死
「クラウチ卿!」
多くの兵たちが勝利に沸き立つ中、歩兵部隊の一部は悲しみに包まれていた。
父の安否が気になって、能力を解除し、味方の兵士たちにもみくちゃにされながら、俺は後方に下がった。
そこで目にしたのは直属部隊の兵士たちに囲まれ、大地に横たわる父の姿だった。
「父上!」
俺の全身から血の気が引いた。
火星の赤茶色の大地に、赤黒いシミが広がっていた。
俺はよろめきながら、父のそばに膝をついた。
「怪我の様子は!」
俺の叫ぶような声に周囲の兵士たちは首を振った。
近くにジョン・リード少尉の姿も見えた。
「父上!」
俺はピクリとも動かない父の耳元で叫んだ。
父の首元は鮮血に赤く染まっていた。
鋭い刃物で切り裂かれた跡があった。
力強く、若々しい父の姿はそこにはなく、できそこないの蝋人形のような生気のない肌と半開きになった口元が俺の胸を抉った。
「なんで……」
心は《認めない!》と悲鳴を上げていたが、理性は父はもうすでにこの世にいないと告げていた。
俺は最前線で調子に乗っていた自分を責めた。
《自分は父の護衛役ではなかったのか!》
「敵のテレポーターだ」
ジョン・リード少尉が俺の近くに来てつぶやいた。
俺の脳裏に、早朝、執政官のテントを奇襲した黒づくめの敵兵の姿が蘇った。
「……」
《あの時、敵兵を討ち漏らさなければ……俺が父のそばを離れなければ……》
体の中を後悔の感情が嵐のように駆け巡った。
能力を全開にして、何もかも引きちぎりたい衝動にかられた。
「軍団長は、御自身の刀で敵を返り討ちにしようとしたんだ」
ジョンのつぶやきに俺の心は考える力を取り戻した。
父は、能力だけでなく剣技にも優れていた。
不意打ちだったとしても簡単に殺されるはずがない。丸腰ではなかったのだ。
「で、どうなったんだ?」
「刺客に斬りかかろうとした途端、刀が消えたんだ。まるでかき消すように」
俺はどんな顔をしていただろう。
幾本もの記憶の糸を手繰り寄せ、嫌な想像を巡らせていた。




