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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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「なぜ、父を?」

「邪魔だからだ。何と言って執政官に取り入ったんだか知らないが、戦場の手柄を独り占めされてはかなわないからな」

「何だって!」

 どこをどうとらえると、そんな発想が出てくるのか俺には理解できなかった。

「しかし、君は勘がいい。おまけに評判通り随分高い能力だ。悪あがきしなければ骨も残さず灰になっていたものを」

 再び俺の周りを青白い炎が包んだ。ヴォガード卿こそ無駄なあがきだ。

「覚悟は良いか」

 俺は愛刀を鞘から抜き放った。

「いいのか? 屋敷に火をつけても。母上や妹さんもいるんだろ?」

 ヴォガード卿は闇の中で薄気味悪く笑ったように見えた。

《俺のことを脅すつもりか!》 

「貴様は斬る!」

 俺は刀の切っ先をヴォガード卿に向け、刺突の体勢に入った。

 重心を下げ、足の指は大地をつかむようにイメージした。

 ヴォガード卿は懐からマーズ連邦軍の短剣を取り出し、右手で構えた。

 隠ぺい工作をするつもりなのだろう。両手には白い手袋をしたうえ、自分の刀は使わない。

《戦場で敵兵から奪ったのか! 反吐が出る》

 俺はじりじりと間合いを詰め、一気に飛び込んで勝負を決めようとした。

 ヴォガード卿は左掌を俺に向け、何事かつぶやいた。手首には金色の腕輪が光っていた。

 『障壁』に何かの力が干渉しているのが分かった。

 俺にはその力が何か推測できた。

「メルゲン少佐の力か」

 俺はヴォガード卿を睨んだ。

 どんな仕掛けかはわからないがヴォガード卿はメルゲン少佐の能力を使えるらしい。

 相手の持ち物を瞬間移動させて奪い取るあの力だ。

 やはり戦場で父の刀を奪い取ったのはヴォガード卿だったのだ。

「大した能力だな。物理的な攻撃だけでなく、『業火』も『強奪』も遮断するのか。しかし、強力な能力ということは長時間はもたないのだろう?」

「馬鹿な、ぐずぐずしていて不利なのはお前の方だ」

 ヴォガード卿の俺の能力についての指摘は真実だったが、もうすぐ司法長官がやってくる予定だ。

「ひょっとして司法長官のことを言っているのか? あの男は少し遅れる予定だ。まあ、もし来ても灰にするだけだがね。君を灰にするよりずっと簡単だ」

 確かに司法長官は純粋な戦闘で力を発揮できるタイプの能力者ではなかった。

 ならば、ますます持久戦に付き合う必要はなかった。

《一撃で勝負を決める!》

 ヴォガード卿は短剣を握った右手を下げ、空の左掌を俺に向けた不思議な構えのままだった。

 ヴォガード卿の剣技は侮れない。戦場で見た限り小手先の技は通用しないと思われた。

《!》

 俺は一気に間合いを詰め、渾身の力で突きを放った。

 しかし、目の前の空間が歪み、信じられないものが眼前に現れた。

「にいに……」

 俺の刀は柔らかいレナの腹部を刺し貫き、背中まで貫通していた。

 小さなレナはヴォガード卿の左手で首を握られ、目の前に持ち上げられていた。

「あああああああああああ!」

 俺は言葉にならない叫び声をあげた。

 自分が何をしたのか、理解したくなかった、信じたくなかった、すべて否定したかった。

《レナぁ!!!!》

 集中力は途切れ、『障壁』の能力は解除された。

 首筋に短剣が突き立てられ、首の骨を削られるような衝撃と焼けつくような痛みを感じた。

 俺は地面に倒れ伏し、首から大量の血が噴き出しているのを感じていた。

 俺の暗くなっていく視界の隅で、俺の刀に刺し貫かれた妹のレナがビクンビクンと痙攣しているのが目に入った。

《レナ! レナ! レナぁ!》

「思った以上にうまくいったな」

 ヴォガード卿のつぶやきが耳に入った。

 こいつは最初から俺の能力を解除するためにレナを使うつもりだったのだ。

 メルゲン少佐の能力を使って妹を瞬間移動させて盾にし、俺の心を折るという策略を考えていたのだ。

「必ず復讐してやる。生まれ変わってでも……」

 激しい感情も、大量の血液を失った俺の身体を突き動かすことはできなかった。

 やっと弱々しいつぶやきとなって口から洩れる程度だった。

「それは困るな」

 ヴォガード卿は何事かブツブツとつぶやき始めた。

 言葉では表現できないような不快な感触に包まれ、薄れ始めていた意識は逆に明瞭になった。

 意識が跳躍したように感じ視界が変わった。

 俺は、口を開き光を失ったガラス玉のような目を開けたレナを上から見下ろしていた。

《なんなんだ! これは!》

「妹を刺し貫いている感触はどうかな」

 ヴォガード卿は皮肉な口調でつぶやくと俺たちから去っていった。

 俺は刀になっていた。

 自分で動くことのできない俺はレナを刺し貫いたままだった。 

《レナ、起きてくれ! 母さん、レナを助けて!》

 しかし、俺の心の叫びは声にはならなかった。

 俺はレナの身体がどんどん冷たくなっていくのを感じていた。

《畜生! ヴォガード卿め! 許さない! 絶対に許さない! どんな手段を使っても必ず殺してやる! 必ず!》

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