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第10話 登録するクラスが(半強制的に)決まりました。

 沈黙を破ったのはミオの方だった。


「……一応聞くけど、巨大なひよこって、どれくらいの大きさなんだ?」


 家くらいの大きさなら、まだ望みはあるという顔をミオがしているのを見て、ヒヨコは震えながら言った。


「私の身長より少し高いくらい……です……」

「それっ、ただの着ぐるみじゃねーか!」


 我慢できなかったのか、ミオがぴしゃっと水をかけながらツッコミを入れる。


「着ぐるみじゃないもん! ちゃんと変身だもん! それに、実物のヒヨコと比べたら何十倍もあるんだから巨大よ! 私、嘘言ってないもん!」


 ヒヨコの必死な言い訳に呆れて、ミオは天を仰いだ。


「ヒヨコー、悪いことは言わんからさ、な。お前は肉の盾が一番向いてると思うよ」

「ひっ酷い! いくら死なないって言っても痛いんだから! 治るまで多少時間もかかるし!」

「でもさぁー、お前にできることって、他に何があるんだよーぉ」


 ミオはすっかり諦めモードで、石にもたれて天を仰いだままだ。


「私にできること……私にできること……ちょっとだけだけど、回復魔法が使えるわ! あとは魔法耐性に状態異常耐性……」

「お前、やっぱりどう考えても肉盾が天職なんじゃ……」

「やだよぉ! 私、肉盾なんてやだよぉ!」


 ヒヨコが泣くと、トリップしていたリリィがこちら側へ戻って来た。


「ヒヨコ殿の涙飲みた……じゃなかった、クラスについてお困りのようでありますね!」


 漏れかけた心の声を飲み込み、リリィが話に入る。


「そうなんだよ、ヒヨコが肉盾じゃあ嫌だって言って聞かないんだ。絶対向いているのに」

「なるほどなるほど。確かにヒヨコ殿は高い耐性を誇っていますから、私も前衛職には賛成なのであります! とりあえず二人でのパーティなら、片方が敵を引き付け、もう片方が隙を見て致命の一撃を入れるという戦法が王道でありますからね。ヒヨコ殿、聖騎士なんていかがでありますか?」


 泣き顔のヒヨコにリリィが尋ねる。

 ヒヨコは聖騎士がいまいち分からないようで、首をかしげた。


「聖騎士は、よくパラディンとも呼ばれる前衛職なのであります。求められるのは高い防御力! パーティの守りの要として、どんな敵を相手にしても仲間を庇えるだけの堅さが求められるクラスでありますね! ヒヨコ殿の回復魔法や耐性とは相性も良いかと思われますが、いかがでありますか? 聖騎士は仲間を守る鉄壁の盾となるので、パーティを超えて尊敬の対象でもありますよ!」


 リリィの話を目をキラキラさせて聞いていたヒヨコは、ミオに向き直って言った。


「ミオ、私が聖騎士になってあんたを守ってあげるわ! 感謝なさい!」


 言われていることは結局のところ肉盾なのだが、ヒヨコはすっかり聖騎士になるつもりのようだ。


「リリィ……物は言いようだな。助かったよ」

「いえいえ。私は聖騎士について解説したまででありますから!」


 聖騎士は、最前線に身を置くことから装備や服が汚れやすいクラスだ。

 リリィは、またお洗濯を一緒にするでありますよ。と言ってほくそ笑んだ。


「ヒヨコが聖騎士なら、私は盗賊かな」


 ミオはヒヨコの選択に合わせてあらかじめいくつか候補を考えていたようで、アッサリと答えを出す。


「盗賊でありますか! 戦闘、斥候、小細工と様々な役割を要求されますが、ミオさんの全体的に高いステータスなら問題無くこなせると思うであります! 特にダンジョン探索では必須な役職ながら、習得項目の多さから敬遠され、最近は不足気味と聞くであります。きっとミオさんならすぐに、どのパーティにも出張をせがまれることになると思うでありますよー」


