捜査協力
「先程、執政官官邸がテロリストにより襲撃された」
独身寮に戻るとすぐに警務部隊の隊員たちに非常呼集があった。未明のことだった。
カレンは眠ることも、身体を休めることも出来ず、疲労の極にあった。
俺も能力を使用しすぎて、激しい睡魔に襲われていた。
「大丈夫?」
顔色の悪いカレンを見かねて、セリーナ・スミス准尉が小声で話しかけてきた。
「はい、大丈夫です」
あまり大丈夫ではない雰囲気のままカレンは応えた。
第七警務小隊の詰め所に隊員全員が集まり、小隊長のジョン・リード少佐が概要説明を行っていた。
「犯人の人数は不明。犯行に暴徒鎮圧用の無力化ガスが使用されているため、犯行グループに現役または元軍人がいる可能性が高い」
「軍人ですか?」
ハリム・アブドラヒム中尉が信じられないという表情を浮かべた。
「ああ」
リード少佐は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら言葉を続けた。
「実際に執政官を襲撃したのは『障壁』の能力を持つ小柄な人物だ。女性である可能性も高い」
「女の子? 信じられないなあ」
ポールが額に手をあてて困惑した表情を浮かべていた。
「あ、あの、執政官は御無事だったんですか?」
マーサ・メルゲン少尉は青い顔でリード少佐に詰め寄らんばかりだった。
「無事だ。執政官自ら賊を撃退したそうだ」
「よかった」
マーサは深い安堵の息を吐いた。
「さすがだな」
レイジ・カトー中尉は純粋に武人としてのヴォガードを評価しているようだった。
「現在、登録された能力者の中から犯人の条件に該当する者をピックアップしている」
リード少佐はそう言いながらカレンに視線を合わせた。
「カレン」
「ひっ」
カレンは心臓を潰されたような呻き声をあげた。
「そしてポール。二人に協力要請が来ている。現役、OBを問わず、『障壁』の能力者全員を尋問することになった。人手が足りないので手伝ってほしいとのことだ」
「わかりました」
スムーズに反応できたのはポールだけだった。
「はい」
カレンはかすれた声をなんとか絞り出した。
「どこか悪いのか? カレン」
明らかに様子のおかしいカレンにリード少佐がいぶかしげに声をかけた。
《まずいな。そんなにビクビクしてちゃ、バレるだろ。せっかく容疑は他の人間に向いているというのに》
「女の子にそこら辺をしつこく質問しちゃダメ、セクハラになる」
浅黒い肌のセリーナがカレンを庇うように口をはさんだ。
勘違いしてくれて助かった。
「これは失礼……任務遂行に問題はないか?」
「ありません」
こうして皮肉なことにカレンは容疑者を取り調べることになった。