障壁
《これは、あなたがやっているの?》
《そうだ、俺の能力は『障壁』、サイコキネシスの一種だ。物理的な攻撃のみならず、思念波も遮断する》
《あの男の手のひらが裂けたのも、あなたの仕業?》
少女の心から恐怖の色が消え去り、急速に穏やかになっていくのを俺は感じた。
《ああ、『障壁』の表面を刃のように固く研ぎ澄ませた。俺がその気になれば君は刃物も使わず、敵を切り裂くことができる》
「この防御力の高さは異常だ。A級……いや、特A級か……」
マオは少女の能力に戸惑いながらも攻撃を続けていた。
しかし、一向に攻撃が通る気配はなかった。
マオは、こめかみに青筋を立てて叫んだ。
「パク! 娘へのジャミングはどうなってる!」
「きかねえんだよ!」
パクが口から泡を飛ばした。
残念ながら俺が少女と接触している限り、パク程度の『思念波』なら容易に遮断できる。
しかし、守っているばかりでは敵は倒せない。
精神力は無限ではないのだ。疲れれば『障壁』の強度は低下する。
《おい、いい加減、攻撃しろ》
俺は少女をせっついた。
《どうやって?》
刀を握る人間から、そんな質問をされて俺はげんなりした。
《いいから刀を振り回せ!》
《こお?》
《…………》
本当にひどかった。
腰も入っていないし、間合いも何もあったものではなかった。
マオもパクも刀を避ける素振りすら示さなかった。
「こいつ防御能力は高いが攻撃はからきしだな。そんなへっぴり腰で人が斬れるものか」
当初、少女の能力にショックを受けていたマオも平常心を取り戻してしまった。
「俺がこいつで、ひっくり返してやりますよ」
パクは、そう言いながら槍をしごいた。
少女が間合いを詰めるために前に出れば、槍で足をひっかけて転倒させようという魂胆だ。
『障壁』で守られた相手でも、転がすことはできると考えたのだろう。
《その計画に乗ってやろう》
俺に嗜虐心が芽生えた。顔があったら意地の悪い笑みを浮かべていたことだろう。
《えっ? 何?》
俺の中に瞬時に芽生えた考えを全てトレースできなかった少女は困惑の表情を浮かべた。
《両手で刀の柄を握れ》
《はい》
少女は素直だった。
卵型の形のいい顎を軽く引いて、独り言をつぶやくように俺の指示に応えた。
握り方は満足のいくものではなかったが、きりがないので目をつぶった。
《刀を腰の高さに、切っ先を相手に向けろ》
《はい》
軽く腰を落とし、刀の切っ先をマオに向けた。
《右肩を前に》
《こう?》
突進力を増し、防御力を高めるためにやや半身に構えさせた。
少女には変な癖がなく、俺の指示通りに動いてくれた。
《さまになってきたじゃないか》
しかし、そうはいっても少女に圧倒的に足りないものがあった。
それは、殺気であり、闘気であった。
このままでは最後の最後で気合負けしてしまうだろう。
《目を閉じろ》
《えっ?》
相手の目を見なければ気合負けもくそもない。俺はそう考えた。
《俺を信用しろ、誰もお前を傷つけることはできない》
《でも……》
流石に怖いのだろう。
だが、俺はこの方法が一番だと思っていた。
《両親の仇を討ちたくはないのか?》
しかし、少女は逡巡していた。