ジャミング
「君は『声』が凄く大きいよね」
ポールは、カレンの強力なテレパシーをそう表現した。
カレン、ポール、マーサ、セリーナの四人は、中庭に移動していた。
アレス共和国軍の本部建物中央に位置する中庭は軍の教練に使用される場所で、他にも何組かの若い兵士が体術や剣術の訓練をしていた。
「そうなんですか?」
カレンは、素直な視線をポールに返していた。
「ジャミングってやったことはある?」
「やられたことはあります」
「そうか、たいへんだったよね」
ポールは何気なくカレンの肩に手を置き、瞳を見つめた。
「………」
「………」
「………」
「………」
テレパシーで意思疎通をしているらしかった。
ポールを見つめながら、カレンはほんのりと頬を染めた。何か無性に腹が立つ。
「おい、おまえら口に出してしゃべれ」
俺の気持ちをマーサが代弁した。
「えー、妬かないでよ」
「妬くか、バカ!」
マーサは猫のようなキツイ目を怒らせた。
「いいよね、目と目を見つめるだけで分かり合えるって」
「口に出してしゃべるようにします」
カレンに同意を求めたポールだったが、あっさりと否定された。
「え~」
いい気味だ。
「じゃあ、まずはジャミングの練習をしようか、やられたようにやってみて」
「はい」
何となく嫌な予感がして俺は自分の周りの『障壁』を強化した。
次の瞬間、三人同時に頭を押さえてうずくまった。
いや三人だけではなかった。中庭にいた他の兵士たちも全員頭を押さえていた。
「た、たんま!」
マーサが何とか声を絞り出し、カレンによるジャミングは終わった。
「全方位のジャミングか」
ポールは、びっくりしたような、少し困ったような表情だった。
「すごい」
セリーナは純粋に感心しているようだった。
「おい、おまえら、何やってる!」
二階の中庭に面した窓が開いて中年の士官が怒鳴り声を浴びせかけてきた。
「すみません、ジャミングの練習でした!」
ポールが弾かれたように謝った。
「まったく! 周りに迷惑かけるなよな!」
中年の士官はそれ以上追及するでもなく、ピシャリと窓を閉めた。
「ごめんなさい」
カレンはポールに頭を下げた。
「敵も味方もお構いなしっていうのが大問題だな」
ポールは顎に手をあてて思案顔だった。
「攻撃相手を特定できないの?」
マーサがお願いするような視線をカレンに送っていた。
「ま、はじめてだからね。練習すればお上手になるさ」
若い連中のやり取りを聞きながら、俺は違う感想を持っていた。
戦場では全方位ジャミングの方が価値がある。強力な能力者集団を全て無力化できるからだ。
それにどちらかといえば、これはマーズ連邦の方が活用できる能力だ。
アレス共和国軍の強力な能力者たちを無力化し通常の砲撃や銃撃で勝負することができる。
カレンが亡命してきてくれてアレス共和国としては幸運だったわけだ。




