暴露
「貴様は!」
したり顔でつぶやくポールにヴォガードは憎悪の視線を向けた。
次の瞬間、ポールの全身が青い炎に包まれた。
「「ポール!」」
カレンとマーサが同時に叫んだ。
ポールは青い炎の中で一瞬恐怖の表情を浮かべたが、苦痛を感じていないらしく、すぐに落ち着いた表情を取り戻した。
「死ぬかと思った」
ポールは安堵の息を吐きながら。笑顔でつぶやいた。
『障壁』の能力で守ってもらえたらしい。
守ったのは俺ではない。俺は俺が触れていないものを守ることはできない。
「貴様は一体!」
ポールの周囲から青い炎が消えた。
想定していなかった事態に狼狽するヴォガードに対し、自分の推理が事実であったことを確信したポールは清々しい表情を浮かべていた。
「ん? 僕はポール・レオン。『障壁』の能力者で、あなたの護衛役だったナターシャ・レオンの弟だよ。気づいてなかった?」
《チャンスだ!》
俺の掛け声を合図に、いったん退いていたカレンは、再びヴォガードの胸元に突きかかった。
ヴォガードの『障壁』の能力が発動し、俺の能力を上乗せしたカレンの一撃をはじき返した。
「姉ちゃん、いい加減目を覚ませよ、こんなゲス野郎に義理立てする必要なんてないだろ」
ポールはまるでそこに自分の姉がいるように、ヴォガードに向かって話しかけていた。
「何、どういうこと? 何故、ヴォガード卿が『障壁』の能力を?」
マーサから急速に闘気が失われていくのが、テレパシストでない俺でもわかった。
「ヴォガード卿の能力は発火能力なんかじゃない。死人の能力が使える。それが彼の能力さ」
「そんな……」
「君の父親や僕の姉さんの能力を使っているのさ、ヴォガード卿が君に優しくしていたのは、君の父親の忠誠を得るためだったんだよ」
「何を言ってるの一体!」
マーサは混乱していた。
背筋の伸びた、すらりとした手足の長い彼女の身長が縮んだような気がした。
「マーサ、戯言を信じるな!」
ヴォガードが黒い長髪を振り乱して叫んだ。
普段、穏やかな表情を浮かべているヴォガードの目は血走り、余裕を失っていた。
「あなたの能力が他人の忠誠の上に成り立っていることを胸に刻んだ方がいいですよ」
優しい顔立ちのカレンが生真面目な表情を浮かべながら辛辣な台詞を口にした。
《もう一度やります》
《気をつけろ》
カレンは抜身の刀を蜻蛉に構えながら、目に強い力を込めた。
俺は『障壁』の一部にカレンのテレパシーを通すための隙間を一瞬だけ開けた。
青い炎に包まれたポール、幼い少女を盾にするヴォガードの姿が、鮮明な映像となって周囲の人間にたたきつけられた。
「やめて!」
マーサが叫び声をあげた。
今まで自分が信じていたヴォガードの虚像が崩壊していくのに耐えられなかったのだろう。
「他の奴らが裏切ったとしても、母は決して私を裏切らない!」
カレンの全身が青い炎に包まれた。
『障壁』の隙間はすでに閉じてあった。間一髪だ。
《発火能力は奴の母親のものらしいな、だとしたらヴォガードを見放したりしないだろうな》
カレンは構わず突進し、渾身の力を込めた斬撃を放った。
マジックアイテムたちの忠誠心に疑いを抱き始めたヴォガードは余裕を失い後退した。
カレンは、カトー中尉仕込みの鋭い斬撃を連続で繰り出し、ヴォガードを追い詰めた。
カレンの剣技を頼もしく思いながらも、俺は強い疲労感を感じ始めていた。
議事堂前から始まり、随分長い時間『障壁』の能力を駆使していた。
今も能力を全開にしている。
『障壁』の能力は強力ではあったが、無限に行使し続けることができるわけではなかった。
厄介なヴォガードの『障壁』の能力さえ消え去れば勝機が見えるのだが。




