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BANDの中の僕たち

作者: 藍美

『彼ら』7人はとっても仲がいい。

もともとは某作品の撮影で出会った関係だけれど、今では予定の空いている日はお互いの家を行き来したりしている。お互いの予定が埋まっていても、BANDと呼ばれるアプリを利用して毎日のように文字や通話でやりとりしている。

たった1つの作品から始まった縁が、既に1年以上も続いているのだ。


『今日もお疲れ様でした』


7人のうちの一人・緒方が連絡を入れるとすぐに返信が入った。


『緒方さん、もう上がりですか?お疲れ様です』


真っ先に既読をつけ、返信をしたのは作品でリーダー役を演じていた原野だった。

彼は他の6人にとって本物のリーダーのような感じだった。当初はスタッフが行った演技初挑戦である緒方への配慮が理由で険悪な関係になっていたが、それを柴田が注意してからはお互いに打ち解けて仲良くなれたのだ。

柴田は今でも自分を気にかけてくれているようで、よく個別で連絡をくれたりもする。


『緒方さん~、お疲れさま。今日も頑張りましたね』

「わ……泣きそうだ。ありがたいなぁ、ほんと」


あの頃は演技初挑戦であることを理由に不安しかなかったが、こうやって気にかけてもらえていたことで随分と救われたものだ。

主役を演じた神谷は普段は落ち着いているが、たまに惚気と称して自分の姪っ子の写真を送りつけてくることがある。現在2歳らしく、悔しいのだが非常にかわいい。緒方は自分に兄弟が居ないため、思わず羨ましいと感じてしまったとか。


『緒方さん、仕事終わりました?お疲れーらいす!』

「ビックリした……ふふっ。お疲れとカレーライスとかけたんだな」


元気のいい返信を送ってきたのは、メンバーで最年少の石原。出演者の中で唯一の平成生まれだ。

若いこともあって7人の中で最も元気がよく、同時に知識も凄いものがあって、年上であるはずの昭和生まれの自分を超えているのではないかと思えることがある。


『緒方さん。お疲れーらいすは無視しておきましょう』

『うん、すごく寒いので』

「あはは……」


結城と鮎川に『寒い』と言われて思わず苦笑いである。

石原は『えー……頑張ったのに』という言葉とともに頬を膨らましている子供の写真を添付してきた。もちろんだが、石原は緒方含む全員からツッコミを食らったという。


『お前、そんなかわいい年齢じゃないだろ』


原野がぽつり。それに柴田が『その通り』と一言追い討ちをかける。

神谷は『20代ならもうお兄さんだよね』と謎めいたフォローを入れ、全員の頭に疑問符を見舞う。しかし、これはお互いを信頼しているからこそ出来るやりとりであることを緒方は知っていた。

自分が彼らを信頼していないわけではない。むしろ、彼らを心から信頼したいと思っても役者と音楽家では立場が異なるため、あまりなことは出来ないと思っている自分が居るだけだ。

彼らは本気でぶつかってくれている。それならば自分も本気で返したいと願った。


けれど、自分はそれほど器用な人間ではない。そう思って緒方は小さな溜め息を吐いた。


「俺には難しいのかな。あの人たちの中に入ることって」

「……まだそんなこと言ってるのか?」

「……え!? え?」


ぽかんと開いた口が塞がらない状態の緒方。

それもそのはず、目の前には6人の仲間たちが居たからだ。困惑した様子で6人を見つめていると、『今日誕生日じゃないですか』と柴田から発言があった。


「誕生日? ……あっ、ああ、忘れてました」

「自分の誕生日を忘れたら駄目ですよ? 今日はお祝いといきましょう」


神谷に手を引かれて緒方含む7人はとあるレストランへと入っていった。

そこは特定の階層の客人しか入れないような場所で―――サプライズだったこともあり、普段着というか仕事着のような格好の自分が入っていいのかと悩んだが、素直に厚意を受け入れることにした。


「今日は神谷の驕りらしいぞ。いろいろと頼んでいいから」

「えっ……? はぁ……」

「緒方さんが余計に気を遣うからそれ言っちゃ駄目です」

「……」


結城が『何にします?』と言ってメニューを見せてくる。結城を除いた6人がいっせいにメニューに目をやった。


「こら!」


結城が注意すると緒方も含めて全員がメニューから離れた。


「緒方さんはいいの」

「は、はい……」


赤面しながらメニューに目をやると、緒方はそのあまりに高い値段に目が飛び出るかと思ってしまった。

支払い役の神谷に申し訳ないと思い、最も安価な食品を注文した。それでも軽く万を超えているのだが……そう思っていると他のメンバーは遠慮なく高いものを注文していた。


「(す、すごい)」


緒方は付き合いが浅いからとまだ遠慮している部分があるのだが、他の5人に関しては神谷への遠慮はないようだ。

緒方は1人困惑していたが、少しだけ勇気を出して高い食べ物も注文した。


「おっ、その調子や」


原野がにやりと笑う。少しずつ心を開いてくれていると思ったようだ。

自分は心を開くのが苦手だから申し訳ないと思いながら、それでも6人の気持ちが嬉しくもあり、この日は疲れるのも構わずに盛り上がったという。




そして翌日。

はしゃぎすぎた所為で全身が筋肉痛となった緒方は、BANDのチャットルームに『思い出の筋肉痛が来た』と不器用なりに書き連ね、6人から喜ばれたのだとか。

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