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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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亡命者

 マオとパクがしばらく馬を走らせていると、遥か彼方に暗褐色の外套を着た三人連れの姿が目に入った。

 刀に目がついているわけではなかったが、俺は周囲を『見る』ことができた。

 見ることに関する能力は人間だったときと同じだった。

 はるか遠くを見通すこともできなければ、暗闇のなかで目が効くわけでもない。


 三人とも背中に旅行鞄を背負い、徒歩でこちらに向かっていた。

 マオとパクの二人は、馬を停め、三人の様子を遠くから観察した。

 一人は大柄な男性、二人は女性のように見えた。


 確かに俺は、悪魔に魂を売っても構わないなどと罰当たりなことを考えた。

 しかし、犯罪者側に身を置くことは決して気持ちのいいことではなかった。

 これは俺の望む『復讐』とは何の関係もない。

 俺は三人連れをマオとパクの魔の手から救ってやることはできないものかと考え始めた。


 三人は二〇〇メートルほどの距離に近づいていた。

 フードを深くかぶっており、顔はよくわからなかったが、揃いの暗褐色の外套はマーズ連邦の『国民服』だった。

 アレス共和国の隣国、マーズ連邦は、統制経済、計画経済を採用する全体主義国家だった。

 『国民服』は限られた資源を生かすために考えられた大量生産品だ。 

「あいつら、マーズ連邦からの亡命者だな。」

 マーズ連邦では超能力者は冷遇されていた。

 そのため、俺が人間だったころから毎年一定数の人間がマーズ連邦からアレス共和国に亡命してきていた。

「マオ兄貴、亡命者ってことは能力者ですよね。やばくないですか?」

「俺の能力で片づければ問題ない。忘れたのか? 俺はAクラスの能力者なんだぜ。些細なことでお尋ね者になったが、軍団長になっていたっておかしくない」

《おまえみたいなクズが軍団長になれるものか!》

 能力の高い人間が必ずしも人格が優れているとは限らない。

 俺はある人物を思い出して、はらわたが煮えくり返る思いだった。

「亡命者として正式に認められるまでは奴らは敵国人だ。つまり、奴らをどうしようが何の問題もない。むしろ愛国者として感謝されてもいいくらいだ」

「マオ兄貴、頭いい」

「だろ」

 マオは邪悪な笑みを浮かべると、突然『能力』を発動させた。

 赤い大地に転がる小石の一つが衝撃波を発しながら三人連れ唯一の男性に襲い掛かった。

 男性の胸から血が噴き出し、糸の切れた操り人形のように大地の上に崩れ落ちた。

《なっ、バカな!》

 俺は何もできなかった。

《おい! ふざけんなよ、こいつら!》

 俺は血が沸騰する思いを味わった。


「あなた!」

「お父さん!」

 倒れた男性に、二人の女性が背中の旅行鞄を放り出して駆け寄った。

 若い女性の悲痛な叫び声とともに強烈な『思念波』があたり一面に響き渡った。

 遮断していたはずなのに、彼女の『思念波』は俺の『障壁』を突き破った。

 かなり強力なテレパシストらしい。

 悲痛な叫びに続いて、現実を強く否定する感情の渦が俺の魂をかき乱した。

 しかし、悲しいことに倒れた男性はピクリとも動かなかった。

 年配らしい女性は男性に縋りつき、若い女性は天を仰いだ。

 若い女性のフードが頭から落ち、鮮やかな長い金色の髪が零れ落ちた。

 目じりのやや下がった優しい顔立ちの少女だった。

 多少幼さが残っているものの、おそらく誰が見ても美しいと感じるだろう。

 しかし、残念なことに、サファイヤのような深みのある碧い瞳は悲しみの涙に包まれていた。

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