反撃
「このアマ、何しやがる!」
少女の動きは、すぐにマオの気づくところになった。
マオは刀の柄を握った少女の手首をつかもうとした。
《刀から手を離すな!》
突然、マオの左の手のひらから血がしぶいた。少女の手首を掴もうとした方の手だ。
「なっ!」
マオは慌てて跳ね起きようとした。
《鞘から解き放て!》
少女が力を込めて引き抜くまでもなく、刀がバネ仕掛けのように鞘から飛び出した。
俺が能力の一部を使って抜刀をサポートしたのだ。
マオは少女に刀を奪われたまま刀の届かない後方へと飛びずさった。
危険の匂いを嗅ぎ取ったらしい。身のこなしも素早かった。
一方、少女は抜身の刀を逆手に握ったまま、地面に身を横たえたままだった。
「っつ!」
マオの左の手のひらは、まるで抜身の刀を握ったかのようにパックリと斬れていた。
マオと、そして少女も驚愕の表情を浮かべた。
「マオ兄貴!」
「どうなってんだ。何か隠し持ってるのか!」
マオは血の滴る左手の手首を押さえながら注意深く後ずさった。賢明な判断だ。
「おい、パク! この女はテレパシストじゃなかったのか!」
「そのはずですが……」
テレパシストには人を切り裂くような物理的な破壊能力はないはずだった。
そんなことが可能なのは、サイコキノ(サイコキネシスの能力者)だ。
そして、能力は一人一種類しか持てないはずだった。
テレパシストはテレパシーしか使えない。それが火星の常識だった。
《相手を睨みつけながら立ち上がれ! あいつはお前の両親の仇だ!》
その瞬間、恐怖に支配されていた少女の心は、悲しみの色に包まれた。
残念ながら俺の意図とは異なり、彼女の心は怒りと憎悪に支配されることはなかった。
《お父さん、お母さん……》
少女の視線は、マオに狙撃され変わり果てた姿になった両親の亡骸の間を彷徨っていた。
無理もないことだ、しかし……
《しっかりしろ! さもないとお前も死ぬぞ》
《あなたはどこ? 早く助けに来て!》
俺の『怒鳴り声』に、少女は身体を震わせながら周囲を見回した。
どうやら、離れたところからテレパシーで話しかけていると思っていたらしい。
《俺はここだ。お前の右手が握っている。俺をつかんだまま絶対に手を離すな》
《か、刀がしゃべった!》
《悪いか!》
確かにびっくりしただろう。犬がしゃべるよりも驚くかもしれない。
《な、何? 呪いのアイテム、それとも、付喪神?》
混乱から立ち直れない少女よりも先に、マオの方が正気を取り戻してしまった。
「ふざけやがって、思い知らせてやる」
妙な表情を浮かべながらブツブツと独り言をつぶやいている少女にマオがキレた。
少女のみぞおちあたりで石が砕け散った。
マオが念動力で少女を攻撃したのだ。殺すつもりの一撃だった。
しかし、少女には何のダメージもなかった。
「?」
マオは、一瞬うろたえながらも、能力を連続で発動した。
少女の腹、頭、脚に次々にこぶし大の石が襲い掛かった。
しかし、少女の体の表面で、石は堅い壁に阻まれたように砕け散っていった。
「『障壁』の能力者か……」
「ありえないですよ、兄貴、こいつはテレパシストですぜ、一人の人間が二つの能力を持つなんて!」
「うるせえ! だまってろ」