配属
「よろしくお願いします」
カレンは深々と頭を下げた。
アレス共和国軍の赤茶色の皮鎧姿だった。
胸部は赤い金属プレートで覆われており、兜は被っていなかった。
第七警務小隊隊長のジョン・リード少佐は満足そうにうなづいていた。
難民収容所で一週間過ごした後、アレス共和国軍の新兵養成所で一か月を過ごし、カレンは第七警務小隊に配属された。驚くほど順調な滑り出しだった。
結局、俺の計画通りに話が進んだのは、カレンのテレパシストとしての潜在能力が極めて高く、第七警務小隊にテレパシストの欠員があったという事情によるところが大きかった。
本来、警務部隊は人気はともかくとして高い能力を要求されるエリート部隊であり、軍隊に入隊したて、かつ、亡命者というのは珍しかった。リード少佐あたりが人事にゴリ押しでもしたのだろうか。
「いやあ、大歓迎だよ」
ポール・レオン少尉が甘いマスクにとろけるような笑顔を浮かべていた。
第七警務小隊の詰め所は、アレス共和国軍の本部の建物の中にあった。
建物自体は赤いレンガ造りで地上二階建て、一辺一〇〇メートル程の正方形で、広い中庭が建物内に陽光を取り込んでいた。詰め所はその建物の一階の隅だった。
白い漆喰の壁にこげ茶色の板張りの床の部屋で、調度としては簡素な木製の椅子と机が七組あった。
「なにか、困ったことがあったら言ってくれ」
肩幅が広く屈強なイメージのハリム・アブドラヒム中尉が声を響かせた。
「来てくれたんだ」
長身でボーイッシュなマーサ・メルゲン少尉は、さわやかな表情を浮かべていた。
「……よろしく」
縮れた髪を長く伸ばし、ポニーテールにしたセリーナ・スミス准尉は、相変わらず感情の乏しい表情だった。
「なにぶん、人手が足りないのでな、仕事をしながらいろいろ覚えてもらうことになる。実戦での能力の使い方はポール。近接戦闘はマーサに教えてもらえ」
リード少佐は隊員たちに視線を巡らせながら、カレンに指示した。
「私なんかでいいんですか? 剣術ならカトー中尉に教えてもらった方が……」
近接戦闘のコーチ役を指名されたマーサは困惑した表情をリード少佐に向けた。
カレンが得意とする武器は腰に下げた刀(俺)だと思ったかららしい。
「レイジがまともに教えられるわけないだろ」
アブドラヒム中尉が皮肉たっぷりに大きな声を響かせた。
「悪かったな」
レイジ・カトー中尉の切れ長の目がアブドラヒム中尉を切り裂いた。
「まずは体術の基本を教えてやれ」
リード少佐の洞察は正しかった。
カレンは体術も剣術も素人だ。であれば体術の基本から教えるのが理に適っていた。
「カレンちゃん、テレパシーのうまい使い方は僕が手とり足取り教えてあげるよ」
ポールが優しい笑顔を浮かべながら、カレンを見つめた。
「カレン、何かされたら私に言え、生まれてきたことを後悔させてやるから」
そんなポールを押しのけて、マーサが心配そうにカレンのことを覗き込んだ。
「よろしくお願いします」
カレンは嬉しそうにくすりと笑った。