 流石にベテランの冒険者だけあって、リリィは詳しい。


「ところでさ、リリィは……もし良かったら私達と組んでくれたりはしないかな? こっちも、先輩冒険者がいると心強いんだが」

「うー、参加したいのは山々なのでありますが、実は私、今は長期クエスト中なのでありますよ。大怪鳥って聞いたこと、無いでありますか? 目撃情報の非常に少ない魔物なのですが、最近、隊商が襲われたのでありますよ! それで急遽結成されたスクランブルパーティに招集された私は、大怪鳥を追ってこの街に来たのであります」


 大怪鳥。それは並みの竜よりも巨大な、災害に等しい存在。

 鉱石と家畜を狙う為、文献を遡れば人間と大怪鳥との戦いは非常に長いことが分かる。

 頭上には宝石のトサカが有り、鉱石を食べることでトサカを成長させ、自身の魔力としていると考えられている。

 剣は届かず、魔法も効かず、硬い羽は矢をも弾く。現在、警戒すべき魔物の中でも上位に君臨する存在である。


「と、さっきギルドの新聞で読んだよ。珍獣特集か何かかと思って読んでいたけど、まさかこの街に来ていたなんてね……流石に、スクランブルパーティからリリィを引っ張るつもりは無いよ。困らせて悪いね」

「っていうかリリィ、そんなにヤバそうな魔物の対策で呼ばれるなんて、もしかして滅茶苦茶強いの!?」

「確かに。歳が近いように見えたから誘ったが、凄く失礼なことをしてしまったかもしれないな。悪い」


 ミオとヒヨコが驚いて謝る。


「いえいえ! 私はたまたまの数合わせでありますよ! 魔弾砲手……いわゆるガンナーをしているのですが、大怪鳥に対抗するには飛び道具が不可欠でありますからね。元々ここら辺では少ないガンナーだったということで招集されたのでありますよ! 他のメンバーはベテランさんばかりで、私が一番下っ端なのであります」


 謙遜なのか事実なのか、両方なのかは分からなかったが、少なくともギルドがリリィを、大怪鳥に対抗し得る腕のガンナーだと認めているのは分かった。


「大怪鳥だなんてなんだかおっかない話を聞いちゃったけれど、すぐに私も実力を示してリリィを助けに行くんだから! でしょ、ミオ?」

「あぁ、友達に守られるだけじゃ……悔しいもんな」


 ミオとヒヨコが頷くと、リリィは笑顔になった。


 ……実はこの笑顔は綺麗な笑顔では無く、割と酷い思考の上に生まれた笑顔だったのだが、ミオとヒヨコは、リリィが自分達を冒険者の仲間だと認めてくれたから、笑ってくれたのだと思っていた。

 ちなみにリリィが笑顔になった理由とは……。


(うひょーっ! 大怪鳥の恐怖に怯えながらも私の為に成長を求め、パートナーと固く約束する熱い展開でありますねぇ! まさか、私の為にこんなシーンを見せてくれるなんて……しかもミオさん、さりげなく私のこと友達って! うぅーっれっしぃ! であります! あぁ、綺麗な女の子同士の友情……その間に、自分も入れて貰えているのは感動ものであります……百合の直線ではなく、百合のトライアングルになった感動……あぁ、今日は萌えイベント多過ぎて、私には負担が大き過ぎるでありますよぉっ!)


 リリィは基本的に善人で親切、そして腕も立つのだが、致命的に変態で百合だった。





 こんにちは! ブロガー聖騎士、ヒヨコです!


 ……嘘です!

 まだ聖騎士で登録していません。


 それにしても、聖騎士って良い響きですねぇ。

 聖なる騎士ですよ?

 人々の幸せを守る、神聖な女神には相応しいですね!


 どうしましょう、私が大人気になっちゃったら!

 ヒヨコ色の騎士なんて呼ばれちゃって、毎日どこかのパーティに勧誘され、街を歩いては子供に花を渡され、隣町まで行けば尾ひれのついた噂が流れている……。

 こういう、異世界チート無双! みたいな展開憧れますよね!


 まぁ、現実はひよこにしか変身できない私と、アロン〇ルファ人間のミオさんな訳ですが……。


 以上、暇な時はチート無双で英雄になる妄想をしているブロガー女神、ヒヨコでした!

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