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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
34/53

マーサの父

 周囲に迷惑がかからないように、カレンはポールに教えてもらいながら、特定の相手にだけ思念波を集中する訓練を続けた。 

 カレンとポールがジャミングの練習をしている間、マーサとセリーナは格闘技の訓練をしていた。

 皮鎧を着用したままだった。

 セリーナは蹴り主体の攻撃で、回し蹴りや後ろ回し蹴りを組み合わせて連続で放つ姿は、さながら小さなつむじ風のようだった。

 マーサは能力を使っていないのに、軽快なステップでセリーナの蹴りをかわし、カウンター気味で寸止めのパンチを入れていく。

性別の違いはあるが、手足の長い体型といい、流れるような身のこなしと言い、マーサはあの男、ヴォガード卿の護衛を務めていたメルゲン少佐にそっくりだった。

「能力を使いすぎると疲れるからね。今日はこれくらいにしようか」

 一時間ほど、『思念波』を集中する訓練を行ったカレンはぐったりしていた。

「どうする? 格闘技の方は。今日はやめとく?」

 マーサは腰に手をあてて、しゃがみこんでいたカレンを見下ろした。

「いえ、少し休んだらお願いします」

 カレンはまっすぐな目でマーサを見返した。

「そう来なくっちゃ」

 危険なので格闘技の訓練の際は刀など身に着けている武器は外す。

 俺は、地面に置かれる前に『障壁』でカレンを包み込み、ささやいた。

《メルゲン少尉に父親について尋ねてみろ》

《えっ?》

「適当に体をほぐしといて」

 セリーナとの訓練のクールダウンを兼ねて、マーサは肩の筋肉のストレッチをしていた。

「はい」

 カレンは立ち上がると屈伸運動を開始した。

「反動はつけないで関節や筋をよく伸ばして」

「はい」

 カレンはマーサに言われて屈伸運動を止め、アキレス腱を伸ばし始めた。

「あ、あの、メルゲン少尉の御家族はご健在ですか?」

「母親と弟がいるよ。弟はカレンちゃんと年齢が近い」

「お父様は?」

「私が小さいころに戦死した」

 マーサは言い淀むことなく、あっけらかんと言い放った。

「ごめんなさい」

 カレンの方が身を硬くして下を向いた。

「気にしないで」

 マーサの方が逆に慌てた。ボーイッシュな顔にすまなさそうな表情を浮かべていた。

「なんとお父様は、執政官様の直属の部下だったんだよね」

 ポールが横から口をはさんだ。

「すごいですね」

《やっぱりだ》

 俺の睨んだとおり、やはりマーサは、あのジョニー・メルゲン少佐の娘だった。

「なので、マーサ君は執政官の覚えめでたいエリートなわけだ」

「別に私は……」

 マーサは視線を落として不満げな表情を見せた。

「あ、悪かった。マーサ君はこの部隊にいるにふさわしい実力者なのは確かだ」

「読んだのか! 私の心を!」

 ネコのように多少きつめのマーサの目が一気に険しくなって、ポールに向けられた。

「テレパシーなんか使わなくてもわかるよ、君はすぐに顔に出るからね」

 ポールはマーサのきつい視線を笑顔で受け流す余裕を見せた。

「だから、テレパシストは!」

 マーサは言い終えてから他にもテレパシストがいることを思い出し、慌ててカレンの方を振り向いた。

「あっ、ごめん、カレンのことを悪く言うつもりは……」

「いいんです」

 恐らく今までもよく言われていた類の発言だったのだろう。カレンはあきらめたような力ない笑顔を浮かべていた。

「あーん、バカバカ、私が気に入らないのはポールだけだからね、わかって」

「はい」

 マーサの慌てようが可笑しかったので、カレンはクスリと笑顔を見せた。

「それ、なんかひどくないか?」

 ポールが口をとがらせて抗議したが、マーサはきれいにこれを無視した。

「ごほん、じゃ、気分を入れ替えてシャドーボクシングやってくれる? もしも、蹴りが得意だったら、パンチだけでなく蹴りも交ぜていいから」

「わかりました。やります」

 カレンはシャドーボクシング(?)をやりはじめた。

「……」

「……」

「……」

 ひどかった。カレンに体術の心得がないのはわかっていたが、これほどとは思わなかった。

 マーサも、ポールも、セリーナも黙ってしまった。

 もしも、おれに目があったら目を覆っていただろう。

「うー、じゃ、気長にやろうか、まずはジャブから、拳は軽く握って、腰、肩、腕の順で拳を前に押し出すようにゆっくり動いてみて」

 しばし呼吸を整えてから、マーサが必死で笑顔を作った。

 本当に時間がかかりそうだった。適当な能力者がいたら乗り換えた方がいいかもしれない。

 あのポールとかいうチャラい奴はどうだろうか?

 俺の心を正確に読んで思い通りに動いてくれる可能性はあるだろうか?

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