救援
「やめて!」
苦悶の表情を浮かべていた幼さの残る少女の顔が恐怖と嫌悪でさらに歪んだ。
刀の鞘が少女の足に触れ、激しい感情が俺に直接伝わってきた。
《チャンスだ!》
俺は彼女と接触したのをいいことに、彼女も俺の『障壁』で包み込んだ。
不意にパクのジャミングから解放された彼女は苦悶の表情の代わりに疑念の表情を浮かべた。
《何?》
《こいつの腰の刀を奪え!》
俺は『思念波』を彼女に送った。彼女の能力なら俺の『思念波』を読み取れるはずだ。
《誰、誰なの!》
彼女は恐怖と嫌悪の表情の中に困惑の色を加えた。
「へっへ、怯えてやがる。そそるぜ」
マオは節くれだった指で娘の細い顎を乱暴につかみ、薄気味の悪い笑みを浮かべた。
《いや! 嫌! 厭!》
彼女の、まるで汚物に触れたかのような激しい嫌悪の感情が俺に伝わってきた。
《俺の声が聞こえるか?》
《近くにいるなら、お願い、助けて!》
パクは俺の心の声を言葉として聞き分けることはできなかったが、彼女は完全に聞き分けていた。
《合格だ》
テレパシー能力の高い彼女は、俺の心の声を明確に理解することができた。
これなら俺の復讐の手駒に使えそうだ。
《何、どういうこと?》
《こいつの腰の刀の柄をつかんで、一気に引き抜け!》
彼女はぼんやりとした俺の心のつぶやきまで、ある程度読み取れるらしい。
俺は自分のどす黒い感情をごまかすように明確な『思念波』を送った。
刀の柄は娘の手の届く範囲にあった。
《でも……》
彼女の表情の中で困惑の色はさらにその濃度を増した。
「マオ兄貴、俺にも楽しませてくれよ」
パクはその脂ぎった口元に下卑た欲望をあからさまに浮かべていた。
これではテレパシストでなくとも頭の中で考えていることがわかる。
「がっつくんじゃねえ!」
彼女が弱々しい抵抗しか示さないことをいいことに、マオは、彼女のセーターをその下の白いブラウスごと、たくし上げた。
気持ちの悪いことにマオは無表情のままだった。
《ひっ!》
よく引き締まった白い腹部と、淡い水色のブラジャーに包まれた胸のふくらみが火星の冷涼な大気にさらされた。
《いや! 嫌だ! お母さん、助けて!》
《俺の願いを叶えてくれれば守ってやる。助けてほしいか?》
無条件で助けてやるべきだとはわかっていたが、俺はそう告げずにはいられなかった。
《お願い助けて! 何でもするから!》
彼女は心の中で泣き叫んだ。
《契約は成立した。では、まず刀の柄を握れ》
俺が有無を言わさない強い調子で命ずると、少女はおずおずとマオの腰に下げられた刀の柄に右手を伸ばした。