのに、全くお気楽な会話をしている二人を見て、ミルクは呆れたように笑った。


「まったく、あなた方は本当に規格外のようですね……歪なステータスを叩き出して驚かせたかと思えば、冒険者登録初日に冒険者達を相手に演説をし、すっかり心を捉えてしまうし。かと思えば超盛らん魔の最速記録を更新。そして今度は、たった二人、それも包丁と中華鍋だけで狂暴化した墓掘りを討伐……たった二日間の出来事とは思えません」


 そんなに褒めないでよ~とヒヨコが顔を緩ませる。


「さて、今回の墓掘りアナグマ討伐クエストをあなた方に依頼してしまったのは私達ギルドのミスです。ほら、チヤ」


 ミルクに促されると、先程までうつむいて黙っていたチヤが泣きそうな顔で謝った。


「私のミスでお二人を危険な目に遭わせてしまって、本当に申し訳ありませんでしたわ……どうか、どうかお許しくださいまし」

「あーまぁ、良いよ。結果オーライだ。私達も丁度、手っ取り早く経験を積みたかったところだし。な、ヒヨコ?」

「そうよ! 結局上手くいったんだから、そんなに落ち込まないで良いわ。そうね、今晩ちょいとお酒をご馳走してくれれば……」


 すかさず酒をたかろうとするヒヨコを叩くと、二人は笑った。


「ヒヨコさん、ミオさんありがとうございます。この子、つい先日から働き始めたんですけど、なかなか上手くいっていなくて。でも良い子なので、今後ともよろしくお願いしますね」

「どうぞよろしくお願いしますわ……皆さん警戒されていて、私の窓口だけ、毎朝全然人が来てくださいませんの」


 なるほど、異常に窓口が空いていたのはそういう理由か。と納得する。


「ところでお二人とも、本当にお怪我はありませんか? 今回に関しては全てギルドから補償が……」

「あっあの! こいつ、多分今回の戦いで頭がやられちゃって! ちょっとアホになっちゃったんですけど……」

「ちょっと待ちなさいよ! 私頭なんて怪我して無いわよ!」

「黙ってろヒヨコ、ギルドに補償して貰えるチャンスなんだぞ! お前の頭の酷さは事実だしな」

「ちょっとちょっと! 聞き捨てならないわね! いくらお金の為でもプライドまでは売らないわよ!」


 二人がなんだとーっ! と口喧嘩を始めたのを見て、チヤがやっと笑顔になる。

 それを見て、安心したようにミルクも微笑んだ。


「元気そうでなによりです。それでは、そろそろ始めますか!」


 そう言って手を二回叩くと、応接室のドアが開いた。


「お話は終わったかい! 俺ら、もう待ちきれねぇよ!」

「ミルクさん、料理の準備できました! お二人の好物が分からなかったので、とりあえずらあぬんの出前も取っておきました!」

「墓掘りアナグマのステーキ、そろそろ焼き上がります!」


 ドアの前にいた大勢の冒険者達がなだれ込んで来る。


「お、おい何だこりゃ!?」

「ミオ、凄く良い匂いがするわよ!」


 ふふっと笑ってからミルクが説明する。


「お二人の歓迎会兼、祝勝会ですよ! ここジェルムは芽吹きの街とも呼ばれていて、駆け出し冒険者の聖地なのです。そして今日は期待の新人が登場したんですから、こんな日は宴に決まっています! さぁさぁ呑みますよ!」


 二人は、ミルクもジェルムの住民なんだなぁ。と実感した。

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