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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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玄関ホール

 執政官のヴォルフ・ヴォガードは官邸一階の広い玄関ホールで、階段を背にして立っていた。

 玄関ホールの床は大理石張りで、天井は高く、数十人を容易に収容できる広さがあった。

 ヴォガードは金モールで飾られた赤い上着と黒いズボンという執政官の礼服を身にまとい、腰には昔から愛用している長い刀を佩いていた。

「また、随分と私の名誉を貶めるようなことをしてくれたもんだな」

 ウェーブのかかった長い黒髪の下の端正な顔は、静かな怒りの表情をにじませていた。

 先程のテレパシーによる『放送』はだいぶお気に召さなかったらしい。いい気味だ。

「どこで、そんな都合のいいパートナーを見つけた?」

 ヴォガードは先程ばらまかれた映像と音声がケント・クラウチのものであることに気付いていた。

 そして、真の敵は目の前の少女ではなく、少女が腰に下げた刀であることを理解していた。

 余計なことはせずに普通に殺しておけばよかったと、後悔しているに違いなかった。

 ヴォガードの問いかけに対して、カレンは当然のごとく無視を決め込んだ。

 そんなことより、カレンと俺にとっては、ヴォガードを守るように立っている二名の男女の存在の方が重大事だった。


「やあ」

 男の方が場違いな声を上げた。

 ポールだった。

「どうして……」

 ヴォガードの両脇にはポールとそしてマーサが立っていた。

「マーサちゃんに連れてきてもらったんだ」

「おじさまを死なせはしない!」

 脱力感漂う妙なノリのポールとは違って、マーサは真剣そのものだった。

「がんばってね」

 気負いこむマーサに向かってポールは他人事のように声をかけた。

 これにはさすがのヴォガードも唖然としていた。

「なっ、なんだ貴様、加勢してくれるのではなかったのか!」

 そして、ポールに食って掛かったのは、ヴォガードではなく、マーサだった。

「僕はフェミニストだよ。女の子に手を上げるなんて、できるわけないじゃないか」

 ポールは微笑みを浮かべると軽く肩をすくめて見せた。

 カレンに対して軽くウィンクまで送ってみせる。

《こいつ、何が目的だ》

「この偽善者め!」

 マーサは毒づいた瞬間姿を消した。

 カレンの首にすらりとした長い腕が絡みつき、後ろから引き上げるように締められた。   

 打撃技が通用しないことは学習したようだった。

《ダメ!》

《わかってるよ》

 カレンは俺が『障壁』の表面を刃に変えることを心配していた。

 俺は『障壁』でカレンの血流や気道を確保した。

 小柄なカレンは長身のマーサに後ろから首を締めあげられる状況に逆らわず、自分から両足を跳ね上げ、体重をマーサに預けた。

「くっ」

 バランスを崩すマーサに追い打ちをかけるように、跳ね上げた両足を地面に戻す反動で、カレンはマーサを投げ飛ばした。

「マーサちゃん、ごめん」

 床に転がるマーサに声をかけながら、カレンは刀を引き抜いて、ヴォガードに向け猛然とダッシュした。

「ちっ」

 唯一といっていい護衛を失ったヴォガードは左腕を前にかざし、何事かつぶやいた。

 以前、これと同じ構えを俺は見たことがあった。

《カレン! ストップ!》

 あの時、ヴォガードは俺の妹のレナを盾にした。

 今度も多分、似たようなことをしようとしたに違いない。

 しかし、俺の心配をよそに人間の盾は現れず、代わりに大きな肘掛椅子がヴォガードの頭部に襲い掛かった。

「!」

 意外な展開に驚き、カレンは後ろに飛びのいた。

 しかし、もっと驚いていたのはヴォガード自身だった。

「裏切るのか! ジョニー!」

 肘掛椅子を何とかかわしながら、ヴォガードは我を忘れて大声でわめいた。

 端正な顔が醜く歪んでいた。

「えっ?」

 ようやく立ち上がったマーサは、突然いるはずのない父の名前を耳にし、狐につままれたような表情になった。 

「よりによってマーサちゃんを盾にしようとしたのかな? それとも娘の前で、これ以上悪事に加担するのが嫌になったのか……」

 ポールが憐れむような表情を見せた。

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