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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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行軍

 軍議から一時間後には、俺たちは国境に近い科学遺跡『宇宙の港』へと出発していた。

 戦力は合計一万人。

 内訳は、歩兵部隊六千人、砲兵部隊一千人、騎兵部隊二千人、補給部隊一千人だった。

 全体を統括する最高司令官はシラノ執政官だったが、歩兵部隊はクラウチ軍団長、騎兵部隊はヴォガード軍団長が率いていた。

 『宇宙の港』は地球の文明が健在だったころ、火星と地球の間を往復する『宇宙船』が発着するための拠点だった。

 『宇宙船』を発進させるための『電磁カタパルト』という名の天に向かって斜めに伸びる長大な金属製のレールや着陸のための長い滑走路、鉄とコンクリートでできた五階建ての巨大な建物などが集まった遺跡だった。建物内には今の技術では製造できない精密機械が大量に残されていた。

 戦場の詳しい状況がわからないため、騎兵部隊が先行し情報収集を図ることになった。

 本来、敵の兵力が一万人なら、こちらはそれ以上の戦力を用意すべきであったが、限られた時間で動員できる戦力には限りがあり、敵と同程度かそれ以下の戦力での出陣だった。

 ゆっくりと時間をかけて準備するというのも一つの選択肢ではあったが、ぐずぐずしていると科学遺跡の守備隊が敵の攻撃で全滅し、みすみす敵に拠点を奪われる恐れがあった。


 俺たちは小石の転がる赤い荒野を三列縦隊で行軍していた。

 歩兵部隊ではあるが、軍団長である父だけは騎乗していた。

 銀色の兜は、顔面を露出させ、頭部だけを覆うシンプルな構造で余計な装飾物はついていなかったが、植物をモチーフにした繊細な彫金が施されてた。

 そして兜からはみだした金色の長い髪が肩を覆い、風になびいていた。

 皮鎧に装着された金属プレートも銀色で兜と同じデザインの見事な彫金が施されていた。  

 戦場で目立つことは敵の格好の標的となり、危険なことだったが、父の立派な鎧兜姿は大柄で筋肉質の身体と相まって見る者に安心感を与えていた。

 一方、俺は赤茶色の皮鎧に身を包み、父の少し前を歩いていた。

 俺の能力は『障壁』であるため、通常の兵士ならば装着している赤い金属プレートは胸や背中から外してあり、兜も被っていなかった。

 その分軽くなり行軍が楽になるはずだったが、水筒や携行食料、火薬と言った個人装備はそれなりの重さで、何時間も歩き続けるのは慣れない身にはかなりこたえた。

 冷涼な火星の気温でも汗が吹き出し、湿気が鎧の内側にこもって不快感にさいなまれた。

 俺は身分こそ士官であったが部下はおらず、軍団長直属の護衛役という扱いだった。

 そのため、軍団長直属の部隊と行動を共にしていた。


 黙っていると気が滅入るので、兵士たちは思い思いに無駄話の花を咲かせていた。

 上官も問題がなければ私語を黙認していた。

「俺は、建国の英雄サイコキネシスのマイクの生まれ変わりだ」

「奇遇だな、俺もそうだ」

「おれもだ」

 アレス共和国はマーズ連邦から自由を求めて逃げてきた能力者によって建国された。

 建国の中心となったのは四人の英雄で、サイコキネシスのマイク、テレポートのシャオロン、テレパシーのシルビア、そして忌まわしき能力のゲオルグと言い伝えられていた。

「サイコキネシスのマイクは大人気ですね」

 俺も身近にいた若い士官に話しかけていた。

 長身で均整がとれ、背筋のピンと伸びた男だった。左脇に赤い兜を抱えていた。

 くすんだ色の金髪を短く刈り込み、さわやかな雰囲気を漂わせていた。

 何の変哲もない銃剣のついたマスケット銃を背負っていたが、腰には見慣れない金属製の輪やロープを下げていた。

「特にうちの部隊はサイコキノが多いからな……自分もそうだ。自分の名はジョン・リード、君と同じ少尉だ。タメ口でいい。君は?」

「俺は、ケント・クラウチです」

 タメ口でいいと言われても急に口調を変えるのは難しかった。

「クラウチ……軍団長の息子か?」

 俺のファミリーネームを聞いたジョンの表情は権力者の親族に媚びるものではなく、嫌悪感すら感じられた。

「はい」

 しかし、俺はそんな反応の方が嬉しかった。俺自身、親の七光りは嫌いだったからだ。

「入隊早々、軍団長の護衛を務めてるんだよな。どんな能力なんだ」

「『障壁』です」

「それは確かに珍しいな。どの程度の攻撃まで防ぐことができる?」

 サイコキノは物を持ち上げ、投げつけるという形で能力を発動することが多かった。

 実は俺の父親もそうだ。

 違いはどれくらいの重さのものまで持ち上げられるのか、どのくらいの速さで投げつけることができるのか、同時にいくつ操ることができるのか、などだった。

 俺のように『障壁』を形成したり、俺の母親のように細胞を活性化させる能力は珍しかった。

「至近距離でのマスケット銃での銃撃や、刀での斬撃がしのげます」

「ほう……試してみたいな」

 ジョンは目を細め、凄惨な表情を浮かべた。

「いいですよ、試してみても」

 俺は思わず嬉しそうな表情を浮かべていた。

「大した自信だな……疑って悪かった」

「いえ」

「まあ、そのうち試させてくれ」

 なんだ、やっぱり試すのかと思いながら、笑顔を浮かべる俺にジョンは笑顔を返した。そして、話題を変えた。

「ところで、建国の英雄ゲオルグの忌まわしき能力って、なんだろうな?」

「気になってるんですか?」

 そんなこと考えたこともなかった。

「ああ」

「発火能力とか? サイコメトラーとか?」

 俺はとりあえず思いついたことを言ってみた。

 せっかくの会話を途切れさせたくなかった。

「ちっとも忌まわしくないだろ」

「そうですね」

「それに発火能力はサイコキネシスの一種だし、サイコメトラーは精神感応の一種だ」

「じゃあ、ネクロマンサー、死霊使いのような能力ですかね」

「それは確かに怖いな、今までそんな能力者に会ったことはないが」

 俺たちは、まるで昔からの知り合いのように無駄話を楽しんでいた。

「ゲオルグについては、ひとりで全部の能力を持っていたって話もあるぞ」

 近くにいた別の兵士が俺たちの話題に乗ってきた。

「はあ? 能力は一人一つだろ」

「それが常識だが、ゲオルグが振るう能力は言い伝えによって違ってくるんだよな」

「言い伝えが適当なんじゃないのか? しょせん言い伝えだし」

 行軍初日は、こうして無駄話をしながら何ごともなく過ぎていった。

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