軍議
「軍議を開く」
早朝、執政官用に設営された大型テントで、執政官のシモン・シラノは高らかに宣言した。
出席者は六名。
執政官シモン・シラノとその護衛であるイワノフ・コワルスキー大尉(俺の家に伝令に来た灰色の髪の軍人)、騎兵部隊の軍団長ヴォルフ・ヴォガード卿とその護衛ジョニー・メルゲン少佐、俺の父である歩兵部隊の軍団長ジョージ・クラウチとその護衛である俺ケント・クラウチだった。
執政官と軍団長は煌びやかな鎧兜を身に着け、護衛たちも皮鎧を身に着けていた。
昨晩から降り始めた雨は、すでにあがっていた。
「情報収集から戻りましたので、報告します」
ヴォガード卿は柔らかい物腰ながら声に力があった。
「敵の兵力は事前情報どおり約一万、内訳は騎兵千、歩兵八千、その他千、武装はマスケット銃と長槍、野戦砲は二〇台。現在、科学遺跡『宇宙の港』横の斜面に横隊で展開し、我が軍の守備隊五〇〇名と交戦中」
ヴォガード卿は一気に報告すると、傍らのジョニー・メルゲン少佐に視線を向けた。
「何か補足はあるか」
「ありません」
「状況は分かった。作戦案を献策せよ」
太い腕を組んで報告を聞いていたシラノ執政官は、父とヴォガード卿の二人に視線を送った。
「よろしいでしょうか?」
先に手を挙げたのはヴォガード卿だった。
「発言を許す」
「我が軍主力の砲兵部隊と歩兵部隊は、このまま進軍。われら騎兵部隊は別動隊となり、大きく迂回して敵の側面から襲い掛かります」
ヴォガード卿は一端言葉を切り、笑顔を浮かべながら周囲を見回した。
「正面突撃で歩兵による護衛のいなくなった敵砲兵部隊を側面から我が騎兵部隊が殲滅。その後、我が軍主力と騎兵部隊で敵主力の歩兵部隊を挟み撃ちにします」
ヴォガード卿の献策を頭の中で整理して、俺は少し嫌な気分になった。
敵を殲滅するという視点では優れた献策かも知れなかった。
しかし、真正面から敵と激突する我が軍の歩兵部隊はかなりの損害を出すだろう。
「ふむ……、クラウチは?」
「昨晩、雨が降りましたので低地となっている敵正面はぬかるんでいるはずです。我が軍は右翼に騎兵部隊を配置した陣形で敵の左翼から側面攻撃をかけるべく全軍で迂回します」
父はゆっくりとした静かな口調で説明を始めた。
「敵は側面攻撃を嫌い、反時計回りに陣形を変更しようとするでしょう。しかし、ぬかるみに足をとられて行動が遅れるはずです。陣形が崩れる隙をついて、我が軍は砲兵と歩兵、騎兵が連携して攻撃するということでどうでしょうか」
ヴォガード卿の献策の後に聞くと地味な印象の作戦案だった。
だが、地形や天候も考慮に入れ、味方の損耗を抑えつつ、勝利を目指す作戦案だった。
執政官シモン・シラノは太く毛深い腕を組んで、じっと考え込んでいた。