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復讐のインテリジェンスソード  作者: 川越トーマ
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 しばらく周囲を窺っていたパクは、俺に気付いた。

 パクは馬を降りると、ぬかるみに足をとられながら近づいてきた。

 近くで見ると、汗と赤い土ぼこりにまみれ、濁った目をした頭の悪そうな男だった。

 パクは俺をつかんで赤い泥の中から引き抜くと、マオの方を振り向いて叫んだ。


「見ろよ、マオ兄貴、刀だ。上級貴族が護身用に使うようなやつだ」


《汚い手で俺に触るな!》

 パクの湿った手のひらに生理的な嫌悪感が走った俺は、一瞬、心の中で叫び声をあげた。

 しかし、パクがテレパシスト(テレパシー能力者)であることを思い出して、慌てて『思念波』を遮断した。

 俺は能力で『障壁』を周囲に巡らせることができた。サイコキネシスの一種だ。


 しかし、俺に関しての重要な事実は能力の方ではなく、俺が『刀』だということだった。

 比喩でも何でもなく、柄頭から鞘の先端までで一メートルを超える両手持ちの反りのある片刃の刀だった。

 太古の地球で使用されたサーベルや日本刀といった種類の刀と同じような形状の刀だ。

 鞘は黒く木製で、表面は腐食防止のための薄い金属で覆われており、鞘の先端は少し厚めの銀色の金属板で補強されていた。

 柄には滑り止めのために黒い組紐を巻き付けてあり、大きめの鍔と柄頭の間には、相手の刀から持ち主の指を守るためのナックルガードがついていた。


 俺も生まれた時から刀だったわけではない。

 最初は人間だった。

 自分で言うのもなんだが、若く、希望にあふれ、能力にも恵まれていた。

 しかし刀に魂を封印され、死ぬことも生まれ変わることもできず、無為に日々を送っていた。


 胡散臭い二人の男に嫌悪感を抱いていた俺は、『能力』を駆使してパクの手を払いのけようかとも考えたが、思いとどまった。

 こいつらを利用すれば、少なくとも身動きできない忌々しい今の状況からは解放される。俺の願いが、ようやく叶ったのだ。


「しかし、随分地味な拵えの刀だな。おめえの言う通り上級貴族の持ち物なら、宝石の一つぐらい装飾についていてもいいはずだろ」

 マオは、馬にまたがったまま、俺を握ってるパクに冷ややかな視線と言葉を送った。

「宝石はついてませんね。金銀の類も使ってねえ」

 パクは締まりのない脂ぎった顔についた小さな目で、なめ回すように俺を見た。

《この刀は儀礼用ではなく実戦用だからな。上級貴族の持ち物なら何でも金銀財宝を使っていると思ったら大間違いだ》

 俺は侮蔑の感情を男たちに抱いた。

「パク、ちょっと俺に貸してみろ」

 馬にまたがったまま、マオは、痩せた顎を横柄にしゃくった。

 ガラス玉のような感情の欠落した気持ちの悪い目つきをしていた。

 二人ともアレス共和国軍の皮鎧を着ていたが、階級章や名札は、はぎとられていた。

 現役の軍人ではない。脱走兵、あるいは野盗、そんなところだろう。


 パクは泥に足をとられながらマオに近づくと、刀を差しだした。

 マオは片手で刀を受け取ると鞘から抜き放った。

 陽の光を反射して刀身が煌めいた。

「いい刀だ。沼の底に突き刺さっていたくせに、サビ一つない」

 マオは、刀身に見入った。

 片刃で刃渡りは八〇センチ、細身で肉厚、反りがあり、切っ先は鋭い。刺突にも使える形状だった。

 刀は頑丈さと切れ味を追求した合金製で、鞘ともども特殊な防錆加工を施してあった。

 マオは、刀を鞘に納めると、当然のように自分の腰にさげた。

「マオ兄貴、大丈夫ですか? その刀、俺が触った瞬間、とても嫌な感じがしたんですが」

 『思念波』をすぐに『障壁』の能力で遮断して正解だった。

 パクは一瞬だけ放った俺の拒絶の感情を読み取っていた。

「テレパシストとして何か感じたのか? それとも、お前、この刀が欲しくてそんなことを言ってるのか?」

 マオの目がすっと細くなった。

「ち、違います、兄貴」

 パクは、額の汗をぬぐいながら慌てて否定した。恐らく言外の危険な感情も読み取ったのだろう。

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