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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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議事堂

 アレス共和国の議会である元老院の議事堂は、火星の赤い土を固めて作った赤いレンガに緑の蔦を絡ませた古風な建物だった。

 アレス共和国軍の本部よりは規模は小さかったが、随所に凝った彫刻が施されていた。

 特に入口の車寄せの両側には、二体づつ、計四体、人物の全身をかたどった白い巨大な彫像が来訪者を見下ろしていた。建国の四英雄の姿を刻んだものと言われていた。

 通常は入り口周辺に二名から四名程度の歩哨しかいないはずなのに、分散配置されているとはいえ、この日は議事堂の敷地内に三〇名以上の兵士がいた。

 兵士がいつもより多いのは誰の目にも明らかだった。

「我々第七小隊は入り口から最も遠い場所の配置だ。シラノ卿が現れても手出しせずに、そのまま通過させる。入り口前で第二、第三小隊が入り口を封鎖しつつ捕縛する。我々はシラノ卿が逃走を図ろうとしたら退路を断つ係だ。わかったな」

「はい」

 ジョン・リード少佐の説明に部下たちは声をそろえて了解した。

《どうしたら、たすけることができるかしら》

《まだ、そんなことを考えているのか!》

《だって!》

「来たぞ、シラノ卿だ」

 ハリム・アブドラヒム中尉が低い声を周囲に響かせた。

 数名の元老院議員がパラパラと歩いてくる中、がっしりした体格の男が供もつれずに歩いてくるのが見えた。頭髪は白くなっているものの昔のイメージそのままの力強さが感じられた。

「何かあったのか? 今日は兵の数がやたら多いが」

 シラノ卿は俺たちのところに差し掛かると、リード少佐に低い声で尋ねた。

「わかりません!」

 リード少佐は、シラノ卿に目を合わせようとせず、敬礼しながら答えた。

 へたくそな誤魔化し方だった。

《何とかしなくちゃ》

《いいから、おとなしくしていろ!》

 真面目なカレンが何かしでかしそうな嫌な予感がした。

 結局、異変を感じながらもシラノ卿は引き返すことなく、壮麗な元老院の建物の入り口へと向かった。

「何だ!」

 シラノ卿は入り口付近で他の小隊の兵士たちに取り囲まれた。

「この無礼者が!}

 シラノ卿の怒声が響き、シラノ卿を掴もうとした兵士の一人が能力で投げ飛ばされた。

《はじまった!》

 修羅場が展開すると思われたが、実際にはそうはならなかった。

 シラノ卿は突然頭を抱え、膝を落とした。

 恐らく、他の小隊に強力な『ジャミング』の能力を持つテレパシストがいるのだろう。

 シラノ卿にターゲットを絞って強力な『思念波』をぶつけ、能力を封じているのだ。

 数名の兵士が、苦しそうに膝をつくシラノ卿を取り押さえた。

《意外とあっけなかったな》

 俺は昔の知り合いが無実の罪で捕えられる姿を呆然と眺めていた。

《ダメ!》

 カレンの『大声』が響き渡った。

 テレパシー能力を全開にして、周囲の人間すべてに強力な『思念波』を送り付けていた。

 兵士全員が頭を抱えた。

 無差別で周辺一帯に影響を及ぼすカレンの『ジャミング』だった。

《やめろ!》

 嫌な予感が当たり、カレンは想像通り、いや想像以上のことをしでかした。

 不快な『ジャミング』に続き、鮮明な映像と音声が頭の中に浮かび上がった。

《にいに……》

 刀が、小さな女の子の腹部を刺し貫き、背中まで貫通していた。

 ヴォガード卿が左手で小さな女の子の首を握り、目の前に持ち上げていた。

 カレンは、かつて俺がカレンに伝えた記憶を、テレパシー能力を使って周囲に配信していた。

《邪魔だからだ》

 首筋に突き立てられた短剣。噴き出す大量の鮮血。

 暗くなっていく視界の隅で、刀に刺し貫かれた小さな女の子がビクンビクンと痙攣していた。

《思った以上にうまくいったな》

 ヴォガードの声が不気味に響いた。

 かつてヴォガードが犯した罪が生々しい形で暴露された。  

 強力なテレパシーでビジョンを送りながら、カレンはシラノ卿に向かって走っていた

「何だ今のは!」

 兵士たちの間に混乱が広がった。

「ヴォガード卿だったよな」

「そんな、おじさまが……」

 マーサ・メルゲン少尉の顔面が蒼白となっていた。

「カレン!」

 ジョン・リード少佐は叫び、慌てて彼女の後を追った。

「カレンちゃん!」

 第七警務小隊のメンバーが彼に続いた。

「その人は無実よ!」

 カレンは叫んでいた。

《一体、何を考えている!》

 俺はカレンの腰に下げられたまま、ただただ狼狽していた。

 一体、この混乱をカレンは最終的にどう収拾するつもりなのか、全く見当がつかなかった。

「お嬢ちゃん、今のは一体どういうことだ」

 シラノ卿が頭を振り、驚愕の表情を浮かべながら駆け寄ってきたカレンに視線を向けた。

「貴様、一体どういうつもりだ!」

 カレンよりも頭二つ分は背の高い中年の士官が、シラノ卿とカレンの間に立ちふさがった。

 二メートルくらいの六角の棍棒を横に構えていた。

 どんな能力者なのかはわからない。

「私は、かつての軍団長ジョージ・クラウチの息子ケント・クラウチの生まれ変わりだ! 私はかつてヴォガードに殺された。ヴォガード襲撃犯はこの私だ。シラノ卿は無関係だ!」

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