作戦案
敵の特殊部隊の襲撃もあり、俺たちは行軍を急ぐことにした。
執政官や軍団長が一堂に集まって打ち合わせ中だったからよかったものの、真夜中に奇襲でもかけられたらたまらない。
打ち合わせで結論の出ていなかった作戦案は、メルゲン少佐を埋葬した後に再開した会議で決定した。
「クラウチ案を採用する」
シラノ執政官の宣言を聞き、俺は少し誇らしい気持ちになり、安堵に胸をなでおろした。
ちらりとヴォガード卿を見たが、何の感情も読み取れなかった。
信頼する護衛を失いショックを受けているのだろうか。
「以上で軍議は終了とする。今後も作戦指揮にかかる連絡調整にはコワルスキー大尉を派遣する……ヴォガード卿、残念だったな。気を落とすな」
「はい」
ヴォガード卿は軽く頭を下げると、一人でテントから退出した。
「失礼します」
父も執政官に頭を下げて退出しようとした。
「クラウチ卿、ちょっといいか」
執政官は太い腕を振って俺の父を手招きした。
「はい」
父が執政官に近づくと、執政官は声を低めた。
「ヴォガード卿に気をつけろ」
押さえた声だったが、少し離れたところに立っていた俺の耳にもはっきりと入ってきた。
「え?」
「奴のプランは、歩兵部隊をエサに敵を油断させ、引きずり出すものだった。奴の案が採用されていれば奴の部隊は少ない犠牲で華々しい戦果を挙げることができるだろう。歩兵部隊の犠牲の上で……わしは、そんな発想をするヴォガードは信用できないのだよ」
執政官の言葉に父は困惑の表情を浮かべていた。
これから助け合って敵にあたらなければならない味方だ。
気をつけろと言われても困るだろう。
「来年は俺の任期満了に伴う執行官の選挙だ。ヴォガード卿は今の地位にふさわしい野心を抱いているようだが、俺は奴を推薦することができない」
「……」
父は執政官に返す言葉を見出せないようだった。無言のまま、執政官に向かって頭を下げ、テントを後にした。
俺たちがテントを出ると、先に退出したヴォガード卿がテントを出てすぐのところにひとり佇んでいた。
そして、俺たちに視線を送ってきた。
普段穏やかで思慮深いヴォガード卿の表情は、ぞっとするほど暗く、瞳は精気を失いガラス玉のようだった。