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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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腕比べ

 行軍は二日目に入った。

 風呂に入れないので身体は汗臭く、足の筋肉は情けない悲鳴を上げていた。

 睡眠は小石の転がる土の上で鎧のまま体を横たえるだけなので、ふかふかの布団や肌触りのいいパジャマが恋しくなった。

「そういえば、自分の能力をちゃんと教えてなかったよな」

 夜の見張りの時間、ジョン・リード少尉がそんなことを言い出した。

「サイコキネシスなんだろ」

 俺はすっかりタメ口になっていた。

「ああ、だがサイコキネシスはバリエーションが多い」

「確かに」

「協力して仕事をするにはお互いの能力の長所、短所を知っておいた方がいいからな」

 俺は父である軍団長の護衛だったが、俺だけが軍団長を守っているわけではなかった。

 ジョンは軍団長直属部隊のメンバーであり、父を守る集団の一員だった。

「攻撃力はそう高くないはずだから『障壁』で防いでくれ」

 かがり火に照らされたジョンの表情は真剣そのものだった。

 要領を得ない俺のリアクションはお構いなしに、ジョンは脇に抱えていた赤い兜を被ると、腰に下げていた直径二〇センチほどの金属製の円盤の束を取り外した。

 中心部分が大きく丸い穴になっているドーナツ型で、一枚あたりはとても薄そうだった。

 一体何枚あるのか、わからない。数十枚というところか。

「準備は良いか?」

 ジョンは円盤の束を二つに分け、中心の穴に人差し指を入れて回し始めた。

 太古の投擲武器に似たものがあると習ったことがある。

 チャクラム、円盤の周りが刃物になっていて相手を切り裂くのだ。

《おいおい》

 俺は慌てて『障壁』を形成した。

 火星の夜は暗い。かがり火がなければ、ほとんど何も見えなかっただろう。

「いくぞ」

「おう」

 俺が返事をすると、ジョンは指先で回転させた円盤を投げつけてきた。

 円盤はかがり火の光を反射しながら一直線に俺に襲い掛かってきた。

「?」

 何のことはなかった。

 円盤は俺の胸のあたりで簡単に弾かれた。

 大した威力はなかった。

 恐らく『障壁』を張っていなくとも皮鎧で防げただろう。

「まだまだ」

 円盤はしかし、地面に落ちなかった。

 数十枚に分離し、回転速度を上げながら、俺の周りを包むように浮かんでいた。

「こんなにたくさん同時に?」

 一つあたりの重さは軽いのだろうが、数十の対象を同時に、かつ別々の動きで操る能力は珍しかった。

「気を抜くなよ」

 円盤は俺の周りを素早く飛び回った。

 一つ一つはとても目で追えない。

 そして、俺の首に、手首に、足首に、一斉に襲い掛かった。

 鎧を着ていると言っても、人体の要所要所を守っているだけで全身くまなく覆いつくしているわけではなかった。動かす部分には隙間があった。円盤はその隙間を正確に狙ってきた。

「!」

 円盤は『障壁』に弾き返された。

 しかし、距離をとり、引き続き俺を狙っていた。

「俺の能力の特徴は同時多数操作と持続力だ」

「随分と器用だな」

「それほどでも」

 ジョンは笑みを浮かべた。何かを企んでいる表情だった。

 俺は彼が次の手を打つ前に、この勝負を終わらせようと彼に飛びかかった。

「あ?」

 足元に違和感を感じ、突然景色が逆さまになった。

 いつの間にかロープが地面の上をのたうち、俺の両足を縛り上げていた。

「言ったろ、同時多数操作が得意だって」

 ジョンは得意そうに微笑んだ。円盤は囮に過ぎなかった。

「まったく!」

 俺は『障壁』の表面を見えない刃物に変化させ、ロープをバラバラに断ち切った。

 俺は素早く跳ね起きると、驚きの表情を浮かべるジョンに向かって突進した。

 絡みつこうとするロープをバラバラに引きちぎり、目の前で邪魔をする円盤を手で払って切断した。

「チェックメイト」

 俺は手刀をジョンの首筋にあてた。

 刀を抜いたわけでも、マスケット銃を向けたわけでもなかったが、金属製の円盤を簡単に切断した俺の手刀の恐ろしさは容易に理解できたのだろう。

「ギブアップだ」

 ジョンのひきつった表情に満足した俺は手を下ろした。


 回転しながら漂っていた金属製の円盤たちは、おとなしくジョンの手元に戻っていった。

「……『障壁』の能力だよな?」

 ジョンは少し恨めしそうだった。

「ああ、ただ俺の場合、防御のためだけじゃなくて、『障壁』の表面を変化させて刃物としても使用できる。切れ味は見ての通りだ」

「反則だろ! 金属板を切断できるなら腰の刀はいらないんじゃないのか?」

「いや、刀を持つと攻撃の間合いが伸びるんだ」

 ジョンにしてみれば自信満々でからかったのに、逆にえらい目に遭わされた形だった。

「それにしても凄く器用だよな」

「まあな」

 俺の評価にジョンは少し気分を持ち直したようだった。

「警務部隊とかに向きそうだな」

 警務部隊は平時においては犯罪者を取り締まる軍の精鋭部隊だった。

「そう思うか? 実は自分は警務部隊志望なんだ」

「へえ」

 悪を懲らしめる警務部隊の隊員は、様々な創作物で正義のヒーローとして描かれることが多かった。

 ジョンにさわやかな笑顔が戻っていた。

 俺も笑顔を返そうとして、頬に冷たい水の気配を感じた。

「雨か?」

 ジョンと俺の表情はみるみる曇った。

 雨粒は次第に量を増やし、激しい音として認識できるようになった。

「雨だぞ!」

 野営の身に雨はこたえる。 

 兵士たちは次々にはね起きて荷物の中から防水用の大きな布を出し、自分の体に巻きつけ始めた。

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