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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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第三の能力

「ほう、官邸に忍び込むとはいい度胸だな、寝込みを襲えば俺を殺せるとでも思ったのか」

 寝室の扉を開けた途端、緊張感に欠けた柔らかな声が聞こえ、カレンは身を固くした。

 暗闇の中でベッドに横たわっていたヴォガードが上半身を起こす様子が見えた。

《奴はなぜ起きている!》

 警備兵が全員、前後不覚に陥っているのに、ヴォガードの意識は明瞭だった。

 防毒マスクをつけているわけでもなかった。

《どうするの?》

 カレンは明らかに動揺していた。

 ヴォガードは右手を開いて俺とカレンの方に向けた。

 すると突然、ヴォガードの掌に刀が現れた。

 鞘も柄も赤い両手持ちの長刀、ヴォガードの愛刀だった。

 次の瞬間、青白い炎がカレンを包み込んだ。

《きゃあ!》

《安心しろ、奴の炎は『障壁』の能力で防げる》

 一瞬、顔を押さえたカレンだったが、すぐに腰を落として刀の柄に手を置いた。

「『障壁』の能力か、厄介だな」

 あの時と同じだ。この男は躊躇なく能力で人を殺すことができる。

 俺は十六年前のことを思い出して改めて怒りに燃えた。

 今回は人質に取られる人間は周囲にいない。

 俺の能力を全開にすれば確実にヴォガードを葬ることができるはずだ。

《マーサちゃん、ゴメン》

 俺の絶対の自信を感じ取って、逆にカレンは弱気の虫を起こしていた。

《マーサよりも俺の妹のことを思い出せ!》

 俺は刀に串刺しにされ次第に冷たくなっていく妹、レナのビジョンをカレンに送った。

 カレンの垂れ目がちの優しい目から涙がこぼれた。

 言葉を発すると素性がばれてしまう可能性がある。

 カレンは意を決すると、無言で突進し、ヴォガードの胸元に渾身の突きを放った。

《!》

 しかし、刀がヴォガードの身体に食い込むことはなく、硬い壁にぶつかったように、カレンの小柄な体は弾き飛ばされた。

《馬鹿な!》

 俺は刀の周囲に『障壁』を展開し、おまけに『障壁』の表面を鋭い刃に変えていた。

 鋼鉄の刀剣さえ切り裂く能力だ。鎧を着ていても攻撃をはじき返すことなど、できるはずがなかった。

「『障壁』の能力を使えるのは自分だけだなどと思わない方がいい」

 ヴォガードはベッドから降りると、無造作に刀を下げてカレンに迫った。

 『障壁』の能力はサイコキネシスの中でも珍しいものではあったが、他に同じ能力者がいないわけではなかった。

 それはその通りではあるが、ヴォガードは『発火』能力を操り、『強奪』というテレポート能力を操り、今また、『障壁』の能力を使用した。

 本来、一人の人間が操れる能力は一種だけのはずだ。

 俺は、ヴォガードに得体のしれない恐怖を感じた。

 それは、カレンも同様だった。

 と同時に、ヴォガードだけ無力化ガスにやられなかった謎も解けた。

 ヴォガードはカレン同様、『障壁』の能力で、ガスから身を守っていたのだ。

《えい!》

 カレンはヴォガードの首筋に向けて斬撃を放った。性格を反映して素直な太刀筋だった。

「ふん」

 ヴォガードは下段に構えた刀でカレンの太刀筋をそらすと、手首を返してカレンを袈裟懸けに斬った。

 衝撃は感じたものの当然カレンにも何のダメージもなかった。

 このまま続ければ、お互い傷を負わせることもなく消耗戦になるだろう。

 どちらの能力が先に途切れるか、そんな勝負になってしまう。

 俺の能力が途切れた場合、カレンの能力を使用するという手もあったが、それはできるだけ避けたかった。

 カレンは、テレパシストして登録されている。

 『障壁』の能力を前面に押し出して行動していれば、暗殺に成功しても失敗しても、カレンが暗殺者として疑われる可能性が低くなる。そう考えてのことだった。

 しかし、それ以前に『ジャミング』などのテレパシー能力は『障壁』の能力と相性が悪い。

「能力が同等ということは、剣術や体術で勝負が決まりそうだな」

 ヴォガードは端正な顔に冷酷な笑みを浮かべると、小柄なカレンに突進した。

《ひっ!》

 カレンの心が恐怖に彩られた。

 ヴォガードはカレンに体当たりすると、小柄なカレンを窓の方に向かって弾き飛ばした。

「ん? ひょっとして女か?」

 部屋の中は暗かったし、カレンは覆面をしていたが、感触が筋肉質の男のものではなかったのだろう。

 ヴォガードは真実を言い当てていた。

「だとしても、容赦はしない!」

 よろよろと立ち上がったカレンに対し、ヴォガードは助走をつけた横蹴りで、カレンの腹部を下から蹴り上げ、窓の外へと放り出した。

《きゃあ!》

 窓ガラスが砕け、慌てて体を支えようと握ったレースのカーテンを引き裂いて、カレンは窓の外に落ちた。

 二階から一階に落下しても、カレンは賞賛すべきことに俺のことを手放さなかった。

《大丈夫か!》

 『障壁』の能力のおかげで傷を負うことはなかったが、精神的なダメージは計り知れないだろう。

《なんとか……》

「警備兵! 侵入者だ!」

 二階の窓からヴォガードが大声を響かせた。

 建物内の警備兵はすべて無力化していたが、建物の外の警備兵はすべて健在だ。

 どんな強力な能力者がいるかわからないのに、とても全員の相手はしていられない。

《建物内に爆弾を放り込め》

《えっ?》

《どこでもいい。はやく!》

 当然、爆弾でヴォガードを殺せるわけではない。

 『障壁』の能力で守られている限り爆発でも火事でもヴォガードが傷つくことはないだろう。

 俺の狙いは別にあった。

 カレンは俺に言われた通り一階の窓を突き破って爆弾を投げ込んだ。

 そして近くの植え込みの陰に隠れた。

 爆発音が轟き、閃光が走り、そして火の手が上がった。

 外にいた警備兵たちが官邸の異変に気付き、ヴォガードの身を案じて建物に殺到してきた。

《殺したくなかったら、警備兵のふりをしろ》

「大変だ! ヴォガード卿が!」

 演技という点に関してはカレンは名優だった。

建物に押し寄せる警備兵たちに紛れ込み、一緒に狼狽し、伝令のふりをして現場を離脱した。

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